第11話  真実

「は?」

麗奈は意味がわからないという顔で聞き返す。後ろに立つ玲も声には出さないが同じ表情をしている。

「神を自称している頭のおかしいネメシスと接触したんだ。彼女の発言からしてこっちの世界にネメシスを送っているらしい。その特徴がさ君たち二人に似ている気がするんだよね。」

「ふざけているの。あなたは人間とネメシスを見分けることすら出来ないのか?」

「武器の悪魔王、これって君のことを指していると思うんだけど。結局君の能力は何なの。もう情報を教えてくれても良くないかな?」

「自分でもよく知らない。イメージで剣を出せるのと特殊な武器を生み出せること以外は。父が私の能力を知っているようだった。」

「お父さんも能力者だったの?」

「知らない。」

「もういいだろう、総司令。不安の種は消せばいい。」

匠が立ち上がり、麗奈の方を向く。その体には電流がほとばしっている。

「おい、匠っ。」

丈一が言い終わる前に麗奈へと電撃が放たれる。背後の壁に穴が空き外が見える。

「草薙神剣」    

刃のバリアに身を守られた麗奈は武器を取り出す。後ろでは玲も能力を開放している。

「はぁ、やるなら外でやってくれ。及川、外に適当に足場を作ってやってくれ。」

「はいはぁぃ。」 

呆れたようにが丈一が匠に言い捨て、葉月は空いた穴から氷で広い足場を作る。他の本隊長も止める気は一切なく、兼悟に関しては何も言わず笑いながら見守っている。

「だそうだ。外に出ろ。ネメシスが。」

「刃、あなたは引っ込んでなさい。これは私達二人の問題だから。」

「了解です。」

刃が離れるのを見届け麗奈は外へ出る。玲もそれに続く。

「殺していいですよね?」

匠は御影に尋ねる。そう聞きながらも有無を言わせない雰囲気を放っている。その眼は邪魔をするならお前も殺すと言っているかのように恐ろしいものであった。

「戦ってみて本当にネメシスだったら仕方ない、いいよ。」

「感謝しておく。」

感情を込めずに言い捨て、匠も外へ出る。

「死ね。」

上空から麗奈めがけて稲妻が降り注ぐ。

「女神乃護」

玲の天使の翼が麗奈を守る。降り止むのと同時に麗奈は前へ飛び出し匠の体を斬りかかる。匠の上半身が空に舞う。

「弱すぎる。だから言ったのに。」

「いや、姉さん!!危ない!!」

雷冥槍いかづちのとむらい

油断していた麗奈に電気の槍が容赦なく突き刺さる。

「弱すぎるというのは自分に言ったのか?」

「なぜ、、?」

玲は目の前で匠が元通りに立っていることに驚きが隠せない。

(確かにあいつは真っ二つになったはず。自分自身すらも電気にできるのか!?)



「なんて奴だ、あの野郎。あいつこそ本当に人間か?」

「その疑問はもっともだよ、牙煌、だったか?匠のネメルギーは電気に変換できるらしい。それを操るのがあいつの能力らしいのだが、あそこまで出来るとは思ってなかった。」

「お父様の能力に似てますわね。」

「感覚は確かにな。だが体を真っ二つにされて復活できるかはわかんねえがな。」

「では、九十九が勝つことはなさそうですね。」

「でも二人の能力もまだなんかあるかもよぉ。」



「姉さん、大丈夫!?」

「大丈夫。玲は自分の身を守ってなさい。本当に殺される。」

麗奈は立ち上がり草薙神剣を拾い、瞬きよりも速く距離を詰め再び匠の体を斬り上げる。

「その武器なにか仕込まれているのか?斬られる時だけ能力が発動しないのだが。」

匠は体を金色に光らせ電気で作られた不完全な状態で空中に留まる。

「だが当たらなければなんてこと無いか。」

「万能万鎖」

鎖を取り出し草薙神剣を付け凄まじい速度で振り回す。

(草薙神剣は有効なのね。ならばこれで距離を取って闘うまで。)

