23. 話し合い

 男爵家の一室に入りトーマスは思った。なんか俺って場違いじゃね?と。今一室にいるのはヒルデとトーマス、兵士3人組。ちなみにレイラは部外者であるためお帰り頂いた。覚えてなさいよーーー!!!とどこぞの悪党のような捨て台詞を吐きながらしぶしぶ帰っていったので、この後が怖い。


「えー、それで探すに至った経緯と言いますか……理由を説明していただけるということでしたが……」


「先日……といっても数ヶ月前なわけですが、陛下に呼ばれましてヒルデ殿を探して連れてこいと命を受けました」


 うん?終わり?隊長の顔を見ると言い切ったと良い顔をしていた。


「もう少し詳しいこととか……」


「ありません」


 言い切る隊長に少しだけつっかかるトーマス。


「いや、なんで探してるのかとか……」


「知りません」


 またまた言い切る隊長。


「は?」


 これ以上隊長は何も言うまいと思ったヒルデが補足説明をしてくれる。


「坊ちゃま。王宮というところは側近は詳しいことは知っているものですが、下っ端や中堅の立場の者はわけもわからず動かなければならないものなのですよ」


 トーマスは兵士3人組に哀れみの視線を向ける。3人からなぜか睨まれたような気がする……解せぬ。困惑気味のトーマスは放っておいて、ヒルデが3人に話しかける。


「黒獅子隊にいた方たちですよね」


 兵士たちは驚いた。ヒルデが若いながらも何年も軍隊にいたとはいえ、隊も違う末端兵士の自分たちの顔を覚えているとは。しかも、後輩はヒルデとほぼ入れ替わりという時期に入っていた。


「よくおわかりで」


 先輩兵士の言葉にくすりと笑って言う。


「そちらの隊長さんは強面なのに愛妻家として有名でしたし。そちらの方は新入隊員式で見た覚えがあります。そして……あなたは一度、私が除隊する直前キール将軍の前で転んで顔を真っ赤にしていた覚えがあります」


「忘れてください」


 後輩兵士は過去に一度キールに見惚れて、すっ転んだことがあった。恥ずかしさのあまり真っ赤になってしまったが今もそのときに負けず劣らず顔が真っ赤になっている後輩兵士。それを見て隊長は思わず笑みを浮かべたが、そんなことに気を取られている場合ではないと我に返る。


「ヒルデ殿。陛下から登城せよと命がくだっております」


「かしこまりました。陛下の命とあらば致し方ありません。坊ちゃま………」


 間髪入れずに返答をしたヒルデは悲しげな顔つきにさっとなるとトーマスに向けた。トーマスも微妙に悲しげな顔をしている。


「ヒルデ、お別れだ。特に何も騒ぎなくお別れできて正直ほっとしているよ」


 トーマスは悲しさ1割、安堵9割の顔をしている。


「いえ、しばらく休暇ください」


 悲しげな顔から一転真面目腐った顔で休暇をもぎとろうとする。


「えっ、帰ってくんの?」


 不機嫌5割、不安5割の顔になるトーマス。


「いやいやいや、いいんすか?」


 後輩兵士の慌てたような声が二人の会話を遮る。


「「?」」


 ヒルデとトーマスが不思議そうな顔をして後輩兵士を見る。


「いや、なんで陛下がヒルデさんのこと探してるのかはわかりませんけど、何かヤバイことに巻き込まれるかもしれないし、何か処罰的なことかもしれないのに……。はい、行きますって……それでいいんですか?」


「「?陛下の命に従うべきでは?」」


 二人は不思議そうな顔のまま再度言葉を発した。


「いや、まあ陛下の命には従うべきだとは思いますけど……」


 そりゃ陛下の配下である自分だってわかっている。でも、なんか自分が思っていた反応と違う。ちょっと困惑気味の後輩兵士の肩に手を置き、頭を横に振る隊長。後輩はぐっと黙った。


「失礼しました、男爵、ヒルデ殿。それではいつ頃出発可能でしょうか?」


「荷物はそんなに必要じゃありませんし、明日出発しましょう。坊ちゃま、よろしいでしょうか?」


「ああ、大丈夫だ……。人手が減るのか……どうするかな……」


 遠いところを見るトーマス。そんなトーマスの様子に隊長はすっと立ち上がると後輩兵士の頭をガシッと掴んだ。


「とりあえずこいつを置いていきます。ヒルデ殿がこちらに戻ることになるのか、それとも戻れないかはわかりかねますが、それがわかるまでこいつをこき使ってやってください」


「えっ!?俺ですか?」


 急に男爵邸に置いていかれることになり驚く後輩兵士。


「なんだ嫌なのか?別に家で待ってる人がいるわけでもないだろ?」


「うるさいですよ。こんなにイケメンなんですからすぐに待ってる人ができますよ。男爵、それでは暫くお世話になります」


 さっと立ち上がるとペコリと頭を下げる後輩兵士。それを見たトーマスも慌てて立ち上がるとよろしくと頭を下げる。


「それではヒルデ殿、明日また伺いますので」


「はい、お待ちしております」


 ペコリと頭を下げたヒルデ。顔をあげたヒルデの顔が非常にめんどくさそうな顔をした後、何かひらめいたような顔になったのに気づいたトーマスはゾッとする。隊長と先輩兵士に何もなければ良いが……祈っておこうと思った。

 







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