第14話・結界で薬草探し

 オリヴァーのお母さんを殺した魔族。

 それを見つけるために、私は彼の手伝いをすることになった。


 とはいえ、オリヴァーは魔族を見つけるため、冒険者になって三年が経っているらしい。

 その間、ろくな情報を手に入れられていない。

 だから私がそう簡単に見つけられるはずもなく、魔族探しは進展がなかった。


 もどかしい気持ちでいっぱいだったが、焦ったところで上手くいかない。


 というわけで……私は気分転換もかねて、お仕事をするため、冒険者ギルドを訪れていた。



「アリアさん──じゃなかったですね。アリシアさん、今日はどのようなご用ですか?」



 受付嬢さんがそう問いかけてくる。

 オリヴァーに見つからないように『アリア』と名乗っていたけど、もうその必要はないので、彼女には本名を伝えていた。


「依頼を受けようと思いまして」

「そうですか。では……こちらはどうでしょうか?」


 と受付嬢さんが依頼一覧表を渡してくた。


 しかしそこに書かれていたものに、私は言葉を失ってしまう。



・ベヒモスの討伐

・霧の洞窟にある秘宝の奪還

・盗賊団の殲滅



「ど、どうして、こんなに難しそうな依頼ばっかなんですか!」

「えー? でも聞いていますよ。アリシアさんって、実はすごい冒険者だったんですよね。これくらいは当然かと思いますが……」


 受付嬢さんは首を傾げて言う。 


「当然じゃありません。それに私はランクです。もっと簡単な依頼にしてください」


 依頼は自分の冒険者ランクより、二段階上のものしか受けられない。

 受付嬢さんが見せてくれた依頼は、上から『A』『A』『B』となっていた。

 どうしてこんなものを見せたんだ……。


「失礼しました。でもアリシアさんの冒険者ランクに合わせると、簡単な依頼ばかりになってしまいますよ? いっそのこと、今からランク昇格試験を……」

「それでいいんです。昇格試験なんて受けません!」


 私のモットーは『安全に暮らす』……だ。

 将来的には冒険者ランクを上げる必要もあるかもしれないが、今はその時ではない。


「分かりました。では、こちらを……」


 彼女は何故だか、少し不満そうにして別の紙を渡してくる。


 うんうん。

 今度は簡単な依頼ばかりだ。


 私はざっと眺めて、ある依頼を選ぶ。



『薬草摘み

 詳細:街の近くの森で、薬草を十束以上摘んでくる。

※毒草が混じっていた場合は、違約金を頂戴することになるので注意』



「薬草摘み……これにします」

「Eランクの依頼ですね。危険はほとんどありませんが、薬草と毒草を見分けるのは、少し知識がいります。報酬金も多くありません。大丈夫ですか?」

「はい」


 なにせ先日のドラゴンの一件で、資金には余裕がある。

 報酬金の多い少ないにこだわる必要はない。


「頑張ってくださいね。今度は私はどう驚かせてくれるか楽しみにしていますよ」

「驚かせるつもりはありませんが……」



 ◆ ◆



 そして私は街の近くの森を訪れていた。


「ささっとやっちゃいましょうか」


 薬草と毒草を見分けるのは、私だって出来る。


 ハロルドたちといる頃は、雑用みたいなものもほとんど自分でやっていた。

 旅の道中、物資が少なくなって、薬草を現地で調達することもしばしばだ。

 だから普通にやっても、薬草十束なら三時間くらいかければ見つけられるんだけど……今回は別の方法を使ってみようと思う。


「【万能結界】」


 異世界に転生した私に与えられた、『結界の中なら、なんでもすることが出来る』力である。


 森全体に私は結界魔法を張る。

 すると──頭の中に森の地図が表示され、赤い点がぽつぽつと現れた。


 数えられないけど……赤い点は少なくとも三十個以上はあった。

 私は頭の中の地図に従って、赤い点まで移動する。


「よし……! 大成功です!」


 そこには地面に薬草がたくさん生えている場所だった。


 ──これが【万能結界】の力。


 私は森に結界を張ることによって、全体の地図を把握した。

 さらにそれだけではなく、薬草があるところを地図上の赤い点で表示した。

 いくら薬草と毒草を見分けられたとしても、薬草がある『狩り場』を見つけられなければ意味がない。

 効率も悪いし、時間もかかるしね。


 だけど【万能結界】の力さえあれば、薬草が生えている場所を探すのはとっても簡単だ。


「早速摘んでいきましょう」


 私はさくさくと薬草を摘んでいく。


 移動時間を含めて、一時間で薬草を三十束摘むことが出来た。

 依頼自体は十束あれば大丈夫だが、多いに越したことはない。

 必要以上の薬草は買い取ってもらえて、換金することが出来るからだ。


「さて……そろそろ帰りましょうか? でもあんまり早く帰りすぎると、また受付嬢さんを驚かせてしまいますね。また騒がれるのは嫌ですし……」


 悩んでいると、



『……けて』



「え?」


 なんでだろう。

 頭の中に突如、不思議な声が聞こえてきた。


「誰かいるんですか?」


 きょろきょろと辺りを見渡すが、誰もいない。


 空耳かな?


 思い直してその場を後にしようとすると、続けて先ほどと同じ声が響いた。


『……助けて──っ』

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