ランダムお題執筆練習ログ

魚pH

お題「理屈のシェア」15分•未完

基本的に批評というものが俺は嫌いだ。俺にはそれらが机上の空論、絵に描いた餅、屍になった魚にしか見えない。しかし批評をするような奴らにこれを伝えるには俺も机に乗った奴らと共にまな板の上に横たわり捌かれるのを待つしかないから困る。つまり理屈を組み立てて言葉にすること。それができないと奴らは取り合っちゃくれないのだ。


奴ら、というか、奴、だ。

「おはよう、西山くん。」

と声をかけてくる俺の同僚、東雲サハラ。彼女はいつも理屈をこねている。新卒で入社したときなんとなく席が近かったから昼飯を一緒に食べないかと声をかけ雑談していたら偶然同じ映画が好きだとわかり、なんとなく意気投合してしまった。そこまではよかったのだが、付き合いを続けるうちに彼女とは映画の楽しみ方が違うとわかってきたのだ。俺は映画を観ても、正直、なんか楽しかったな、くらいしか思わない。いや正確には色々思っている気はするのだが、わざわざそれを言葉にして組み立てたりはしないし口にもしない。しかし彼女は、なんたらの思想がとかなんとかの監督の影響がとかいろいろ言っている。俺にはよくわからない。同じ映画を観た帰りも俺が聴き手に回り、彼女が語る。それも俺の反応が芳しくないのを見て悟ったのか次第に彼女はあまり語らなくなった。

俺は正直、安心してしまった。


ある日、映画帰りの喫茶店で彼女が言った。

「映画、好きか?」

俺はもちろん、と答えて、しかし目を合わせられなかった。

「ならいいんだ。」彼女はそこで黙った。

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