第15話 忘れましたかな?
半分ほどの大きさとなった崇徳童子が腕を組み、頬を膨らませる。その様子だけをみれば駄々をこねて大人を困らせる子供に見えなくもない。
「クソッ。どいつもこいつも」
「きっと魔力が回復すれば姿も元に戻るでしょう。敵が攻めて来るわけではありませんし急がなくて良いでしょう」
崇徳童子は再び頬を膨らませるとアオガラを見上げる。
「で、蒼坊主。お前は何をしにここに来たのだ?」
「蒼坊主ではありません。今の拙者はアオガラと名乗っています」
「……アオガラ。あのネズミ共はお前の仲間か?」
「仲間? ノーウェル達ですかな? 仲間……というより友人ですな。拙者の願いで彼らは動いたのです。殺したり、危害を加えるのは止めて頂きたい」
媚びるわけでなく、威圧するわけではない。笑みをふりまきながら崇徳童子に語りかける。
「分かっている。奴らには害意がなかったからな」
「配慮に感謝致します」
「それで、お主はここに何をしにきたのだ?」
「おや? 転生して勘が鈍くなったのですか? 私を仲間に誘ったのを忘れましたかな?」
「今世で誘ったつもりはないのだが……」
「では」
アオガラが巨体を折りたたみ膝を曲げると背筋を伸ばす。崇徳童子はその様子を見て複雑な表情を浮かべる。
「崇徳童子殿に仕わせて頂きたい。以後、よろしくお願い致します」
「う、うむ。よろしく頼む」
その後、封じられた門が三日ぶりに開く。中からは子供に戻った崇徳童子とその背を押すアオガラ。コランダ達四人は最初こそ驚いた表情を浮かべたが、崇徳童子を温かく迎え、崇徳童子も自分を受け入れた四人の様子を見て不機嫌そうに笑みを浮かべた。
※※※
「ちょっと外にでる」
「危ないですよ〜。私もついていきます!」
居心地の悪くなった崇徳童子が砦の外へ出ようとするとその後をニコニコしながら三太が追いかける。三太は崇徳童子の恥ずかしがる顔を上から覗き見てどこか満足そうだ。
「可愛くなっちまったなぁ」
「あそこまで変わるとはな」
「予想に反して積極的だな」
男三人が呆けた表情を浮かべて崇徳童子と三太の後ろ姿を見守る。
「な、なんだ三太? 俺は一人で考えごとをしたい。ほっといてくれ」
「崇徳童子さん赤くなってる。可愛い! 魔物に襲われたらどうするんですか? 私だって冒険者ですよ魔物くらい追い払えますよ!」
「くっ。分かった。だが距離が近い! 顔を近づけるな」
薄っすらと頬を赤める崇徳童子を見てアオガラが笑い声を上げる。
「うむ。崇徳童子殿にはとあるミッションをこなして頂きたかったのだが……この様子では難しいか。よしっ! 崇徳童子殿の面倒は三太に任せ、拙者達でギルドに向かおう。コランダ、協力を頼みたい!」
「了解しました。それでは三太を除いた三人でお供します」
森の奥深くに似合わない子供と、その子供を追いかける距離の近い女を残し、急ごしらえの四人組パーティーはギルド会館へ向かうのであった。
〜〜〜
「崇徳童子殿はお前たち三人を仲間と言った。ということは拙者もお前たちの仲間というわけだ。ガッハッハッ!」
ギルド会館の道中、一際大きな声を響かせアオガラは笑みを浮かべた。砦に現れた時はあまりの大男に驚いたが顔だけを見れば優しそうな表情をしている。左右を刈り上げ、頭の中心に集めた髷も表情の砕けた笑顔と共に見れば愛嬌があるように見える。
そんなアオガラに圧を受けながらコランダが口を開く。
「しかし、崇徳童子さんは本当に俺たちを仲間だと思っているのでしょうか? 身体の薬を抜いてもらい感謝してますが、俺たちは元々崇徳童子さんを地下競売に売っぱらちまおうとしたんですよ。そんな相手を簡単に信用してくれるんですか?」
「それはそれだ。丈二の頭を見ればわかるであろう。禊は済んだ!」
丈二が少し伸びたこげ茶の髪を撫でる。不揃いに生えた短い髪は成熟する前のいがぐりのようである。丈二がバツの悪そうな笑みを浮かべると再びアオガラがガハハッと声を上げる。
「そういうものですか」
「うむ。そういうものだ」
ギルド会館への道中は進む。もう半時もすればギルド会館に付くというところで赤髪の一平が目を細めてアオガラに質問する。
「俺も崇徳童子さんには感謝しています。アオガラさんと共に依頼を受けるのもウエルカムなんですが……でもこれからな何をしようとしてるんですか? 金を稼ぎに向かうというわけではなさそうですが」
「ふむ。お前たちは崇徳童子殿がなぜこの世界に転生したか聞いているのか?」
「いえ、あの様子ですし……崇徳童子さんは自分の事をあまり語ろうとしません」
「そうか。ならば私の口から言うのは野暮というものだ。いつか話してくれるまで待つがいい。さて、それではギルド会館に向かう目的を伝える。金、人、崇徳童子殿の野望達成の一石三鳥案件だ。お前たち、遺物の
「御座石? 私達も遺物を多少は知っていますが聞いたことないですね?」
「ふむ。この世界ではキーストーンなどと呼ばれているようだがな」
キーストーンというキーワードが出てコランダが何かを思い出したように両手を叩く。
「キーストーン、キーストーン! 聞いたことがありますぜ。遺跡を守る石、あるいは遺跡の中枢を担うみたいな意味合いだった気がします」
「うむ。そのような存在で概ね合っている。ただ、我々妖怪にとっての御座石は少し趣が異なる」
「趣ですか? どのように?」
「まぁ行けば分かる。ついてこい!」
視線の先にギルド会館が見えてくる。建物の前には手を振る三人。コランダ達は見覚えのある三人を記憶の中から呼び起こしつつ、三人組に向かって歩き進めた。
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