第9話 虎柄のフルプレート
コランダ達が走り去るとギルド内がにわかに騒がしくなる。その対象はもちろん縞柄のフルプレートを身に着けていた者に対してである。
「ハッハッハッなんだあれは!」
「コランダも焼きが回ったな」
「イーストワスはあんな奴らばかりなのか!?」
笑い飛ばす者もいれば、コランダをやじる者もいる。やがて、
「おい、あの縞柄の鎧、ひょっとしてアオガラが話していた奴じゃないか?」
つばの長い中折れ帽を被った若い男が、口元をバンダナで隠した盗賊風の女へと声を掛ける。
「うーん。どうだろ。確かにあの縞柄は目立つけどそれだけじゃ判断できなしね。私が見て分かったのは足さばきくらいかしら? 馬鹿みたいに重たい鎧を付けているはずなのに、忍びのような足さばきだったわ。ドラドはどう思うの?」
ドラドと呼ばれた中年の男は気怠そうに頬杖をついている。中折れ帽と盗賊風の女を交互に目だけで追うと大きなため息をつく。
「色んな意味でヤバそうだ。俺たちパーティーの主義から考えれば100%関わってはいけない奴だ。しかし、アオガラが話していた人物であれば調べないわけにはいかない。俺はどっちでもいいぜ。リーダーのノーウェルに任せるぜ」
ノーウェルは中折帽の鍔をクイッと指で持ち上げる。金髪の髪が垂れ碧眼の瞳が覗く。
「アオガラに出来た借りはでかい。命に関わらない範囲で奴を探るぞ。ドラド、サミ、それで構わないな?」
「「オーケーリーダー!」」
声に合わせて皆が席を立つと足並みを揃えて赤髪の女が待つカウンターへと向かった。
※※※
「それにしても奴らがどの依頼を受けるかよく分かったな?」
ノーウェルは中折れ帽を背中に背負い、今は長弓を手にしている。
「あの赤髪の姉さんには借りがあってな! 危ないことをしないという約束をしてこっそり依頼内容を教えて貰ったのだ」
魔術師のドラドがヒラヒラと羊皮紙を風になびかせると依頼書の写しを盗賊のサミが奪い取る。
「またぁ~。ギルドの女の子に手を付けると後で怖いよ。で、何々…………え、えぇ! ジャイアントトレントの討伐! ちょっとコランダ達はいつからそんなに強くなったわけ? 私達と同じランク帯でコソコソ稼いでいたはずよね?」
「あぁ。奴らランク以上の依頼を受けるために誓約書まで書いて討伐の依頼を受けたらしい」
ノーウェルは眉間に皺を寄せて口を開く。
「おい、おい、どうしちまったんだ? 薬切れで血迷っちまったんじゃねえだろうな?」
「ありえる。あいつら全員が薬中だからね。でも、普通に考えてあの縞々が強いから依頼を受けてるんじゃないの?」
「まぁそれが妥当な考えだな。あの縞々の強さを確認、その後にあの兜の下の素顔を見る。それでアオガラに報告すれば奴への恩も返せるだろう。目的は偵察だ! あいつらの後を付けながら戦闘の様子を見る。この遠距離でこちらは風下、流石にばれないだろうが先頭はサミでいく。分かっていると思うが細心の注意を払ってくれ。奴らはトレントを探しているがこのビャオイエジャの森にはトレント以外の魔物もいる、サミは奴らに注視し、俺たちはサミを守る。いいな?」
「「オーケーリーダー」」
声を潜ませて声を合わせる二人。ノーウェルは歯を見せるとドラドと共に後方へと下がり辺りを見回した。
※※※
縞柄の鎧が足を止め、はるか後方の茂みに視線を送る。しかし、一瞬視線を送るに留まりすぐに前を向きそのまま前へと歩き出す。
「どうしましたオーガルトさん?」
オーガルトは黙ったまま歩く速度を落とすとコランダのすぐ横へと並ぶ。声のボリュームを下げ鎧の隙間よりコランダへ声を掛ける。
「この先の魔物を退治する際もこの姿のままがいいんだよな?」
「ええ。何か不具合でも?」
「いや、特にない。要はこの世界の者に違和感を抱かせなければいいんだな?」
「はっはい。何か気になっていることがあればすぐに言ってくださいね。この先のジャイアントトレントにオーガルトさんが遅れをとるとは思いません。しかし、ジャイアントトレントに対し私と三太はあまりにも無力です。せいぜい補助しかできません。崇徳童子さんの能力に私達の知らない制限や弱点があるようでしたら話してください」
「そんなものはない。金を稼がなくては飯も食えない。要らぬ心配は考えなくて良い」
兜の中から不服そうに鼻息を漏らす。コランダは不安さそうに前をみると気を取り直してこの先のジャイアントトレントの説明を始める。
「この先のジャイアントトレントは通常であれば冒険者十人から十五人ほどで退治する魔物です。トレントの足を止め、高火力の炎系の魔法で攻撃するのが主流です。ただし、十人以上のパーティーを組むとなると金と労力がそれ相当かかります。とても割が良い仕事とは言えません。しかし、今回は三人、かける日程も一日、もし倒すことができれば一月は暮らせるだけの金が手に入るでしょう」
「ふん、問題ない。この先の気配を探りジャイアントトレントやらがどの程度の魔物かは把握している。俺に取っては街の兵士達と大差ない、訳なく倒せるだろう」
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