第12話  過去

ーーーー今から20年前

私が近畿能力者学園に入学した日、まだ丈一に合う前だから渡瀬わたりせ御影だった時だね。その日に彼女ーー天道環てんどう たまきに出会った。彼女と親しくなったきっかけは何だったけ。同じクラスだったからかな。とにかく初日から彼女と楽しく会話していた気がする。

彼女の能力は水だった。ネメルギーで高圧の水を出すことが出来るって本人は言ってた。事実、大型ネメシスの装甲を簡単に貫いてて結構強かった。だから私と彼女はこの時から既に5級を与えられた。確か最初から5級以上だったのは他に丈一と匠、それと武藤君だけだったよね。話が逸れたね、それで私達二人は学園でも頂点に立っていると言っても過言じゃなかった。それもあって二人で先生の指示を聞かずに勝手にネメシスを倒しに行ってたりもしてて結構問題児扱いされてたんだよね。まあ、私の学園時代の話はもういっか。

彼女は自分の考えに実直でどんな小さな嘘はつくことはなかった。それと褒められるのが好きだった。悪く言うと我が強かったんだよね。そんな彼女とはしばらく関係が継続してた。そして三年生になったタイミングで彼女は学園に来なくなった。後日私宛てに手紙が来たんだけど結婚をしたらしい。急にそんなことを知ってすぐに理解は出来なかった。けど、あの頃はまだ能力者達への当たりが強くて自由なことはしにくくなってたから隠れてその準備をしてたのかな、と思うようにしてた。勿論納得はしてなかったけど彼女がどこに居るかわからない以上、詮索は不可能だしいいかなと思ったの。

その後も定期的に手紙は来てた、11年前までは。そう、11年前は初めて横浜でも大阪でもない場所で裂け目が発生した日。今までの中でも一番の犠牲者を出したのがこの日。当時の総司令官や本隊長も丈一と匠それと私以外の本隊長は全員戦死した。そして彼女からの手紙もそれっきり来なくなった。ただ気になって犠牲者のリストに目を通したけど彼女の名前は乗ってなかった。それきり今に至るまで正直彼女のことはずっと忘れかけてたんだ。だからあのネメシスが彼女と一致するかは確信は持てないけど私の名前を知っていたことと、今思い返すと声が似ていた気がする。



「話はこれぐらいかな。確実と言える証拠が無いけど私はそんな気がする。」

「総司令が言う彼女と敵の首魁が仮に同じだとして何か弱点等はあるのでしょうか?」

「少なくとも私には思い浮かばない。九十九姉弟はどうかな?」

「少し思い出してみます。」

そう言い玲は目を閉じ熟考し始める。

「外に出るのは好きじゃなかったはず。」

「ああ?もっとまともなのはねえのかよ!」

「牙煌君は少し黙っててぇ。」

「母さんは何でも出来る人でした。私の能力についても詳しく知っていたみたいですし。ただ、あの日より前の記憶が全然思い出せないんです。まるで靄がかかってるかのようで。」

「玲、大丈夫なの?!やっぱりまだ回復していないんじゃ。」

「違うんだ、姉さん。何か別のものが、あの時のよくわからない記憶が出てくる。あれは本当に何なんだ。」

「あの時というのは?」

「はい。それがーーーー」

玲は戦闘時に自分の身に起きたことを簡潔に全員に説明する。

「覚えがない記憶か。やはり本人に聞くまでは何も解らなそうだね。となるとこの話はこれ以上は進展がなさそうだし終わりにしようか。」

「お待ち下さい!!九十九本隊の是非についてはどのように致しますの?」

「まだそんなことを言ってんのかお前というやつは。この際戦力になるなら別に良いだろう。」

「何を言っているのですか、お父様!わたくしが総司令官になった時に規則が乱れていては統率がとれませんわ!」

「確かに芽狐ちゃんの言う通り組織としての信用を維持するのには重要なことだね。となると隊の人数を5人以上にして欲しいかな。誰か7級以上の隊員を引き抜いておいて。まあでもこれからの戦闘が終わってからでいいよ。皆もそれでいいかな。」

全員がその言葉に素直に従い頷く、一人を除いて。

「私の能力で契約をさせろ、九十九。そうすれば少しは妥協が出来る。」

「確かに司令がそうしてくれれば我々も安心はできる。」

「わかった。さっさとやれ。」

「貴様等の存在を受け入れよう、組織への従属を要求する。」

「相変わらず便利だな、その能力は。それでこれからはどうすんだ。5日後には来ちまうんだろ。」

「ああ、会議が終わり次第基地周辺の人間は全員避難させる。できれば横浜市内の人間は全員避難させたいんだけど。」

「政府は認めないだろうな。少なくとも犠牲が出始めるまでは。」

「そうだろうね。相手の規模は解らないけどひとまず今回は各本隊から本隊長、加えて8級以上の隊員に出てもらおう。それと東君の錦華隊にも。少しでも死亡者は減らしたい。では解散だ。各自準備をしておいてくれ。」

