第4話  再会

玲は指定された場所ヘ入る。その部屋には片方だけにも10人は並べる長机があった。その机の一番奥に一人の男が座っていた。男は綺麗な七三分けの短髪でその顔には大きな傷跡が斜めに残っていた。その目は鋭く光っていた。

「遅かったな。まあ、とりあえず座れ。」

「それで、二人きりで何を話したい?」

玲は座りながら質問をする。

「落ち着け。まずは自己紹介といこう。私は東本部司令官の東大智あずま だいちだ。なにか他に聞きたいことは?」

「ない。本題に早く入れ。」

「では、そうさせて貰う。君の姉は九十九麗奈で間違いないか?」

「ああ。」

「彼女なのだが強さは認めているが、いかんせん性格に難があってな。我々の命令にも一切従わない。そもそも部隊の編成は五人以上なのだが彼女の隊は彼女を含めて三人のみ。加えて能力も明かさない。要求を呑まない。とまあ、自由なわけだ。それでだが君には彼女の能力の詳細や弱点を話して貰いたい。」

「ふざけているのか。話すわけ無いだろう。」

玲は乱暴に椅子から立ち上がり部屋を出ようとする。

「その怒りを受け入れよう。それで彼女の能力は?」

そう東が聞くと玲の動きが止まる。というより玲は動けなくなったのだ。正確には部屋から出るという行為が不可能となった。そのため振り向くことはできた。しかし、扉へと足を進められない。

「?何が?」

「私の能力は”全平等オールフェア”と言ってだな私が対象の行為を受け入れたときそれと同程度のことを強制的に要求できる。君の姉にはほとんど効かなかったが君には効くようだな。残念ながら要求が履行されるまで能力は消えない。」

