第11話 ジャイアントトレント

 巨大な枯れ木をつなぎ合わせたような凹凸のある質感。枝にはびっしりと葉が詰まっている。太陽の光を全身で受けながら時折ワサワサと葉をざわめかせている。


「この距離ではこちらを探知できないようですが射程内に入れば襲いかかって来るでしょう」


「この距離から俺の術を撃っても良いがそれだと被害が広がる。それにネズミに余計な話をされても困るしな」


「ネズミ?」


 三太が首を傾げるがオーガルトは取り合おうとしない。ジャイアントトレントに近づくため崖を降りられる場所を探し始めている。


「行くぞ! ギリギリまで奴に近づく」


 コランダと三太が頷くとオーガルトの後に続く。


「コランダさん? オーガルトさんがネズミと言ってましたが誰かにつけられているのでしょうか?」


「盗賊や狩人なんかに後をつけられれば俺達では気配を察知するのは難しいだろ。あの鎧だ、何か良からぬことを考える者もいるかもしれない」


「確かにあの鎧が原因かもしれません。迷惑な話ですね」


「お、おい。オーガルトさんにこちらの話は筒抜けだと言ったはずだぞ」


「あっ!?」


 サンタが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるとオーガルトの無機質なマスクがこちらにむけられる。


「ひっ!」


「後で謝っておけよ。それより体調は大丈夫なのか? さっきのお前の顔、ただごとではなかったぞ」


「……痛みはありますが、またアンダークラウンを使えば痛みは抑えられます。なので早くあのでかいトレントを倒してお金をもらいましょう」


「ああ。本当に無理はするなよ。いざとなれば俺が街までお前を連れてってやるからな」


「コランダさんは心配症ですね。大丈夫ですよ。それにほらどうやらジャイアントトレントの間合いに入ったようです」


 コランダの視界にオーガルトが立ち止まっている姿が目に入る。視線の先のジャイアントトレントを睨みつけている。


「そうだな。とりあえずは戦闘に集中しよう。話はそれからだ」


 ※※※


「オラ! オラ、オラァァァァァァ!」


 トレントの両腕に生い茂る葉が見る見るうちに寸断されゆく。オーガルトの両手には黄色いオーラを纏った両手剣。両手剣が目の前から姿を消すと次の瞬間にはジャイアントレントのフサフサト生い茂った頭頂部分が一瞬で消え去る。


 ウギョォォォォォ!


 ジャイアントレントが悲痛な叫びをあげる。


 ウッ、ウッ、ウシャァァァ!


 このままではまずいと巨体を活かした体当たりで反撃を試みる。しかし、再び剣が弧を描くと野太い幹に綺麗な円が描かれ胴体に風穴を開ける。


 ウッウッウシャ……


 戦闘が始まりものの数秒でオーガルトの勝利が確定したようだ。ジャイアントレントも名前に負けぬ強さではあるが枝から再生される葉は即座に刈り取られ、胴体には蜂の巣のように穴が増えてゆく。


「コランダさん、私達ついてくる必要あったの?」


「うん、まぁ。必要なかったかもな」


 二人は戦闘の様子を口をぽかっりと空けている見ている。


 オーガルトはとどめの一撃を刺そうと距離を空け、頭上高く両腕を上げる。全身から放出された雷を両腕の剣に帯びさせると波打つように雷が駆け巡る。その威力は想像もできないが、まともに食らって生きているのが難しいのは想像に難くない。


「火雷天神」


 空から一筋の光が地面に落ちるとジャイアントレントの巨体に電撃が走る。


 ウッ?


 一瞬の静寂を挟みジャイアンントトレント巨体が上下にズレ、竹を割ったかのように地面へと倒れ込む。巨体の質量は周囲にある木々をなぎ倒し、周囲の落ち葉やは土を巻き上げる。


「はぇ~」

「す、凄い」


 コランダと三太が腕を上げ、飛び交う粉塵や枯葉を防ぐ。次に腕を下げた瞬間にはオーガルトが剣を鞘にしまい、こちらへ向かっていた。


「流石ですねオーガルトさん。俺達なんか必要なかったじゃないですか」


「魔物を倒すだけならな。俺はこの世界を何も知らない」


「私達で分かる範囲なら何でもお伝えしますよ! でも、私達が知っていることなんてたかがしれてますけどね」


「ああ、頼む。それにこの討伐で人目に付かないようにここに来たのにはもう一つ理由がある」


 コランダと三太がそろって首を傾げるとオーガルトが口角を上げて嫌らしい笑みを浮かべる。


「さっきの木の化け物と戦った余波でこの辺りには俺の妖気が散布されている。お前たちは知らないだろうが俺の妖気は意志を持っているかのようにその他の力を食い散らかす」


「他のですか? ジャイアントトレントとの戦闘でこの辺りには他の魔物はいないようですが?」


「そうだな魔物はいない。考えろ、妖気の対象が二つほどあるじゃないか」


「「二つ?」」


 三太とコランダが声を揃えて回りを見まわしていると頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。


「えっぁ?」


 喉の奥から不自然な声が漏れる。次の瞬間には立っていることができなくなり重力に逆らえずに地面に倒れ込む。


「思ったより遅かったな」


 笑みを浮かべながら三太を見降ろすオーガルト。


「な、何を……」


 薄れゆく意識の中でオーガルトを見上げる。どうやらコランダも同じように倒れ込んでいるようだ。


「俺の妖気を浴びた者は死ぬ。死んでこい三太」

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