第6話・【ハロルド視点】アリシアがいなくなって
【ハロルド視点】
一方その頃、アリシアを追放したハロルドたちは……。
「アリシアを追い出せて、すっきりしたね!」
上機嫌で彼女のことを話していた。
「ええ、全くです。無能を抱えているほど、ストレスが溜まることはありませんから。これで私たちのパフォーマンスも上昇するでしょう」
パーティーの治癒士フォルカーも、そう同意をする。
「しかもただ無能なだけじゃなく、僕たちを誑かす稀代の悪女だったなんてな。そのことを指摘してくれたロザリーには、ほんと感謝だよ」
「いえいえ、わたくしは当たり前なことをやっただけですので」
とロザリーも優雅な微笑みを浮かぶ。
ロザリーが少し動くだけで、彼女の豊満な胸が上下に揺れた。
フォルカーの視線がさりげなく彼女の胸元に移ったのに気付き、ハロルドは不快な気分になる。
(フォルカーもロザリーのことを狙ってるみたいだね。でも最後に勝つのは、この僕さ。フォルカーみたいな冴えない眼鏡野郎のことを、ロザリーが好きになるわけがない!)
フォルカーのロザリーへの恋心については察していた。
そしてハロルドがロザリーと結ばれるための障害となることも。
(フォルカーもいつかパーティーから追い出してやる。そしていずれ僕は、ロザリーと二人で旅をしよう)
二人に気付かれないように、ニヤリと口角を上げるハロルド。
アリシアを追放してなお、パーティー内の仲はぎくしゃくしたままだった。
「ま、アリシアが稀代の悪女だったとしても、僕は騙されなかったけどね! ロザリーに比べたら、アリシアなんてそこらへんの田舎娘に過ぎない!」
「その通りです。ロザリーの美しさの足元にも及ばないでしょう」
二人は口々にアリシアを貶め、ロザリーを褒める。
少しでもロザリーの自分に対する好感度を上げようとしているのだ。
(ちっ……)
出しゃばってくるフォルカーに、ハロルドは内心苛つく。
「あら、嬉しいですわ」
そんな彼らの思惑を知ってか知らないか。
ロザリーは笑みを絶やさない。
──そんな感じで。
お互いを牽制しながら、本拠地としている近くの街までの帰り道を歩いている中。
「……っ!」
突如、フォルカーが足を止めた。
「どうしたんだ、フォルカー」
「いえ……先ほど戦いの中で負った傷の治りが遅いのです。おかしいですね。いつもなら、とっくに治っている頃ですが……」
フォルカーは痛そうに顔を歪めて、右腕を押さえた。
「軟弱だなあ。さっさと治癒魔法で治したらいいじゃないか」
「傷自体は大したことがありませんからね。魔力は節約しておきたいのです。それに……今までは必要なかった」
不可解そうな表情をするフォルカー。
(さっきの戦い、僕も違和感があったな……)
鳥型の魔物だった。
魔物としては弱い部類に入る。普段なら苦戦するわけがなかった。
だが、意外と戦いに手こずってしまい、時間を浪費させられてしまった。
そのせいで未だに街まで辿り着けないでいる。
「……もう少し、あなたが機敏に動いてくれれば、こんな傷も負わなかったんですがね」
ぼそっと。
嫌味ったらしく、フォルカーが口にする。
「な、なんだとお!? 僕に文句でもあるのか!」
「そこまでは言っていませんよ。ですが、先ほどの戦いではどうされたのですか? いつもより動きに洗練さを欠いていました」
すぐに反論しようとするが、ハロルドは二の句を継げない。
彼の言うことに心当たりがあったからだ。
(まるで水の中で戦っているようだったな)
いつもより動きが鈍かったことには、自分でも気が付いている。
いつもなら難なく倒せる相手なのに、魔物を剣で捉えるのに時間がかかった。
(それに……集中力もなかった)
しかしハロルドはその原因が思い当たらない。
「まあまあ、そういう時もありますわよ」
暗い表情をするハロルドに、ロザリーがフォローを入れる。
「いくら無能だったとはいえ、アリシアがいなくなっては、戦いの感覚にずれが生じるでしょう。お二人なら、すぐに修正出来ますわ」
「ロザリーの言う通りだ! 僕は悪くない!」
「ですね。まあ、不調の原因が分かったら問題ないでしょう。今度から自覚して、戦えばいいだけです」
「ロザリー、ありがとう! 君のおかげで気付けたよ!」
「いえいえ」
まるで野に咲く花のように、謙虚に答えるロザリー。
「さあ、行こう。早く街に帰って、アリシアの悪口を言いながら酒を飲み交わそう!」
気持ちを切り替え、ハロルドとフォルカーが先に歩き出すと……。
「──ふふふ、おバカですわね。自分たちが弱いことに、まだ気付いていないだなんて。まだまだ絞れそうですわ」
後ろでロザリーがなにかを呟く声が聞こえた。
「ん? なんか言ったかな?」
「なんでもありませんわ」
振り返ってみるが、ロザリーの様子は変わらない。
ハロルドとフォルカーに続いて歩き出した。
──説明する必要もないと思うが。
今までハロルドたちはアリシアの【万能結界】の恩恵を受けていた。
ゆえにここまでやってこれたのだ。
しかしアリシアがいなくなり、結界の恩恵を受けられなくなった彼らはSランク昇格どころか、とことんまで落ちていくのを──。
彼らは知らなかった。
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