第6話  激闘

 巴音城海羅は眼の前で起きたことをすぐに理解ができなかった。自身の部下の首が吹っ飛んだのだ。更に気付いたら九十九麗奈は自分の後ろに立っていた。

「恵壱!!」

 伊島恵壱の体は光の粒子となって消え去る。

(なんて速さと躊躇のなさだ。結界がなかったら本当に恵壱は殺されていた。あの女、結界のことを知って、それとも、、)

「海羅ぁ!早くぅ!」

「わかってる。」

 そう言い海羅は能力を発動させる。

「葉月追い打ちをかけろ!」

 その言葉を言い終わる前に葉月も動く。麗奈がいたが一瞬にして凍りつく。

「あれぇ?」

 麗奈は葉月の後ろに回り込みその胴を一刀両断しようとする、がその刃は流香による突風で逸らされかすり傷で終わる。

「ナイスゥ、流香ぁ。というか海羅ぁ?」

「いやちゃんと見ろ。仕事はした。両腕と左足に2個ずつと右足に3個、1個五キロの重りをつけた。」

 その言葉通り麗奈には四角い物体が埋め込まれていた。

「じゃあ何であんな早く動けるんですか!?」

「柳川、それは俺が知りたいぐらいだ。それよりさっさと全員能力を使え!のんびりしたら一瞬でやられるぞ!」

 麗奈は海羅に狙いを定める。麗奈が剣を海羅に向けて振るうと金属同士がぶつかり合う音が響く。麗奈の一閃を海羅の腕が受け止めたのだ。

「この重りあなたのよね。邪魔なんだけど。」

「そうは見えないがな。」

 お返しとばかりに海羅は拳を放つが簡単に受け止められ、蹴りを横腹に入れられる。しかし鈍い音が鳴り、麗奈の足が砕ける。

「?」


 巴音城海羅の能力は”鉄能面メタルメンタル”といい金属の具現化及び肉体の鋼鉄化が可能。その硬さは心の持ちように左右され心が折れると能力は発揮されなくなる。ただし心を強く保つ限りその硬度はあらゆる物質より硬い最硬の要塞と化す。


 麗奈は凄まじい速度で再び海羅に斬り込む。その剣は海羅の肩に弾かれ真っ二つに折れる。

「今がチャンスだ。お前ら!」

「駄目です。私と湊谷の能力は一切効かないみたいみたいです。」

 杉江が悲壮な顔をしてそう告げる。

「俺も兄さんをやられたので役に立ちそうにないです。」

「仕方無い。わかっていたことだ、格上に能力は通用しない。お前らは援護射撃を頼む。狙えるなら足か急所をやれ。」

「「了解!」」

「全員一斉に退避してください!!最悪な未来が見えました。」

 柳川が焦ったように叫ぶ。彼の能力は”未来可視フューチャリング”といい自分に降りかかる不幸を予め見ることが出来る。

 柳川の言葉に合わせて全員が後ろへと退けざる。言葉通り全員がいた場所に大量の大剣が現れ無数の斬撃が地面を抉る。

「これが能力のようだな。本気を出してきたわけだ。」

「本隊長、諏訪林が間に合わずやられました。」

「うん。」

 葉月は流香の言葉を聞き流して思案する。(一対一だったら何も考えず戦えるんだけどなぁ。周りの影響を考えると出力を抑えないとなぁ。)

「巴音城だったか。まずはお前からだな。」

 そう言い終わると同時に海羅の体を無数の剣が襲う。周りには火花が飛び散り、金属音が鳴り続ける。

(前が見えない、、いつになればこの攻撃が終わる。)

海羅の体にヒビが入り始め所々が削れていく。

 葉月の氷撃、流香の風圧弾、他の隊員の銃弾が麗奈を狙うが全て突如出現した剣によって弾き返される。

「早く海羅を援護するよぅ。あんま近づき過ぎちゃ駄目だからねぇ。」

草薙神剣くさなぎのつるぎ

 麗奈が少し無骨な剣を出現させる。その剣はこの場全員が感じられるほどの禍々しさが漂っていた。(あれは絶対にまずいよぉ。)

