第16話 ギルド会館

「よお!」


 リーダーのノーウェルが中折れ帽の鍔を上げると金色の長髪が揺れる。


「アオガラ! 元気そうだな!」


 笑みを浮かべながらアオガラに手を上げるのは魔術師のドラド。盗賊のサミも同様に笑みを浮かべている。


「目的は果たせたようだな?」


「ああ。世話になったな。感謝する」


「それで、頼んでいた件も問題ないか?」


「金をもらっているんだ仕事はしっかりさせて貰ったぜ!」


 ノーウェルが歯をむき出しにしてアオガラに笑顔を向けると、ドラドがアオガラの後方に魔術師の三人の男を見つける。


「なるほど。噂は本当だったということか」


「噂?」


 コランダが前に出るとドラドを睨む。


「おいおい睨むなって。別にお前たちを馬鹿にしたり害を加えたりしようとしているわけでは無い」


「だから、噂って何だって聞いてるんだ」


 ドラドは一瞬だけ躊躇したがコランダの耳元に顔を近づける。


「忌物と関係があるってな」


「――!?」


 ドラドは真剣な表情に戻り距離をとるとコランダに背を向けアオガラに向き直る。


「安心してくれ。俺たちはお前に借りを返したかっただけだ。どうこうしようとするわけでは無い」


「うむ。恩に着る」


 続いて盗賊のサミが前にでるとアオガラを覗き込むように顔を見上げる。


「アオガラは恩人で友人。私達も役に立てて本当に嬉しい! 私達に出来ると事は少ないけど何かあればすぐに言ってね!」


「うむ。お前たちも何かあれば拙者に言ってくれ」


 サミが白い歯を出し、笑みを浮かべるとドラドとノーウェルに合流する。


「コランダ! 貴方達の良くないうわさも聞くわ。アオガラに迷惑をかけないようにね」


「うるさい! どんな噂か知らんが俺たちも恩人に後ろ足で砂を掛けるような野暮なことはしない」


「なら良かった」


 サミ、ドラド、ノーウェルの三人は再びアオガラに手を振るとその場を後にした。


 ※※※


 ギルド会館


 育ちに育った二つの果実を胸に付けた美人がいた。ギルド会館の看板娘である。しかし、彼女が通常の冒険者をもてなすことは少ない。その美貌は一部の特別な冒険者の為に存在するのだ。


 そんな、ギルド会館看板娘のソフィは扉を潜るように入ってきたアオガラを見ると勢いよく立ち上がる。


「アオガラさん待っていました!」


 満面の笑みを浮かべアオガラを歓待するソフィ。後ろから付いて来るコランダ達には目もくれずに奥の応接間へアオガラを案内する。


「ちょっと! コランダさん達はここから奥には入れません!」


 先ほどとは打って変わって険しい表情を浮かべるソフィ。あっけにとられるコランダ達をよそにソフィが行方を遮る。しかし、そんなやりとりを見てアオガラが申し訳なさそうにソフィに声を掛ける。


「こいつらも関係者だ。難しいというなら場所は奥でなくても良い、四人一緒にしてくれ」


 アオガラの口調は穏やかであるが無視できない重圧を感じる。


「と、とんでもない。もちろん一緒で構いませんよ。どうぞ、どうぞ!」


 百面相のようにクルクルと表情を変えるソフィを見て、丈二と一平が揃ってあきれ顔をすると二人だけに見えるようにソフィが舌打ちをする。


「なっ! お前――」


「さっ! 皆さん。お茶の用意もございます」


 奥の応接間は最低限の調度品が置かれている。部屋の中心にはやや大きめのテーブルにアオガラの巨体でもびくともしない造りの良い椅子が人数分置かれている。その一つに白髪に眼帯を付けた品のよさそうな初老の男性が腰を掛けていた。


「アオガラ、久しぶりだな。よく来てくれた」


「ゲオルクも変わりないようだな」


 ゲオルクは腰を浮かせ手を伸ばすとアオガラも手を握りそれに応える。


「それで、今度は後ろの三人の面倒を見ているのか?」


 眼帯をしてない目で覗き見るようにコランダ、一平、丈二を見る。


「不良魔術師どもか、もう一人姿が見えないようだが……」


 コランダ達とゲオルグは面識は無い。ゲオルグが自分たちを把握しているのに驚き、コランダが間の抜けた表情をしているとゲオルグがクツクツと笑いだす。


「なるほど忌物絡みか……。そうか、そうか、アオガラは忌物に縁のある者であったか。ということは要石も忌物と関係があるのだな」


「まぁそういうことだ。できるならこれ以上の詮索は遠慮願いたい」


「もし、できぬと言ったら」


 瞬間、喉元に剣を突き付けられたような緊張感が部屋を支配する。ゲオルグが発した眼力か、はたまたアオガラの発した圧力かは定かではない。しかし、コランダ達三人は呼吸ができないほどの緊張状態を強いられる。一触即発の緊張感が爆発する寸前――


「ガッハッハッハッ!」

「ハッハッハッ!」


 ゲオルグが後ろへ大きくのけ反りながら大口を開け、アオガラは手を叩きながら涙を流す。


「すまぬ、すまぬ。不良魔術師どもの反応があまりにも面白くてな、つい意地悪をしてしまった」


「まったくだ。拙者まで付き合わせるのは止めてもらいたい」


 三人は張り詰めた空気が瓦解するのと同時にゆっくりと呼吸を始める。何か言いたげな表情を浮かべているが頭が追い付かないのか口をパクパクするだけで言葉を紡ぐことができない。


「ギルドとしては我々に不利益がなければなんでも構わない。ましてやアオガラは翡翠の称号を持つレジェンド級の冒険者。我々もできうる限りの協力するつもりだ」


「うぬ。こちらもできうる限りギルドに貢献するつもりだよろしく頼む」


 再び時が動き始た室内に扉をノックする音が響く。


「紅茶をお持ちしましたぁ」


 主張の激しい双丘を揺らしながらソフィが室内へと入ってくる。先ほどまでの剣吞な雰囲気から打って変わって室内は御茶の間の団らんかというほど和やかな空気が流れる。


 呼吸を取り戻し、落ち着いたコランダが口を開く。


「ついていけない」


 その後、ゲオルクの説明が始まり一通りの説明が終わると穏やかに解散となった。

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