玲は尋常じゃない怒りを眼に込めて東を睨む。

「怒りは私が要求した行動ではない。早くしたほうが君のためだ。」

「知らない、、、、姉さんの能力は聞かされていない。」

そう言うと玲の体の制限が解ける。

「なるほど。それでは弱点は知らないか?」

玲は質問を無視し扉に手をかける。

「君が帰ることを認めよう。それで弱点は?」

再び玲の動きが止まる。

「なっ、お前。」

「答えれば退出できるさ。さあ、答えろ。」

玲は怒りのままに能力を使用し姿を変える。

「天乃光柱!」

「能力の使用を認めよう。私の身の安全を要求する。」

東がそう言うと玲の放った閃光は東に命中する寸前にかき消される。

その時、扉をノックする音が鳴る。

「時間か。では今日はこれくらいにしておこう。入れ。」

部屋に入ってきたのは長髪長身の男だった。高級そうな服に身を包み人当たりの良さそうな笑みを浮かべていた。

「おや、取込み中でしたか。これは間の悪い時に。すみませんね。それでこの子が例の?」

「そうだ。とりあえず揃うまでゆっくりしていろ。飲み物ぐらいはだそう。」

「ではコーヒーを。」

「用意させる。少し待ってろ。どうせすぐには全員来まい。」

そう言って東は部屋を出る。

沈黙を破るように男は喋り始める。

「ははっ、そっくりだね。流石姉弟だよ。」

彼は優しく笑いながらそう言うがその目は一切笑っていなかった。

「姉さんは元気なのか?」

「ああ、元気さ。やんちゃ過ぎて後始末が大変なぐらいにね。」

嫌味ったらしくその男は言う。その目は玲のことを探るようにじっと見つめていた。

「それで、お前は?」

「本隊長の巴音城海羅はねしろ かいらだ。残念ながら9級だがな。」

「そうか。これからここで何が始まる?人が集まるのだろう。」

「組織の上層部での会議だよ。議題は恐らく君の件と今日の裂け目のことかな?」

「では、姉さんも来るのか?」

「うーん、どうかな。気が向けば来るんじゃないか?彼女は自由だから呼んでも来ないかもね。まぁ、それも含めた話もするのかもしれない。」

「なんだ?まだ司令はいねぇのか?」

「まだ会議始まんないってことぉ?もうちょっとゆっくりすれば良かったぁ。」

及川と見知らぬ男ーー赤髪のオールバックで服は少し派手で着崩れているーーが入ってきた。その男は部屋に入るなり玲を見て軽くにらみつける。

「てめぇがあの舐めた野郎の弟か。」

「お前は?」

「本隊長の牙煌光己がこう みつきだ。てめえも俺等のルールが守れないんだとなあ。」

「三人揃ったか。では、ひとまず全員座れ。」

東がコーヒーを持って帰ってきた。

「さて、彼女を待つか否かだが。何分なら待てる?」

「あんな奴放ってさっさと始めまてしまいしょう。東司令!」

「十分ですかね。それぐらいはコーヒーを飲んで待ちますよ。」

「私寝ますねぇ。起こしてくださあぃ。」

「では十分待つとするか。」

「司令!いつまであの野郎を放置する気ですか!いくらなんでも目に余るじゃないすか!」

「そうだな。光己、お前が10級になってくれれば話は早いのだがな。」

「なってやりますよ。俺が10級ネメシスと戦えるチャンスさえあれば絶対倒してみせます。」

「期待している。」

その時また別の男が部屋に入ってくる。男は背筋がピシッと伸びており服をしっかりと着こなしその黒髪は綺麗に整えられていた。

「失礼。遅くなりました皆様方。九十九本隊長はまもなく到着されます。」

「来るのか。珍しい。」

「のこのこ遅れてきやがって。司令を待たせるのは許せねえ。」

「そうか。ご苦労、武藤お前も座れ。」

「結構。私は本隊長の後ろに立たせていただきます。」

男ーー武藤刃むとう じん5ーーはそう言って空き椅子の後ろに立つ。




時は少し戻って本部の周りから少し外れた、畑が周りに広がり住宅はほとんど見られない場所にある小さな基地。そこで九十九麗奈は眠っていた。

「本隊長、本隊長、本隊長!」

「う、、、ん。」

「起きてください。もう昼過ぎですよ。」

「ああ。」

「先程、東司令から直接連絡が来ました。上層部会議を行うそうです。」

「今回もいい。今度行くと断っておけ。」

「ただ、気になることがありまして本隊長の弟がその会議に出るだとか。連絡に依りますと彼の規則違反を裁くのも会議内容の一つと。」

「玲が?」

麗奈は眠そうな眼を見開き寝癖のついた自身の銀髪を整え1つに纏め始める。

「本部へ行く。あなたも準備。今すぐ。」

「了解。」

「そうか今年は玲が入学する年だった。もう別れてから5年にもなる。やっと会えるなんて。私のこと忘れてないといいけど。」

感情の抜け落ちたかのような顔にほんの少しだけ笑みを浮かばせてそう言う。

「準備完了しました。先に向かっていましょうか?」

「私が来ることを先に伝えて。それと玲の保護。わかったら行け。」

「はっ。」




玲に目立った傷がないことを確認し武藤は安心する。(本隊長が来るとなると恐らく会議は荒れるだろう。だが議題内容からして本隊長が来ないわけにはいかないか。)

武藤が思案していると、麗奈が到着する。

「さっさと会議を始めろ。それと玲は何処?」

入って来るなりそう言い回りを見渡す。

「姉さん!」

「玲!良かった何もされてないみたいね。見ない間に大きくなって。」

「姉さんも元気で良かった。」

そう言い2人は今までの会えなかった分を取り戻すかのように固く抱き合う。

「おいテメェ、人を待たせた奴の態度がそれか!謝罪の1つもねえのか!」

「あなた達にはすでに失望しているとこの前言ったはず。そんな相手に心遣いは不要。」

「てめぇ!!」

手を叩く乾いた音が響く。

「落ち着け。さっさと会議を始める。座れ。」

そう言われると牙煌は大人しく座る。それを見て麗奈も玲から離れ渋々椅子に座る。巴音城と牙煌が東から見て右側、及川と九十九が左側に向かい合って座る。東は正面に座り本隊長たちとの間に玲と情報員や研究員が2名ずつほど座る。更に奥には少し年の取った者が何人か座る。

「まず、1つ目だが今日同時発生した5つの裂け目だが、眞宮。」

東は手前にいる情報員に声を掛ける。

「はい、DFNO情報部第三指揮官の眞宮綺咲まみや きさきと言います。以後お見知りおきを。報告ですが我々の確認結果を纏めますと今回の裂け目は過去のものを振り返った所4番目に大きいものと判明しました。ちなみに上位3つのものは全て10級発生の時の裂け目です。それに加えて、」

「DFNO研究解明班副班長の桑坂創志くわさか そうしです。彼女の発言のことについて補足させて頂ます。まず、裂け目が完全に閉じる前にネメルギー検出をした所莫大なネメルギーの塊4つが裂け目内に存在していることが確認されました。」

「それは普通のことではないのか?あちらの世界に莫大ネメルギーが検出されるなど何も不思議なことではないと思うが。」

「巴音城本隊長のお考えは最もです。当初我々も大した事には捉えてなかったのですが、5つの裂け目全てで全く同じ検出がされたのです。この事からこの4つの塊は10級ネメシスであり今回の騒動は奴らのものだと結論を出しました。しかし、実際大事にはならなかった事からあくまで推測にしかなりませんが、少なくとも研究班はそう考えています。」

「ご苦労。これを受けて本隊長達には警戒態勢を整えて貰う。ひとまず設定期間は一月とする。続いて九十九玲の処遇だがこれに関しては全員に意見を出してもらいたい。」

「議題はこれで終わりか?」

「その予定だが。何か他に話し合いたいことが有るのか、九十九?」

「違う。玲は別に悪くない。だから帰る。玲、行こう。」

「うん。」

「おい!勝手なことを行ってんじゃねえ!」

しかし、2人は無視して部屋を出る。

「それでは、私も失礼させてもらいます。」

そう言って武藤も部屋を後にする。


「東司令!今回こそあいつらに制裁を与えるべきではないですか!」

「まぁ、流石にねぇ。」

「私の隊にも不平を言う者は少なくない。組織が内部から崩壊するのは避けるべきかと。」

それに呼応して奥に座る人たちも騒ぎ立て始める。

「奴は戦闘時に周りの影響を考えずいつもいつも暴れている。そのせいで二次被害がどれだけ出ているか。」

「そうだ指示通りに動かずそのせいで助けられなかった一般人だっているぞ。」

「「司令!」」、「「制裁を与えるべきです!」」、「「奴らは必要ない!」」

部屋は怒号や訴えにより騒然とする。

「全員黙れ!」

その一言で場は静まる。そして、全員が東に注目を集める。

「司令として告げる。これは決定事項であり命令だ。九十九本隊の3名及び九十九玲の捕縛、加えて奴らの基地内の武器・機材の回収、基地の破壊、これらを3日後の明け方決行する!!」

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