第26話 街道都市ラルへ
「ところで、だ。そこに飛んでいる羽虫は一体何者だ?」
皆の気持ちが一つにまとまり、これからっといったところで崇徳童子が羽虫――シルフィードに気付く。
「あ、やっと気付いてくれた」
シルフィードは両手の指を絡ませ、猫撫声を出しながら崇徳童子へ擦り寄って行く。
「あなた様が崇徳童子様ですね。お話しする機会をずっと待ってたんですよ!」
「俺と話を?」
眉間に皺を寄せ、どういう意味かとアオガラに視線を送るがアオガラは静かに首を横に振るだけである。
「ふむ。お前達はこいつを知ってるのか?」
崇徳童子の視線は一平と丈二に向けられる。最初に口を開いたのは一平である。
「俺はこいつのせいで頭がおかしくなりかけました」
シルフィードが驚きの表情を浮かべると小さい全身から汗を吹き出す。そんなシルフィードを気にすることなく、イガグリ頭となった丈二が続いて口を開く。
「あれ? なんでこいつここにいるんですか? 確か敵でしたよね?」
「――えっ!?」
見る見る内に青ざめてゆくシルフィード。しまいには全身を真っ青にして翅の動きを止めようといている。
「羽虫よ。皆は敵だと言っているが本当なのか?」
いつのまにやら崇徳童子の右手には黄金色に輝く雷が握られている。その眼光は鋭く、雷の矛先をいつ向けられても不思議ではない。
「ちょ、ちょっと待って! 六つ首の話を包み隠さずしたじゃない。それに、私、貴方達の仲間かもしれない情報もたくさん持っているのよ。コーツの巨大なスケルトンだったり、ヴィナの背後から襲うアンノウン、それにラルヘの毛むくじゃらだって知ってるんだから」
「……毛むくじゃらだと?」
「そうよ。夜更けにラルヘの街道を歩くとどんな健脚の持ち主だって必ず転ばされる。そして、恐怖で動けなくなっているところを毛むくじゃらが荷物を奪うのよ」
「羽虫、今の発言に嘘偽りはないのだろうな?」
「う、嘘なんて言わないわ。っていうか私は羽虫じゃなくてシルフィードって名前があるの!」
「ほぉ、羽虫。話次第では諜報役として仲間にしてやっても良いぞ」
「だからぁ! シルフィードだってばぁ」
全身を青く染めていたシルフィードはいつの間にやら全身を赤く染め、崇徳童子へ怒りをぶつけるのだった。
※
街道都市ラルヘ
山の斜面に広がるのは果樹園である。乾燥した気候と四季の寒暖差を活かしたデポンがよく取れる。また、海路から運ばれてきた乾物や貿易の品々を運ぶ陸路としてもコーツは名が知れている。
「で、羽虫よ。この街のどのあたりに毛むくじゃらとやらはいるのだ?」
「街道から外れた宿屋付近で良く目撃されてるわ。っていうか羽虫じゃなくてシルフィードよ!」
街道を歩くのは崇徳童子とシルフィードの二人である。今回の旅には三太も参加を希望したのだが、先日のダンジョン探索で四人の精神感応耐性が低いと判明し、アオガラによる特訓がなされると決定したのだ。
「ねぇ。コーツも広いし、もう一人くらい誰か連れて来ても良かったんじゃないの?」
「それはできぬ相談だ。帰る頃には一人前の術氏になるようにアオガラに頼んだ。奴らには早急に強くなってもらわなくては困る。それに……この旅は俺一人で十分だ」
「一人ね……まぁ崇徳童子ならなんでもできちゃうんでしょうけど」
崇徳童子の含みを持たせた言葉を気にしつつ、崇徳童子とシルフィードは目的の宿屋街に向かう。
数時間も歩くと建物が立ち並ぶ一角へとたどり着く。数十は立ち並ぶ木造の広い建物。この全てが街道の旅客が止まる為の宿屋なのである。
例の毛むくじゃらはこの建物群の奥の奥でよく見かけるらしい。崇徳童子とシルフィードは事前に確認していた情報を元に建物の奥へとさらに足を運ぶ。
さて、話は変わるが崇徳童子の現在の身長はおおよそ百二十センチほどである。魔力こそ戻ってきているものの、見た目は十にも満たない片目を隠した子供である。街中の広場で見かければ子供と妖精が和気あいあいと話をしているように見えるだろう。しかし、建物の影で死角が増えるこの奥まった場所では危険と言わざるえない状況である。
そんな状況の中、二人が奥に向かい歩いているとシルフィードが翅を素早く動かして崇徳童子の耳元へと向かう。
「崇徳童子、気付いてる?」
「あ? 何をだ?」
「えっ! 気づいてないの? 貴方本当に強いのよね!?」
崇徳童子がニヤリと口角を上げるとシルフィードだけに囁く。
「フッ! そんな不安そうな表情をするな。とっくに気付いている。 ひぃ、ふぅ、みぃ――――じゅう。短剣に、お粗末なブロードソードか……」
崇徳童子が足を再び止めて笑みを浮かべると周囲に姿を隠していた盗賊が姿を現わした。
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