第17話 ビャオイエジャの森
ビャオイエジャの森
陽が高い時間とはいえ、森の中ではそこかしこで魔獣や魔鳥の鳴声が響き渡る。そんな中、アオガラを先頭に四人の冒険者が獣道を進む。
「アオガラさん、そろそろどこに向かっているのか教えて頂けませんか?」
こらえ性のない丈二から声が上がる。以前のようななりふり構わない態度ではないが、生来の性格なのであろう。気になって気になってしょうがないと顔に書いてある。
「ゲオルクの話を聞いていなかったのか? ビャオイエジャの森に入ってすぐの湖に行くと話していたではないか」
「もちろん聞いていました。俺達もビャオイエジャの森はそれなりに知っているつもりです。しかし、湖の近くに要石などというものがあるとは聞いたこともありません」
アオガラは少し困った表情を浮かべると足を止め、丈二へと振り向く。
「……うむ。もう少しで目的地に着く。拙者の話を聞くより見た方が早い」
森の中ほどまで歩くと空気の肌に当たる感触が心地良い、空気の中に大量の水含まれているようだ。目の前にはビャオエイジャの湖が視界いっぱいに広がっており、湖に住む生物があちらこちらに大小の波紋を作り存在をアピールしている。
「いつもの湖ですね。特に変わった様子もなさそうです……おや?」
丈二が眼を更に細くして湖の中心にある離れ小島を見る。小島には見知らぬ数人の者達がたむろしている。その統一感のある装いから同業者の冒険者ではなく、国、あるいはどこぞやの組組織に属している者のようだ。
「あいつらは一体? んっ? いや、我々の目的は要石。あの場所に要石があると? いや、以前この湖に来た時はあのような離れ小島はなかった」
「うむ。お主が言った通りあそこにあのような場所はなかった。数日前に湖底が隆起しあのような小島ができたのだ。しかも、あの小島の中心には自然発生したダンジョンがあるらしい」
「ダンジョン!?」
世界に無数に存在するダンジョン。もちろんジノヴァ王国にもダンジョンが存在する。しかし、自然発生したダンジョンを発見した際はその価値、あるいは危険性の高さから王国の直轄に置かれ、安全が確認がされた後にギルドに解放されるのが通例であった。
「あいつらは国の兵士ではないのですか? 崇徳童子さんの存在を公にするわけには行きませんし、ここで俺たちがしゃしゃり出るのはヤバクないですか?」
「まぁな。ただあの場にいる兵士たちは末端の兵。しかも、拙者の知り合いだ」
丈二は眉根を寄せ、しばらく頭の中で考えを巡らせると何かを思いついたようだ。
「ノーウェル達と話していたのはこの件だったのですか?」
「ああ。根回しと冒険者は切っても切れないものだろ。ということで、ジノヴァ王国がこのダンジョンを見つけるのは一週間後。このダンジョンはまだ誰にも見つかっていない」
三人が手際の良さに感心すると、アオガラも満足そうに笑みを浮かべる。アオガラがダンジョンの入口を見張る兵士達に手を上げる。
「待たせたな。俺がアオガラだ」
兵士達はアオガラの巨体を見ると何かを納得したようだ。
「ああ。話しはノーウェルから聞いてる。俺たちは何も見ていないし、聞いてもいない。このダンジョンは約束通り一週間後に報告するぜ」
「助かる」
「しかしなぁ。本当にこの先のダンジョンに足を踏み入れるのか?」
「無論だ。何か問題でもあるのか?」
兵士たちが言おうか言うまいか迷っていると暗闇が広がるダンジョン入口から声が聞こえる。
オォォォォォォォォン
心臓を鷲掴みにされるような不安を掻き立てられる声。まるでアンデッドの巣窟から聞こえてくる声のようだ。
「ひっ! ア、アオガラさん本当にこのダンジョンに入るのですか?」
「ハッハッハッ! 当たり前じゃないか。虎穴に入らずんば虎子を得ずとな」
笑い声をあげながらアオガラがダンジョンの中へと入ってゆく。兵士達は用意していたであろう探索用のバックパックをそれぞれに渡すと最後尾につくコランダへ声をかける。
「お前たちも大変だな」
兵の同情する声にコランダは何とも言えない表情を浮かべると顔を青くしながらアオガラの後に続いた。
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