第17話・オリヴァーを一人にさせられません
「全く……君から一体なんだと思ったら、まさか神獣と出会しているとはな。君には驚かされっぱなしだ」
オリヴァーを呼んできて、先ほどの場所まで戻ると、彼は頭を抱えていた。
「す、すみません」
「どうして謝る? まあいい。今は魔族のことだったな」
とオリヴァーはグリフォンに視線を移す。
「グリフォン、君を襲った魔族の特徴をもっと詳しく教えてもらってもいいか?」
『もちろんだよ。外見はさほど人間と変わらなかった。まあ、あれが本当の姿かどうか分からないけどね。擬態するのに丁度よかったかもしれない。そしてヤツは呪いを得意とするようだった』
「ふむふむ」
『あとは……』
グリフォンの話に真剣に耳を傾けるオリヴァー。
「オリヴァーが探している魔族でしたか?」
「グリフォンから話を聞くだけでは断定出来ないな。しかし……可能性はあると思う。仮に違う個体だとしても、魔族から話を聞き出すことによって、なにかヒントが得られるかもしれない」
オリヴァーの声と顔は、先ほどから少し興奮しているように思えた。
仕方がないよね。
今まで三年間、お母さんを殺した魔族を探しても、ろくに手がかりが得られなかったんだから。
オリヴァーがこんな顔をするのも仕方がない。
「でも……グリフォンさんの羽には特殊な魔力があるっていいますけど、どうして魔族がそれを欲したんでしょうか?」
「金が必要だったというわけにもあるまい」
『僕たち生き物が、野菜や果物、動物や魚の肉を食べて生活していく一方、魔族は魔力を主食とする……って話は聞いたことがあるかい?』
「ああ。だが、わざわざグリフォンと一戦交える必要はないと思える。魔力が欲しいだけなら、もっと効率のいい方法があるからな」
『その通りだ。だからヤツは
「「儀式?」」
私とオリヴァーの声が揃う。
あまりにキレイに揃ったものだから、オリヴァーと顔を合わせる。
しかし彼は照れ臭くなったのか、すぐに顔を逸らした。
『この森の近くの街……って確か、王都があるんだっけ? その王都全員の魔力を吸い取る儀式さ』
「そんなことが可能なんですか?」
『難しいだろうね。十人、二十人くらいの話ならいけるかもしれないけど、王都の人口はもっと上だろう? だけど低いものとはいえ、成功する可能性があるなら見逃せない』
「当然だな。通常、魔力を吸い取られた人間はもぬけの殻になってしまう。さながら、液体がなくなった空のコップのように……な」
それは私も聞いたことがある。
私たちの体には、大なり小なり魔力が流れている。
魔力がなくなれば、廃人のような状態になってしまうことも。
「その儀式のために、あなたの羽が必要だったということですか」
『そうだね。本当ならすぐにでも、魔族を追いかけないといけないけど……呪いにかけられたせいで、ろくに身動きすることも出来なかった。アリシアに助けてもらえなかったら、今頃僕は死んでただろうね』
「間に合って、よかったです」
安堵の息を吐く。
「だが……グリフォンを救い、一件落着といかないのが歯がゆいところだな。まだ事態は解決……いや、深刻になっているかもしれない」
『うん。魔族が行おうとする儀式……だね』
「ヤツが行おうとする儀式を見逃すことも出来ないし、母上を殺した魔族かもしれない。ヤツがどこに行ったか、知らないか?」
『どこ……って言うのは分からないね。だけどヤツは半月の日に儀式を行おうとしていた。場所は……おそらくウィノア遺跡。王都中の人間の魔力を吸い取る儀式を行うなら、あそこが最適だろうから』
ウィノア遺跡……この辺りに来てまだ日が浅い私にとっては、聞き覚えのない地名だった。
しかしオリヴァーはそうでもなかったみたいで。
「なるほど……ウィノア遺跡か。古代において、ここら一帯の地域を魔法で俯瞰していた場所だな。もっとも、今はその魔法の技術も失われ、魔物が蔓延る廃墟のような場所になっているだが……魔族にとっては、そうでもなかったかもしれない」
顎に手を当て、考えをまとめるようにぶつぶつと呟いていた。
「半月の日はいつなんですか?」
「明日だな」
「あ、明日!? 急ですね」
「だが、まだ一日余裕があると考えるべきだろう。俺一人でも、明日にウィノア遺跡に行く。そして俺は……」
「待ってください」
勝手に話を進めようとしているオリヴァーに、私はこう告げる。
「もちろん、私も行きますよ。オリヴァーを一人にさせるのは心配です」
「いくら君でも、相手は魔族だ。死ぬかもしれないぞ?」
「構いません。それに……これっぽっちも死ぬ気はありませんので」
「……分かった。助かる」
とオリヴァーは噛み締めるように行った。
オリヴァーが心配というのもあるけど、お母さんを殺した魔族の話をする際、ずっと彼は思い詰めた表情をしている。
私知ってる。
前世で仕事をしすぎて、自ら命を絶った友達と同じ表情だ。
いわばオリヴァーは復讐のためなら、いつ自分が死んでもいいと思っている。
そんなのはきっと良い結果を生まないだろうし、復讐を果たしてもきっとオリヴァーは後悔する。
だから彼を一人にさせるわけにはいかない。
「グリフォンにも礼を言う。情報提供、感謝する。魔族のことは俺たちがなんとかするから、君は……」
『待ってくれ』
街に戻ろうとすると、グリフォンが私たちを呼び止める。
『ここまで話して、僕がなんにもしないわけにはいかないだろう? 君たちに付いていく』
「だが、アリシアに解呪されたとはいえ、君は少し前まで呪いで苦しんでいた。体調が万全ではないのでは?」
「他の人にあなたを見られたら、大変な騒ぎにもなりますしね」
『なあに、アリシアの解呪が完璧すぎて、なんなら呪いをかけられる前よりも元気なくらいさ。姿についても……』
そう言うと、グリフォンの体が光で包まれた。
光が消えると、ライオンくらいの大きさであったグリフォンが肩に乗るくらい小さくなって、見た目も可愛いワシになっていたのだ。
「あら、可愛い。姿を変えることも出来たんですね」
ワシにしてはちょっと小さいけどね。
でも、グリフォンの可愛さが増しているようだった。
『うん。これだったら万が一姿を見られても、僕の正体はバレないだろう? どう? これでもまだ、君たちに付いていったらダメ?』
「いや……そんなことはない。神獣の力も借りられるなら、俺たちにとって最高だ。よろしく頼む」
オリヴァーがそう口元に微笑みを浮かべると、グリフォンも応えるように翼をばっさばっさと動かした。
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