第8話・【万能結界】で一角ラビットを捕らえる
『一角ラビットの討伐』の依頼を受けて。
私はすぐに街近くの森を訪れていた。
「ハロルドたちと別れて、最初の依頼。しっかりと達成しなきゃですね……!」
依頼内容は危険が多くないものの、私はあらためて決意する。
森を進んでしばらくすると、草の茂みから一匹の兎のような魔物が飛び出してきた。
「運がいい!」
一角ラビットを囲むように、結界を張ろうとする。
しかし完全に発動するよりも早く、一角ラビットは素早い身のこなしで、私の前から逃げ去ってしまった。
「うーん、やっぱり無理ですか」
これが弱い一角ラビットの討伐なのに、依頼がDランクに指定されている理由。
一角ラビットは好戦的ではなく力も弱い。
しかしその代わり、逃げ足がめっちゃ早いのだ。
結界魔法で囲えば、一角ラビットの動きを止めることは出来ると思う。
とはいえ、結界を張る前に逃げられては意味がない。
本来なら何人かの冒険者で追い込んだり、罠を用意して捕らえるのが定石。
しかしどちらもない私にとっては、かなり不利な依頼だ。
「仲間もいない、罠もない。だったら、【万能結界】で罠を張ればいい」
私はそう考え、早速準備に移る。
地面にいくつかの結界を張る。
その結界から甘い匂いが、ここからでも漂ってきた。
「後はここから離れましょう」
一角ラビットは人の気配にも敏感だからね。
ここに私がいたら、寄ってきてくれない可能性がある。
さっき、突然出会した一角ラビットは例外だったのだ。
そういう意味で「運がいい」と言った。
「あっ……ここの森、美味しそうな果実がたくさん実っていますね」
結界を張った場所から離れると、果実が実っている木を見つけた。
よくよく周囲を見渡すと、果実は他にも実っている。
さっきまでは一角ラビットを捕らえるのに頭がいっぱいで、目がいかなかったっていうのに……。
人ってやっぱり、余裕を持つと視野が広がるよね。
「いただきます」
私はその中の一つを手に取って、口に入れてみる。
「美味しい!」
思わず、そう声を発してしまった。
果実の甘みが口の中いっぱいに広がる。
宿でぐーたら生活をしていた頃はスナック菓子ばっかり食べていたので、こういう自然の甘みが体に染みる。
これから一人で生活していくんだから、スナック菓子だけじゃなく、果物や野菜も健康のために食べないといけないかもしれない……。
そう思う今日この頃であった。
果実を食べたり、周囲の自然をぼーっと眺めていると──あっという間に一時間ほどが経過した。
「そろそろ行ってみましょうか」
私は先ほど、結界を張った場所まで戻る。
するとそこには、一角ラビットが気を失って、大量に倒れていたのだ。
「大成功です!」
パチンと指を鳴らす。
倒れている一角ラビットを数えていくと、ちょうど十体いた。
これは甘味が大好物だという一角ラビットの習性を活かした結果である。
だからこそ、こんなに甘い果実がたくさん実っている森に、一角ラビットが多数潜んでいたんだろう。
私の知識が間違っている可能性もあったけど、さっき果実を口にした時に作戦の成功を確信した。
私がやったことは簡単。
まず甘い香りを発生する結界を張る。
【万能結界】は結界の中に入らなければ効果がないが、その影響が外部にも漏れることは今までの経験から実証済み。
そして甘い香りに誘われた一角ラビットは、まんまとこの場所に足を踏み入れる。
さらに発生させた甘い香りは、ずっと吸っていると気を失う効果も含ませておいた。
そしてすばしっこい一角ラビットを、簡単に捕まえることが出来たわけだ。
「依頼にあったのは、一角ラビットを五体討伐……少し多くなりましたが、少ないよりはマシですよね」
一角ラビットの死体を、収納バッグに入れていく。
ハロルドたちにこれを取り上げられなくてよかった。
収納バッグがなかったら、こんな簡単なことも出来なかったもんね。
大満足でその場を後にするのであった。
◆ ◆
「戻りました」
ギルドに帰って受付嬢さんに話しかけると、彼女は驚いた表情をした。
「アリアさん。随分早いお帰りですね。やっぱり、一人で一角ラビットの討伐は難しかったですか……? ですが、落ち込む必要はありませんよ。失敗を糧にして、冒険者は成長するものです」
どうやら、受付嬢さんは私が依頼を失敗したと思っているらしい。
「失敗を糧にして……良い言葉ですね。だけど今回はその必要はなさそうです」
「といいますと?」
首をかしげる彼女に、収納バッグから取り出した一角ラビットを見せる。
「こ、これは……!」
目を見開く受付嬢さん。
「五体で十分だったのに、その二倍の十体!?」
「取りすぎちゃいました。いけませんでしたか?」
「いえいえ! そんなことありませんよ!」
慌てて、受付嬢さんが否定する。
「ですが、こんな短時間で一角ラビットを捕らえられるとは思っておらず……失礼ですが、どうやってこれを?」
「結界魔法を使いました」
「結界……? 主に防御に使う魔法ですよね。結界魔法を柵のように使っても、一角ラビットは捕らえられないはず。あなた、本当にFランク冒険者ですか?」
正しくは【万能結界】の力なんだけど……。
って言っても分かってもらえるか謎だし、なにより力を見出されて高難易度の依頼を押し付けられるのが嫌だ。
私は安全に冒険者ライフを送りたいだけだしね。
だからどう誤魔化そうか悩んでいると、
「おいおい、あのお嬢ちゃん。Fランクじゃなかったのか?」
「朝、カストの野郎に絡まれてた女か。他に仲間でもいるんじゃねえか?」
「だが、そういう風にも見えないし……こんな短時間で十体もの一角ラビットを討伐してくる女が、無名なわけねえ。他の街から来たのか?」
ギルド内がざわざわと騒がしくなり始めた。
「あわわ。こ、これで依頼は達成ですよね? 急かすような真似をしてしまい申し訳ございませんが、早く報酬金を頂けますか?」
「しょ、承知しました!」
受付嬢さんが奥に引っ込み、報酬金を取りに行っている間。
ずっと他の冒険者たちから注目されて、非常に落ち着かなかった。
「お待たせしました!」
「ありがとうございました! では!」
受付嬢さんから報酬金を受け取ってすぐ踵を返し、ギルドを後にしようとした。
しかしその時。
「ようやく見つけた」
腕を誰かに掴まれる。
振り返ると、今一番会いたくなかった人物だった。
「オ、オリヴァーさん!?」
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