第10話  降臨

「総司令だと。今まで一回も姿を表していなかったではないか。それが何故、今?」

「私は事情があって基本的に西本部基地にいるんだよ。今回はさっき連絡が受けて来たの。」

「くっ、だがまだだ!!狂喜乱進クレイジーパレード!!」

周囲を飛び回っていた拷問器具が物理法則を無視した動きで御影を襲う。基地の最上階が崩れ落ち跡形もなくなる。

(能力も強さも知らないが一気に畳み掛ける。ここまで来て引き下がれるものか。)

狂喜乱舞クレイジーダンシング!!」

「全部消えちゃって。」

御影の周りから”狂者クレイジー”以外の全てが消え去る。

「何をした、貴様!?」

狂者クレイジー”は目の前で起きたことを受け入れられなかった。

(私の武器だけでなく、兵まで跡形もなく消されただと?)

「ぐっ。」

狂者クレイジー”の体が固定される。何もない空間から無数の鎖が出てきて巻き付かれたのだった。

「拘束完了。残念でした。」

「どうなって?」

「私の能力はとても単純だよ。好きな能力を一つだけ使うことが出来る御札を一日一回作れる。ちなみに私は物心ついた時から一日たりとも作るのを忘れたことはないよ。だからほら、札の枚数は一万は超えているよ。」

「馬鹿、な。」

(勝てる訳なかった。こんな化け物。あの女最初からそれを知って話を持ちかけてきたのか。ふざけるなよ、今までの苦労は何だったのだ。)

「さて、残り3体も手早く捕らえようかな。」

その時、新たな裂け目が開き神々しいオーラを放つ女性が現れる。その見た目は人間と違いが一切なく、ネメシスと思わせない程の美人であった。 

「それは駄目だよ。〝集〟」

彼女の元へ”狂者クレイジー”・”享者ワンダー”・”怒者アンガー”・”哀者サデン”が一瞬にして集まる。

「なになにー?」  「何だ?」  「おやおや?」

「今回はこれぐらいで終わりにさせてもらうよ。」

「あなたは何が目的、というか誰なのかな?」

「私?私はね神だよ。この世界を統べるべき全知全能の神だ。そうだね、折角だし久しぶりにお話しようか。君たちは先帰ってて指示するまでは大人しくしてて。」

「待て、期限は残っているはずだ。我々はまだやれる!」

「黙れ。私に逆らうな。神の御言葉に従いなさい。ということでばいばい。」

そう一方的に言い残し四人のネメシスを強制的に裂け目の中へと送り込む。そして、どこからともなく空間から椅子を取り出しそこに座る。

「私の目的だったけ。端的に言うと向こうとこっちの世界を一緒にしたいんだよね。」

「何のために?」

「2つも世界があると大変だろう。1つにすれば皆が同時に私を崇めることが出来る。そうだろう?」

「そんなことのために裂け目を開けて化け物を送り人間を殺しているというの。そもそも人型ならともかく、奴らに知性など無いでしょ。そんなのから崇められてあなたは嬉しいというわけ?」

「そんなこと?大変重要なことの間違いではないのか?それに勘違いしている。人間もあっちの皆も大して変わらないさ。」

「あのゲテモノと私が同じに見えるのかな?」

「あー、違う違う。あれは罪人を適当に改造した実験動物だよ。どれぐらい強くなったかを試したくて送り込んでたんだよ。そうじゃなきゃ本当によく似た姿をしているよ。違いはそうだね、核さえ壊されなきゃ自然に回復することかな。」

「君の世界にも文明があって君を王とした国があるということ?」

「うーーん、ちょっと違うかな。向こうもこっちと同じで色んな国が存在している。私を敬っている国はまだ無いんだよね。でもそっちは何とかなる。問題は君たちさ。全然くたばってくれないからね。でも私は戦いたくないの。だって神なのよ。神が殺しだなんて良くないでしょ。」

「ふざけているの?今あなたを殺してもいいのよ。」

「落ち着いてよ。すぐにそういう場は作ってあげるからさ。それより君たちには感謝しているよ。既に撒いた芽が出始めている。神と魔のハーフと武器の悪魔王。かつての力を取り戻しつつある。」

