第16話・呪いをかけた犯人
『本当にありがとう。君には何度お礼を言っても、伝えきれないよ』
呪いが解かれたグリフォンはすくっと立ち上がって、私の前で軽く頭を下げた。
「いえいえ、お礼なんて必要ありませんよ。困っている者を助けるのは、人として当然ですので」
それに神獣といったら、人間よりも高位な生物といわれる。
そんなグリフォンに頭を下げられるだなんて、なんだか落ち着かない。
『でも……どうして君に僕の声が聞こえるんだろう? 呪いを解除する不思議な結界も謎が多いし……』
「そのことなんですが……」
繰り返すようになるが、神獣といえば神々の使徒として地上に降り立ったという話もある。
一方、私はこの世界に転生する際、女神に【万能結界】の力を授けてもらった。
つまり私自身も神々の使徒と言っても、過言ではないのでは?
だからグリフォンと共鳴のようなものを起こし、彼の助けを呼ぶ声が聞こえたのかもしれない。
他の人にはあまり聞かれたくないけど、グリフォン相手なら大丈夫だろう。
「実は……」
私は異世界に転生してきたことを、グリフォンに伝えた。
『なるほど……そうだったんだね』
信じてもらえないかもしれないと思うけど、意外にもグリフォンはすんなりと話を受け入れているようだった。
「信じてもらえるんですか?」
『もちろんだよ。命の恩人の言うことを、疑う理由もないしね。それにこの世界に転生してくる人間は、君が初めてじゃないんだ』
「そうなんですか?」
初耳だ。
『とはいっても、かなり珍しいんだけどね。僕も──転生してきた人間を『渡り人』って言うんだけど──それに出会ったのは初めてだ。一応、千年くらいは生きてるはずだけど』
「千年!」
つい驚愕してしまうが、相手は神獣グリフォンだ。
私たち人間とは寿命が違うだろうし、驚くところでもなかったかもしれない。
『問題はどうして今まで君が記憶を失っていたのか……についてだね。僕の知る限り、渡り人にそんな症状は現れない』
「私にも分かりません……」
『まあ、なにかイレギュラーがあったのかもしれないね。女神だって万能じゃないんだし。もしくは
とグリフォンは首を横に振った。
「あ、あの、このことは私たち二人だけの秘密にしてくれますか? あまり他人に知られたくないんです」
『分かった。君の力を巡って、争いが起きるかもしれないしね。隠しておいた方がいい』
よかった。
心配はしていなかったが、お喋りなグリフォンじゃなかったようだ。
「私のことも話したところで……次はあなたの話を聞かせてもらえますか? どうしてあなたは呪いにかかっていたんですか?」
『うん。それは……』
グリフォンの声に真剣味が増す。
『数日前、とある存在が僕の前に姿を現した。ヤツは僕の羽を求めているようだった。グリフォンの羽は特殊な魔力に満ちているからね。それがヤツの目的に必要だったんだろう。
そして戦いが起こった。ヤツの計画は僕にとって見逃すことが出来ないものだったからだ。だけど僕は敗北し、羽も取られて呪いをかけられてしまったんだ』
「そんな不届きものは一体──」
『僕の羽をもぎ取った正体──それは魔族』
魔族!
グリフォンの口からそれを聞かされ、私は唖然としてしまう。
『呪いにかけられ苦しんでいたところに……君が現れたってことさ』
「…………」
『……ん? どうしたんだい。なにか考え込んでいるようだけど』
ここ数日。
魔族について調査していたけど、まさかこんなところで繋がっているとは……。
「グリフォンさん」
『なんだい?』
「もう一人、ここに連れてきてもいいですか? あなたの話を聞かせてあげたい人物がいるんです」
『うん? 君が言うなら僕はいいんだけど……その人物っていうのは誰なんだい?』
「その人は魔族にお母さんを殺されました。それからずっと復讐のために、お母さんを殺した魔族を探して──って、私から説明するのもおかしいですね。早速彼を呼んできますね」
と私は街に帰るため、踵を返す。
オリヴァー。
協力すると言っておきながら、なかなか魔族の手がかりを掴めなかったけど……ようやく見つけましたよ。
私は彼の顔を思い浮かべながら、街まで急いだ。
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