「「了解。」」

会議が終わり全員が会議室を去る。



「姉さん、本当に母さんは敵なのかな。」

「本当だったとしても私達は見捨てられただけ。」

「そっか、、、」

「大丈夫、私はあなたを見捨てたりなんかしないから。」

「うん。」

「本隊長、私は戦闘に出るとしてキラリはどうしますか?流石に一人で基地に残すわけには。」

「本部に移ってもらう。それならなんとかなるはず。」

「そう先に連絡しておきます。」



ある喫茶店で、匠と丈一それから兼悟の3人が同じ机で座ってコーヒーを飲んでいる。

「よく我慢したな、榊原。俺は後先考えず殺すのかと思ってたのだがな。以外にお前は健常だったらしい。」

「何言ってるんですか先輩。あれでもやりすぎですよ。総司令だって困ってたはずだ。」

「俺達の前でも総司令呼びか。相変わらず堅いな。」

「くだらないことを話すだけなら私は帰るが。」

「待てよ。相談したいことがあんだよ。芽狐のことだ。ああいう年頃の女は何考えてんだかさっぱりだ。天舞も同じくらいの年の娘がいただろう。」

「正直芽狐ちゃんは特殊ですよ。うちの美虎みとらは大人しいですし。」

「帰る。」

匠は怒りを隠さずに乱暴に立ち上がり店を出ようとする。

「冗談だ。そんなことを話したかったんじゃない。九十九姉弟のことだ。どうだった?」

「見ていただろう。大したことはなかった。」

「そうじゃない。あいつの能力は系だったか?」

「知らない。だがあいつの体に穴を開けたが塞がっていた。ネメシスというのは間違いないだろう。」

「だろうな。この前の戦闘でも足を1本飛ばされてたが気付いたら回復してやがった。」

「ですが、東司令が能力使ってましたし大丈夫なのでは?」

「まあな。俺の気にし過ぎか。」

「珍しいな、あんたがそんな事を言うとは。」

「確かに。どうしたのですか?」

「別に何でもねえよ。気になってたから聞いただけだ。まあいい、当日は俺が一番強い奴と戦わせて貰う。」

「それを言いたかったのですね。」   「勝手にしろ。」

「ああ、そうさせて貰う。」



そして5日後。

「さてさてそろそろ来るんじゃないかな。できる限りの避難は?」

「完了しています。ネメシス砲のチャージ等も既に終わっています。それに九十九本隊から天ノ川隊員が来ているので援護はかなり行えるかと。」

「私にお任せ〜。」

「うん。」

(できる限りの対策はした。後は敵の数が問題かな。)

「来たか。」

上空に裂け目が開く。その数は3つ、大きさは最大級であった。中からは大型ネメシスなどの低級ネメシスも大量に出てき建物を破壊し始める。




「はははっ、今日でこっちは私のものね。」

「””これは聖戦だ””」   「我が神に勝利を。」

「”読者リーディング”、”潰者フィジカー”君たちも好きに戦ってきて。強そうなの殺しちゃって。」

「””御意””」   「かしこまりました。」



「ワガケンゾクヨ コノチヲクライツクセ ラクエンヲキズクノダ」



「我々の生き延びる道はあいつに従うことだけだ。憎き人間共のせいだ。全員皆殺しにするぞ。」

「楽しみー。」   「もう苛々してきたぞ。」   「憐れな仔羊達よ。その魂に感謝を。」



「あいつの相手は俺がしていいか?」

「ごめん兼悟、私にやらせてくれ。けじめを付けたい。」

「言うと思ったよ。」

「君にはあの虫人間を相手してほしい。多分あいつが次に強い。」

「了解だ。」

「あの時の辞書野郎は私が殺す。」

「おい、匠。勝手に行くな。」

しかし匠は無視して光の如くの速さでこの場を離れてしまう。

「私も行く。各自10級一体につき本隊長の原則で戦ってくれ。健闘を祈る。」

「じゃあ俺も行く。」

「私はあのメイドを殺る。」

「ついてくよ、姉さん。」  「お供します。」

「となると残りであの四体を相手すると、、、」

海羅が喋り終える前に全員の背後で眩い光が起こる。 そこから”輝星シャイニング”が現れ、その後ろには全身が岩のような表皮で覆われた大柄なネメシスと、体より大きい翼が生えた顔に目と鼻がない小柄なネメシスが付き従う。



「皆僕を見てくれてるかな。この、僕を!!」

「さっさと終わらせましょう。」    「ギャギャギャッ。」

「さてとショータイムだ!!流★星★群!!」

輝星シャイニング”を中心に無数の隕石が地上に降り注ぎ、辺りは跡形もなく更地へと変わり果てる。



「まずいな。あそこのすぐ近くは避難を行えなかった人達の場所だ。あの人型は完全に無差別に攻撃を行っている。それも、かなり強い。」

「巴音城、及川、牙煌、九条、鳶それから錦華隊、6人の隊であの4体を倒せ。あいつらは私の隊で倒す。」

「それは流石に無謀じゃなぁい?」

「これしかない。あの4体だって群れているが一人一人の力は凄まじい。これが一番いい。」

「ほんとにそれでいいの?僕が手伝ってもいんだよ。」

「その言葉だけで十分だ、鳶。全員負けるなよ。」

丈一も早口で言い残し”輝星シャイニング”の方向へと向かっていく。

「あのー。私だけ場違い感ありません?」

「大丈夫よぉ。強いんでしょおぅ。」

「なら良いんですけど。紗蘭、結界を張って。」

「了解です。ただ戦場全体を囲めるかは微妙です。」

「出来る限りで構わない。それで十分だ。行くぞ葉月。」

「はぁいはぁい。」



こうして各場所において戦闘が始まる。









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神魔の子 @rei-rei-rei-rei

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