「かい、、」

 葉月が言い切る前に海羅の体が斜めに袈裟斬りされる。

「た、隊長が。」

「まずい。全員シールド展開し、、」

 柳川も言い切る前に両断され上半身をふっとばされる。それを全員が認識するとともに杉江と伊島の体も両断される。

「本隊長!!どうしましょう!!」

「お姉ちゃん、落ち着かないと!彩花ちゃん能力効かないの?!」

「美紅、全然駄目!!本隊長指示を下さい!!」

「俺が少しでも抑える!”金剛力ダイヤモンド”発動!!」

 そう叫び熊坂悠は全身をダイヤモンドの鎧で覆い麗奈の方へと突っ込む。

「本隊長、俺は巴音城さんと違ってずっとは防御を固められない。すぐ破壊されちまう。だから立て直しは頼みます!!」

 しかし、あっけなく熊坂の体は豆腐であるかのように簡単に両断される。

「なっ。無理だあんな化け物っ。」

 巴音城本隊唯一の生き残りである湊谷は絶望し膝を地につける。そんな湊谷を無慈悲にも麗奈は切り捨てる。

「私に何故勝てると思ったの?あなた達ごときが。」

「全員銃の有効射程まで下がって。私一人でやる。」

 そこには気だるそうな顔をした葉月の姿はなく、真面目な表情をして麗奈に対峙する。その体の周りには吹雪が吹き回っていた。

「了解です。ご武運を。」

 流香はそう言い全員を連れて少し急ぎ気味に場を離れる。(あんな表情をしてる本隊長は初めて見た。あれこそが10級ネメシスを倒したときの姿なのであろう。だとしたら巻き込まれないためにもすぐに立ち去らなければ。)

「お姉ちゃん、離れ過ぎじゃない?ここからじゃもう銃が届かないよ。」

「美紅、そんなことはもう関係ない。まだ離れないと駄目。」

「えぇ〜!?」

「知らないの美紅?本隊長がかつて10級と戦った時街一つ氷漬けになっているのよ。そうなりたくなかったら黙って従いなさい。」

「わかったよ、彩花ちゃん。」

二人の強者の戦いが始まろうとしていた。



牙煌光己は自分のさっきまでの油断に苛立つ。(何なんだよ、こいつ!俺の隊が全然相手になんねぇじゃねぇか。)

刃は自身の身長ほどの大きさがある鉄棒のような物を使って戦う。この武器はキラリの制作したものでありストッパーを外すと広がり盾にもなり折りたたんでいる間は鈍器になる便利なものであった。

「おい、光己全然攻撃がとおんねえぞ。どうすんだこれ。」

いかにもなヤンキーのような姿をした男ーー常世田将一が光己に声をかける。

「やつの能力はバリアらしい。まあいい俺の能力でいつも通りぶっ壊すだけだ。」

「援護はおまかせを、本隊長。」

「ああ、紗来。お前らも全員下がっとけ!!巻き込まれたくなかったらな!!」


牙煌光己の能力は”四神獣ゴッドビースト”という。その名の通り四神獣ー白虎・青龍・玄武・朱雀の召喚及び自身への憑依が出来る。それぞれの神獣には異なる能力が付与されている。


「白虎憑依!!」

光己の体白く輝き両手から鋭い爪が生え、衝撃で周囲の空気が震える。次の瞬間その爪が刃の体を襲う。

障壁バリア

しかし、爪はその勢いのままバリアを貫く。

「とったぁ!!」

爪が刃の首をとらえるより早く、刃の武器が無防備な光己な体を横からふっとばす。

「へっ。効かねえなぁ。」

光己の当てられた部分は沢山の小さな亀ーー玄武が守っており、光己は衝撃こそ受けるも無傷であった。

「ははははっ。」

刃は唐突に笑い始める。

「何勝ち誇ったような顔してんだよ!白虎の能力はな爪への防御干渉の無効化なんだ。つまり、お前は俺との相性最悪なんだよ!!」

「当たればだろ。」

「あぁ?」

光己は不毛な会話に耐えきれず襲いかかろうとするが、

「がっ、何だよこれ。」

光己が速度を出すより早くバリアが移動を妨害する。腕を振りかぶりバリアを破壊しようとするが振り上げた腕もバリアで固定される。

「てめぇ、卑怯だぞ!!」

「さっきまでの威勢はどうした。」

離れていた牙煌本隊も焦って援護射撃をするがバリアにより止められる。

「牙煌本隊長には少しの間大人しくしてもらおう。」

そう言い光己の体を両腕は固定しバリアで覆う。そして隊員の元へと詰め寄る。能力を全員使用するも誰もバリアを突破できない。

「駄目です。本隊長にしかバリアは砕けません。どうしましょう!?」

「落ち着け紗来。虎達、龍生、対ネメシス用のランチャー組み立てろ!効くかもしれねぇ!」

「”重力グラビティ”発動!」

宗彦崔は能力を使い刃の足を固定させる。

「ここまでか。」

諦めたように刃は呟く。

「ランチャーは効くみたいだぞ。こいつは諦め始めた。俺が止めてる間にぶち込め!」


違うのだ、その言葉の意味は。その意味は手加減するのがここまでの限界だと言うことだった。刃はできれば殺したくないと思っていたが、遠目で麗奈が躊躇なく戦っているのを見て決意したのであった。今の刃に迷いはない。


前触れもなく彦崔の体が潰れる。刃のバリアはネメルギーが尽きるまで展開可能であり展開中の操作も可能であった。彦崔は地面とバリアに挟まれたのであった。同様にして長本虎達と志摩田龍生の体もランチャーごと圧殺される。

(そんな事ができたのかよ。俺等はさっきまで手加減されてたのか。ふざけんな、このまま終われるかよ!)   

