第3話  対峙

 警報がなってから2時間ほど、騒動が一段落し教室に戻った沢渡は悩んでいた。(あの九十九って人普通に何もなかったです、みたいな顔して座ってるけど!?これって先生に絶対報告しなきゃだめなやつだよね!?)そう心の中で葛藤していると、担任も教室に戻ってきた。

「先程の戦闘で正体不明の人間がネメシスを全て殺したという報告が入った。何が知っている者はいないか?」

 担任がそう聞くと、クラスメイトの一人が答える。

「九十九?くんが外に行ったのを見た気がしますよ。お前らも見たよな?」

「あぁ、見た見た。」「俺も見たぞ。」「私もよ。」

 彼の返答を皮切りにクラスメイトが騒ぎ立て始める。

「それは事実か?九十九?」

「はい、こいつの能力で感情を強制的に高ぶらされました。それで、、」

「ちょ、ちょっと。何言い出してんの?先生、僕はそんなことしてません!」

 何なんだこの人は、真面目な顔して普通に嘘ついてるよ。それも僕のせいにしてくるなんて。

「今確認したいのはネメシスを誰が殺したか、それだけだ。九十九それもお前なのか?」

「だとして何か問題が?」

「貴様の能力は翼と記録されている。何故、ネメシスを殺した技について隠した?」

「姉からの教えです。能力を簡単に明かしてはならないと。もう一度言うが何か問題でも?」

「当たり前だ!能力の隠蔽は国家への反逆行為とみなすと組織の規則で決められている。能力の把握を組織が行わなければそれを悪用する者が現れる。それを未然に防ぐための大切な規則である。」

「そうか。」

「今ここで能力の全容を話せ!そうすれば罪は問わん。九十九、話せ!」

「断る。規則より姉さんの言葉の方が優先される。」

「貴様!!」

 その瞬間、先生が叩いた衝撃で教卓は粉々となり先生は狼男のような姿へと変貌した。

「強制的に捕縛を行う。貴様は反逆者と今この時から認定する。」

「その通りです。すでに上と話が付いてます。九十九玲、君には本部基地への同行を要求します。これは命令と捉えてください。」

 声とともに一人の長身の女性が教室に入ってきた。彼女は黒髪ストレートの美人で腰に一本の刀を装備していた。

(この人は誰?一体今はどうゆう状況なの?もう付いてけないよ。)

 沢渡の困惑を知る由もなく玲と二人の能力者との間で戦闘が開始された。




 時は遡り30分ほど前、梢枝原流香こずえはら るか・8級は部下である神林と柊の報告を受け憂鬱になっていた。

 厄介なことが起きた。さっき確認した書類にはそんな能力を持った新入生は居なかった。恐らく隠蔽。それだけでも面倒だというのに九十九本隊長の弟だと?これは司令にも伝えないといけない案件だろう。はぁ、また仕事が増える。そう思いながらも連絡を行う。

「梢枝原です。先程の戦闘で起きたことで報告がありーーーーー

        ーーーーーわかりました。本隊長に伝え次第行動を開始します。」

 解ってはいたがやはり上の連中は食らいついたか。面倒だ、本当に。



「本隊長、梢枝原です。」

「入っていいよぉ。」

 部屋にの中にはソファで堕落した姿を見せる女性がいた。長い髪は薄い水色に染まっており、ゆるくダボダボな部屋着をまとっていた。この人こそが流香に呼ばれた通り、組織にいる8人の本隊長の1人であり4人の10級の1人でもある、及川葉月おいかわ はづきであった。本隊長というのは9級以上の隊員にのみ与えられる役職であり本隊は七級以上の隊員のみで構成される、まさに精鋭部隊であった。そして彼女自身も組織の誇る最高戦力の一員なのであった。