「今度は近づかれたら何も出来まい。」

至近距離まで唐突に匠が現れ麗奈の体を電流が貫く。

「くそっ。」

流石の麗奈もこれには敵わず倒れ込んでしまう。が、

「草薙神剣・らん

匠の周囲を囲むように何十本もの草薙神剣が匠の体に突き刺さる。

「ぐはっ。最後まで足掻きやがって、、」

もはや怒りを隠そうともせず本性を表し、剣を無理矢理抜き麗奈に投げつける。

「貴様っ、天乃光柱!!」

「そんな溜めの長い攻撃に当たるかよ。お前はどうせずっと姉に甘やかされてきたのだろう。だからこんなにも弱い。」

匠の拳が玲を殴り飛ばす。

(くそっ。あいつは今能力が使えないはずなのに何で敵わないんだ。私が弱いから。自分も弱者を散々馬鹿にしていたのに、結局またこうなる。いや、あの時の感覚を、、、)

玲は痛みをこらえ意識を落としていく。

(あの時の力をもう一度、、、、)

「””そのような行為はお止め下さい””」

無機質な声が響くと同時に異様な人間が玲の後ろに現れる。全身に文字のような模様が刻まれその体の周りには分厚い本が何冊か浮遊している。

「””この場をお借りして今年度の襲撃予定日について発表致します””」





異空間の長机に二人の女性が座っている。

「何故”読者リーディング”を送った?」

「彼が適任だからね。」

「そういうことではない!何故わざわざ相手に情報を渡す。奇襲すればすぐに片がつくだろう。」

「何いってんの。私は神だよ。神が不意打ちだなんて良くないだろう?」

「お前は頭が湧いているのか?」

「おっと君は期限までに達成が出来なかったのだから私のことは、我が神、と言う約束でしょ。それに何か口悪くなってない?」

「敬う必要はもはやないと思ったからな。それより”享者ワンダー”達を返せ。」

「あーすぐ会わせてあげるよ。いまちょっと野暮用で使ってるからね。」

「それで話はいつになったら始める。お前が今度の襲撃について話すと言って呼んだのだろう。」

「約束守ってってば。次お前って呼んだらお仲間一人殺すよ。神の裁きでね。それと話は全員揃ってからね。今回は他の国の子たちにも話を付けたからね。一様君の国を含めて3カ国に参加してもらう。お、来た来た。」

狂者クレイジー”の左右から新たな者たちが現れる。

「我が神よ、役目を遂行いたしました。」

「うん、おつかれ”潰者フィジカー”」

「私達も連れてきましたよー。」

「君たちもおつかれ。」

潰者フィジカー”と呼ばれたメイド姿の女性は全身が外骨格に覆われた甲虫のような見た目をした者を、”享者ワンダー”達は煌びやかな姿をした者を連れて空間に入ってきた。

「さて揃ったしまずは互いに自己紹介をしようか。はい順番に。」

「”輝星シャイニング”だ。よろしく。」

「”狂者クレイジー”だ。」

「”蟲王インセクター”。」

「はい、ということで襲撃について話しまーす。まず、日にちは、、」




「””今日から5日後、この地で終焉が舞い降りる””」

雷波動いかづちのいななき

「””壁ーー建物において床と屋根または天井を除く四方を囲うもの、または部屋と部屋の隔てとなるもの、建物の仕切りとなる平板状の部分””」

匠の攻撃が突如出現した壁に阻まれる。

「””話は最後まで聞きましょう、我が神はその日神を崇拝する者共を引き連れてあなた達、ひいては人間に引導を渡す””」

「何でそんなことわざわざ言いに来たのかな。」

外に出てきた御影がそう問う。

「””公明正大、後生大事””」

「は?」

「おい、さっき話しかけたということは私を知っているのか?それは私がネメシスだからなのか?」

「””貴方様は我が神の御子、それ故愚行を止めた次第で候””」

「なら姉さんは!?」

「””我が神からの言葉は以上””」

玲の質問に答えず、そう一方的に言い残すと小さな裂け目を生み出しその中へと消えていく。




「””役目の完了、めでたしめでたし〜””」

「”読者リーディング”、それは良かった。こっちも話し合いはあらかた済んだところだ。」

「””それは大変喜ばしいことですわ””」

「前よりひどくなってない?この前会った時はまだまともに会話できてたんだけど、今のこいつは狂ってるとしか言いようがない。君さぁ、何個人格混ぜたの?」

「さあ、もう覚えていない。でも彼は私の作品の最高傑作の1つだよ。」

「相変わらず悪趣味だな。まあいい、僕はとりあえず帰らせてもらうよ。決行日には優秀な部下を二人連れてくる。君の思い通り事が運んだら約束通り、パフォーマンスを行える場所を提供してくれよ。じゃあ。」