「何の話をしているの?」

「分からなければそれでいい。それじゃあいずれまた逢う日まで、といってもすぐに襲撃を行う予定だけど。それに関しては今度使いを送るよ。ばいばい、。」

そう言い残し彼女も姿を消す。

「何故、わたしの名前を?」




この襲撃から3日後、破壊された住宅は少しずつ復興され始め、建築の能力を持った者達によって本部基地の修繕も完了。組織総司令官によりの本隊長への緊急集結命令が出される。




玲は朦朧とした意識の状態で目を覚ます。自分の眠っていたベッドの横には麗奈とキラリが椅子に座って眠っていた。扉の近くには刃も離れて椅子に座っていた。

「体調の方はどうだい?大きな怪我は治っているようだったが。」

「少し体が気怠いですが、気分は悪くないです。」

「そうか、それなら良かった。君に何かあったら本隊長に合わせる顔がなかったからな。安心したよ。」

「ん、起きたの、玲。キラリ、あなたも起きなさい。」

麗奈が気配に気づき目を覚まし、眠りこけているキラリを起こす。

「はえっ。はっ、いつの間に眠ってて。玲君は!?」

「もう大丈夫です。心配かけてすみません。」

「良かった良かった〜。」

「玲、もう戦っちゃ駄目。全部私に任せれば良い。」

「姉さん、大丈夫だって。」

「そんなことより本隊長、集結命令が出されてますよ〜。今回で隊の存在について決着つけちゃいましょ〜。東司令の賛同も多分得られるでしょうし。」

「行かなきゃ駄目?」

「本隊長、お言葉ですが総司令官が関わる以上従った方がいいかと。」

「わかった。着替えてくる。刃と玲もついてきて。キラリはいつも通り留守番ね。」

「は〜い。」




麗奈一行が会議室に到着する。部屋に入ると既に全員揃っていた。

「相変わらず遅ぇな。」

入るなり光己がキレた口調でそう言う。

「常にこのような有り様だから今回散々な結果だったのだろうな。」

「あぁ、何だとてめぇ。こいつの問題で俺等は関係ねぇだろ!」

「全て繋がっているだろう。もっと早く九十九の問題を片付けていれば被害は抑えられただろう。そもそもお前はそこの5級に負けたのだろう。情けない。」

「てめぇ。殺されてえのか!!」

「それぐらいにしておけたくみ。すまないな牙煌。」

「ちっ。」

「ごめんねぇ、丈一君。」

「甘やかすから半端な奴らになっている。それだから10級を一体も殺せなかったのだろう。」

「それについては耳が痛いよ。申し訳ない。」

その時、部屋に御影が入ってくる。

「全員揃っているな。それでは組織上層部全員による緊急会議を行おうか。あーだがその前に牙煌君には西組織の本隊長を紹介しておこうか。名前と階級だけでも教えてあげてくれ。」

「ではまず私から。天舞丈一あままい じょういち、10級だ。」

一番手前の男から軽い自己紹介を始める。続いて向かいの女性が話し始める。

「わたくしは九条芽狐くじょう めこよ。今は9級だけど、いずれこのわたくしが総司令官になるので、わたくしに従うつもりでいなさい!」

「はっ、お前じゃ無理だよ。」

「そんなお父様、わたくしならできますわ!!」

「はいはい、わかったよ。」

めんどくさそうに兼悟は返事をする。続いて隣で気だるそうな顔をしている少年が口を開く。

「あーねっむ。僕の名前は鳶嵐とび らん、9級。」

早口にそう言い終えると机に突っ伏して眠り始める。最後に嵐の向かいの男が話し始める。

榊原匠さかきばら たくみ、10級だ。」

「というわけだ。皆、仲良くしてくれ。」

「それはそっちの出方次第だな。」

「君は少し嗜みを覚えた方がいい。」

「だから雑魚に調子乗らせるべきではない。」

「はいはい、さっさと始めようか。そうだな、まずはずっと問題になっていること、九十九本隊の存在についてだ。反対の者は挙手を。」

麗奈、玲、刃、兼悟、東以外の全員が手を挙げる。

「んーと。司令官二人は賛成か。」

「えぇ、能力の代償でして。」

「面白いやつは残すべきだと俺は思うのだがな。」

「そっか。一様君達3人の意見も聞こうか。」

「意味がわからない。私が一番強いのだから素直に従えばいいだろう。」

「なるほどね。ただ色々情報を整理した上で九十九姉弟に聞きたいんだけど。」

御影が神妙な表情で二人のことを見る。


「君たち二人、ネメシスじゃないよね?」


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