「本隊長、少しは嗜みを覚えてください。ここはあなたの私用の部屋ではないんですよ。」

「細かいことは気にしない気にしない。それで何のようなのかなぁ?」

「はい、それが規律違反の者が現れたのですが、まずその者の能力が凄まじいとのことでした。」

「そんなことかぁ、了解了解。適当に処理しといてぇ。」

「話を最後まで聞いてください。こちらが本命です。報告によると彼は九十九本隊長の弟だと言うことです。」

 それを聞き葉月は興味を示す。

「なるほどねぇ、面白そうじゃん。じゃあ今すぐ会いに行こうかぁ!!」

「上に報告したところ早々に彼を捕縛し本部に連れてこいという達しなのですが、この作戦への本隊長の参加は禁じられまして。盛り上がっている所申し訳ありませんが留守を頼みます。」

「えぇ~、何で駄目なのぉ〜?」

「日頃の行いですね。では私は向かうのでそういうことで。」

「待って待ってぇ、もしも弟君が流香よりも強かったら私が出てもいいよねぇ?」

「まぁ、そうなれば止むを得ませんが、、」

「よっし、言質は取ったからねぇ。じゃぁ、いってらっしゃ~い。」

(本当に自由な人だ。)流香は少し面倒くさく思うもそれを堪えて、学園へと向かうのだった。




 戦闘開始の合図となったのは流香の能力によるものであった。

 梢枝原流香の能力は”乱気流ウィンディング”といいその名の通り風を操る能力であった。そして、その能力により玲は窓ごとグラウンドへと吹き飛ばされる。それに合わせ玲も空中で能力を開放する。

「お前達組織を正義と見なしこの悪で戦おう」

 玲はそう言うと両翼と髪を黒く染めの姿へと変貌させ、真っ黒な片手剣を生み出し流香へと構える。それに応じ流香も彼女専用の特注の刀を抜く。この刀は風を纏わせることができる特殊な構造であり流香はこの武器を最大限まで使いこなせていた。

 乾いた音が響く。常人であらざる速さで互いに刃を交錯させる。

(速すぎる。これが素の速さなの?私は能力で体全身を強化しているというのに。もはや手加減もしてらんないわね。)

 流香はもう一度切り込んだ後、すぐに後ろへ退避し能力を発動させる。その瞬間玲の体が浮き上がる。

(翼が機能しない。恐らく相手が狙ってくるのは落下直前、それに合わせる!)

 しかし、その思惑は外れることとなる。

「俺のことを忘れたとは言わせねえぞ、九十九!」

 担任ーー松植篤まつうえ あつしが背後から身動きの取れない玲の背中に鋭利な爪を向け飛びかかる。

「急所は必ず外せ!致命傷になれば十分だ。間違っても殺すな!」

「わかってらぁ。」

 松植の爪が玲の体を貫通、、、、しなかった。

「な?どういうことだ?手応えが一切感じられなかった。何をしたきさ、、がはっ。」

 勝利を確信しきっていた松植のみぞおちに玲の拳が突き刺さる。そのまま松植は吹っ飛び地面に落下し失神してしまった。

(今の攻撃が通らないだと、あの男の強さは知らないがノーガードの背中だぞ?やはりあの女の弟だけあるということか。)

 流香は玲の強さに関して認識を改め、本気を出すことに決める。

竜巻旋風嵐たつまきせんぷうらん!!」

 そう叫ぶと玲を囲むように四本の竜巻が巻き起こる。巨大なネメシスも吹き飛ばすことのできる流香の奥義の一つであった。

 上に逃げるしかない、そう思い玲は翼を広げ飛び上がる。

「それは悪手だ!」そう言い両手で銃の形を作り玲に向ける。

風圧弾ふうあつだん!!」

 数十発の風の弾丸が玲を襲う。それを見た玲は自身の前方に闇の粒子を数個作り出し弾丸を全て吸収させる。

「そんな、、」

(この女も大したことなかったな。)そう残念に思い、生み出した粒子から無数の黒い棘を出現させ流香の体に突き刺す。

「ぐはっ。くそっ。」

(私では勝てないほどの実力を持っていたか。だが、お前に勝ち目はない!)