「青龍召喚!!」

光己の眼の前に巨大な青い龍が出現する。 

「まだ諦めねぇぞ、武藤!!」

しかし、光己の熱量は知らないとばかりに管制員から無線で連絡が入る。

「全員撤退して下さい。司令の指示です。」




葉月は眠気を自らの冷風で消し飛ばし麗奈に集中する。

「麗奈これ以上は好きにさせないよ。」

「そんなことより足が痛い。」

麗奈は葉月のことなど眼中にないかのように自分の足の怪我を気にしている。

冬銀世界ホワイトアウト

葉月は巨大な氷の球体を上空に出現させる。その瞬間激しい吹雪と巨大な氷柱や雹が麗奈を襲う。更に氷の剣を作り出し麗奈へと斬り込むが力負け吹っ飛ぶ。麗奈は高速の斬撃で葉月との距離を詰めとどめを刺しにかかる。葉月の抵抗も虚しく氷の剣は砕かれ両腕を斬り飛ばされる。しかしその表情は勝ち誇っていた。

「安易じゃない?」

そう言い息を吹き、近づいてきた麗奈の足を凍らせて固定する。麗奈は気にせず斬りかかるがそのまま剣ごと体も氷漬けとなる。

「終わりね。氷大斬アイスバースト!」

巨大な氷の大剣を生成させ麗奈の胸を貫く。

「がはっ、、」

「ふぅ。なんとかおわっ、、」

勝ちを確信した葉月の心臓を突如空間に現れた剣が貫く。それと同時に吹雪が収まりその場には倒れ込んだ瀕死の麗奈だけが残ったのだった。



「姉さんが!!」

「まだ待って、玲君。」

焦って麗奈の元へと行こうとする玲をキラリは冷静に引き留める。その顔は先程の表情が嘘かのように真剣であった。

「まだ敵は全滅してないよ。彼らの目的は君。本隊長がやられた以上迂闊に動くのは駄目よ。それに刃もまだ倒し終わってない。この結界の中だったら死んでも大丈夫みたいだし、少なくとも本隊長についてはそこまで考えなくて大丈夫よ。」

「でも、」

「安心して本隊長には治癒能力があるから、絶命したわけでは無いし増援が来ない限りすぐに戻って来れるから。刃のことを応援してあげて。」

「はい。」

「そんな顔しないで〜。私も強く言い過ぎちゃってごめんって〜。でも本当に安心して私達に負けは無いから。」




「巴音城本隊は全滅、及川本隊も及川本隊長がやられた今ほぼ壊滅。牙煌本隊も同様です。司令、作戦の実行はいかが致しますか?」

「生き残りは一度本部まで戻らせろ。」

東はこの状況に忌々しく思うが表情には出さない。眉間に皺を寄せこの状況の打破に頭を回す。

(期待はしていなかったがやはり九十九と武藤の両方の殺害は無茶だったか。だが九十九の能力についての情報は手に入れた。やむを得ないがこうするしか無いか。)

「対ネメシス砲を放て。今打てる限りのを全てだ。基地ごと消し飛ばせ。」

「しかし、地形や一般人への影響が!」

「構わん。全員撤退次第早急に行え。」

「り、了解です、、、」



「おい、光己!撤退命令が出ちまったぞ。どうする?」

「どうするも何もねぇだろ。くそっ、撤退するぞ。」

「もう終わりか。口ほどにもなかったな。」

「てめぇ!調子に乗るなよ。次は俺が勝つ。お前ら戻るぞ!!」

その姿を見届け刃は麗奈の下へと駆け寄る。

「本隊長!!意識はありますか!?」

「あぁ。大丈夫だ。基地まで運んでくれ。」

「了解です。」

刃は麗奈を背負い基地へと戻ろうとする時、キラリから無線が入る。

「やばいよ!!相手も対ネメシス砲ぶっ放してきた!!防衛システム作動させるから早く戻って来て!!一分もせずに落ちてきちゃう!!」

「無理だ間に合わない!私の能力でどうにか耐える。」

「無理だって!!疲弊したあなたじゃ2発が限界、10発は来てるのよ!!」

しかし、キラリの言葉も虚しく砲弾が二人を直撃するのであった。


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