「ワレモカエル ラクエンヲキズクバショト ケンゾクタチノエサノヨウイハ ハヤメニシテオケ」

「はいは~い。」

「”輝星シャイニング”は分かるが何故”蟲王インセクター”にまで声をかけた?奴は危険じゃないのか?向こうの人間全員食い尽くされるかもしれないぞ。」

「大丈夫でしょ。私より弱いし。神の意志は絶対だよ。じゃあ私も席を外すよ。”読者リーディング”と”潰者フィジカー”行くよ。」

「承知いたしました。」   「””お供しましょう””」




読者リーディング”が去り全員に同様が走る。

「ひとまず全員一旦座ろうか。」

御影の言葉に従い匠は一度会議室に戻る。

「玲君、本隊長は私が運ぶ。先に中に戻ってくれて構わない。」

「ありがとうございます、刃さん。」

御影は全員が落ち着くのを見届け口を開く。

「色々あったけど会議を再開しよう。あのネメシスの言葉通りならあのレベルのネメシスが何体も来るだろう。本隊長全員で備えるとしよう。」

「本当に横浜だけなのでしょうか?大阪にも来る可能性は?」

「三日前、私の元に現れたあの人型ネメシスに心当たりがあるんだ。その予想が真実だったらあの言葉は100%事実を言っている。」

「心当たりというのは?」

「巴音城君ちょっと待って。聞きたいことがあるんだ。九十九玲、君の母親はこんな見た目じゃなかった?」

御影は御札を一枚消費しスクリーンに映像を投影する。あの時のネメシスの姿を。

「えっ、、確かに母さんに似ています。」

「完全に黒だな。やはり殺すしかなさそうだ。」

「待て、匠。本人達も自覚していなかったのだ。安易に殺す意味はない。それに二人は完全に能力者と見た目が変わらない。もしかしたら本当に人類とネメシスには違いがないのかもしれない。」

「丈一の言う通りだ。だが襲撃を前に一つだけ明らかにすべき事がある。自分がネメシスだと知り実の母親が敵である、という状況でも君たちは人類の味方で有り続けてくれるか?返答次第では本当に殺すしかなくなる。」

「玲、、、あなたが決めて、、、私は、、、あなたの意思に従う。」

「姉さん、、私は、、人間として戦います。」

「例え母親を殺すことになっても?」

「母さんは人を殺すような人じゃなかった。そいつはもはや母さんではないです。」

「なら私も人間の味方をする。」

「弟の方はともかく、そんな考えの奴を信じられるかよ!」

「君はさあ、弟のことだけの為に命をかけられるの?」

さっきまで寝ていた嵐が急に起き上がり麗奈に聞く。

「当たり前じゃない。玲は私のたった一人の家族、それに姉は弟の為に命を賭けるもの。」

「じゃあ僕の姉さんもそういう気持ちで僕のことを守って死んだのかなぁ。」

「きっとそう。姉というのはそういうもの。」

「そっか。総司令官、僕は二人の処罰に反対します。ということで寝ます。」

「隊のことは置いといて私も殺すのは反対かなぁ。」

「葉月がそう言うのなら私もその意見に賛成しよう。組織の規則は守ってほしいがな。」

「では本隊長と司令官9人のうち5人が殺すことは反対みたいだけどそれでいいかな。」

「ちっ、まあ確かに殺すのは目覚めがわりぃ。」

「お父様の意見にわたくしも賛成ですわ。」

「私もとりあえずそれでいい。匠は?」

「興味が失せた。何でも良い。それよりこいつらの母親だかの方の強さに興味がある。」

「よく言う。お前が散々殺す殺す言ってただろ。」

「丈一、弱者に時間を割くのは無駄だろ。」

「はいはい。それよりその心当たりがあるというのは。」

「そうだね。じゃあ少し昔の話をしようか。」



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