 棘が流香の首に突き刺さる寸前、飛行している玲もろとも流香の目の前が凍りつく。

「誰だ?」

「いや~、危なかったねぇ。君ぃ、流香のこと殺す気だったでしょう。」

「さあな。」

「まあどっちでもいいかぁ。それじゃ本部まで来てもらうねぇ。」

「これがお前の能力なのか?」

「そうだよぅ。”氷結世界コキュートス”って言うんだよぉ。身動き取れないでしょう。」

「そうか。面白い。」

 玲は闇の粒子を刃に変形させ氷を破壊する。

「ははっ、そんなこと出来ちゃうんだぁ。」

 笑いながら葉月は息を吹く。再び玲の体が氷に囲まれる。

(本当は戦いを楽しみたいんだけど、まぁ今回は我慢かなぁ。)

千本氷柱せんぼんつららぁ」

 玲の頭上に大量の大きな氷柱が形成されていく。玲も闇の粒子を更に生み出し刃を出現させる。玲の頭上でそれらがぶつかり合い相殺される。

「それ厄介だなぁ。止めにしなぁい?」

無間暗黒むげんあんこく。」

 そう言うと同時に葉月の左右後ろに巨大な闇の空間が起こる。そして畳み掛けるように無数の棘を正面から浴びせる。

「これに入ったらどうなるのかなぁ?」

 そう笑いながらも葉月は内心ひやりとしていた。(強いなぁ、流香が太刀打ち出来ないだけはあるということか。)

 葉月は少し深く息を吸い、強く吹き込む。それにより葉月を守る盾のように氷の壁が出来上がる。更に仕返しとばかりに大粒の雹を大量に玲の方へと降らせる。(ネメルギーで強化した雹、少しは牽制になるといいけど。その内に速く脱出しなきゃなぁ。)

 しかし、雹は玲に命中するもそれはダメージとなっていなかった。そしてその勢いのまま剣を取り出し葉月の方に走り出す。

(やはり奴は攻撃の無効化が出来るのか?だが何故毎回使わないのだ?条件がなにかがあるのか、いや、それより、、)

「本隊長!!上から来ます!!」

 流香のその言葉により間一髪、玲の必殺の一撃を回避する。そして、また玲の体は凍りつき戦況は元に戻る。

(危なかったぁ~、調子乗ってたら本当に殺されちゃうよぉ。どうしたものかなぁ。)

 が、葉月のその心配はすぐに消え去るのであった。突然、玲が元の姿に戻り膝をついたからだ。

「何が?お前何かしたか?」

「してないよぉ。ネメルギー切れじゃないかなぁ。ま、ということで本部に連れてっちゃって、流香。」

 怪我の処置を終えた流香は立ち上がり玲を風で持ち上げる。(くそっ、力が入らない。初めての感覚だ。ネメルギーに限界があっただと?あの女最初からそれが狙いだったのか!?)

「いや~お互い健康のまま終われて良かった良かったぁ。でも安心して弟君、無理矢理連れてく形にはなったけど悪いようには扱われないと思うからさぁ。それと戦闘する時はネメルギー管理はキッチリしないと駄目だよぉ。ネメルギー切れになった隊員は戦場ではその時点で死が確定しちゃうからねぇ。」

「くそがっ。」

 玲は悔しく思うも抵抗できずされるがままに本部へと運ばれていく。



 流香は玲を運びながら連絡を行う。

「対象の捕獲完了致しました。」

「そうか、2人きりで話したいことがある。会議部屋で待っている。連れて来てくれ。」

「了解しました。」

「それから、話しをした後上層部会議を行いたい。他の本隊長への連絡を頼む。」

「了解です。それでは、」

「あぁ」


「九十九、お前にはまずある人と話しをして貰う。処遇はその後に決定されると思っとけ。」

「ある人とは?」

「それは自分で知れ、罪人に教えることはこれ以上ない。」

「そうか。」

 そう話終える頃に本部基地の入口に到着する。

「場所は三階の一番手前の部屋だ。もう自分で歩けるだろう。さっさと行け。」

 流香の態度の悪さに苛立つも今は従うしかないと思い本部内へと入っていくのであった。

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