お題「灼熱の弟」15分・未完
やりたいことをやって、たまたまそれが社会の役に立てば儲けもんだよ。兄さんはそう言った。いいや私はかならず役に立つと決まっているものしか取り組みたくないね。弟はそう言った。間で僕は途方に暮れている。とほほ。あまりにも二人の間には和解が見えない。
暖かい日差しをもたらす太陽は僕なんかが近づきすぎると一瞬で消え去ってしまうくらい強い。弟はそういう、太陽みたいな人だった。もしくは7月の雪。溶けそうなのに消えていない。いつか燃え尽きそうなのに耐えている。
兄さんは弟に言った。じゃ何がやりたいんだ君は。弟は答えた。役に立つこと。なんでもいい。社会問題の解決とか経理とか。なんでもいいよ。がむしゃらに何かやる。とにかくやるよ。彼は叫ぶように言った。
「じゃあなんで万引きなんかしたんだ。」
兄の声が聞こえた。急に鮮明に、ピントが合うように、僕はハッと顔を上げた。弟を見る。弟は眉を顰めている。そして俯いた。
「これが社会の役に立つのか。これがお前のやりたかったことか?」
兄の声は震えていてしかし強く、悲しい鉄板のようだった。業火で熱せられる鉄板。何も罰したくない鉄板。
弟はやはり俯いて何も言わなかった。
僕も何も言えなかった。
警察に呼ばれて僕ら兄弟が駆けつけた帰り道、その兄の言葉を最後に僕たちは一言も話さなかった。弟がそのドラッグストアから盗んだのはマスカラと小さな個包装のクッキーだった。彼に必要があるとは思えないものだった。彼は化粧をしないし、甘いものも嫌いだと聞いていた。
僕は一人で考えていた。弟は、ただ万引きをするために万引きをしたのか。よく聞く話だ。スリルを求めて犯罪をする。でも弟がそんな奴なのか。この弟が?
僕は弟のことをよく知らないのだとようやく気づく。なんで、こんなことを。前を歩く二人の背中は丸まっていた。
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