24. 王宮へ

 次の日、雲一つない晴れた空。絶好の旅立ち日和。トーマスとミランダとアイル、そして王宮に向けて出発すると聞いたジオとレイラがヒルデの見送りの為に男爵家の門に立っていた。


 下を向いて体を震わせている男爵と使用人2人。そして、兵士3人。うっうっと口元にハンカチを押し当てて声を押し殺しながら涙を流すレイラ。その背を緩やかに撫でているジオ。その顔は青ざめている。


 邸から出てきたヒルデが門のところに立つ人影に気づき、近づいてきた。


「ヒルデ逃げられなかったのね。幽閉されても元気でね。もし処刑されるとしても、誰も恨まずにあの世に行くのよ」


 喪服のような黒いワンピースを着たレイラが鼻水を垂らしながら顔面をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくりながら言葉を紡ぐ。


「ヒルデ殿…あなたが将軍だったと聞いたときからいつかこんな日が来ると思っていました。なんとしてもあなたの居場所を隠して差し上げたかった。力になって差し上げたかった。これからどうなるかわかりませんが……なんの役にも立てない自分を許してください………」


 レイラと同じく喪服のような黒い服を着たジオがヒルデの姿を見た途端、我慢していた涙を流す。守れなかった悔し涙が次から次へと流れ出す。


「………坊ちゃま、何やらお二人とも勘違いしていらっしゃるようですが………


………皆さん、笑ってないで正しい情報を教えてあげてくださいませ」


 そう、ジオとレイラは処罰される為に王宮に行くと決めつけていた。本当に処罰するならもっと大々的に捜索するだろうし、強そうな人間が派遣されるはず。ジオとレイラ以外の人間は処罰で呼ばれたわけではないと思っていた。そもそも国内一…いや、世界一と言われる魔術師を処刑することなど無理だとわかる。だから悲観にくれる二人の姿が面白くて、笑いを我慢しようと震えていただけだった。


「んんっ!二人共大丈夫だ!こいつは休暇をとって、またすぐに戻ってくるらしいぞ」


 笑いをなんとか押さえつけて教えるトーマス。しかし、処罰という意味ではないがトーマスも心の中では彼女がここに戻ってくることはないだろうと思っていた。王宮で再度働くことになるとトーマスは考えていた。ヒルデにはこんな田舎よりも王都で華やかに活躍するのが似合う。というよりもなぜ3年もこんなところにいたのか……。


「なんでそんな風に思えるのよ!!きっと処罰よ処刑よ。ヒルデあなた処刑だったはずなのに逃げてきちゃったんでしょ!?」  


(いや、解雇されただけなんですが……)


「そうなんですね…でも、王宮に呼ばれているのですよね?処罰以外に何か呼ばれる理由があるんですか?だとしてもなぜ、戻ってくることができると思うんですか?クビにした人間が重宝されるわけないじゃないですか」


 ヒルデの価値を少々見くびっているような発言だが、まあ心配から出ている言葉なので皆黙っている。何を言っても無駄そうな二人の様子に放っておくことにした。確かに処罰の可能性もゼロではない。とはいうもののヒルデの様子を見ているとそんなことはないだろうことが予測できる。


「ふふっ。大丈夫ですよ。ちょこっとばかり怒られることはあるかもしれませんが……。陛下がなぜ私をおよびなのかはなんとなく察しております。ですので、すぐに戻ってきますよ」


「………帰ってきたら大掃除よろしく」


 こんなときなのにこれからどれくらいホコリがたまるだろうと考えたくないのに、考えてしまう。


「かしこまりました。皆さま、お見送りありがとうございます。それでは行ってまいります」


 皆に向けて艶やかな笑みを向けたあと、丁寧なお辞儀をして背を向ける。その背を見送る人々は皆同じことを考えていた。



ーーー果たして本当に帰ってくることができるのか…と。


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