第2話  強者

 九十九玲は裂け目に向けて飛び立つ。すでに組織の隊員が戦闘を開始していた。

(ネメシスは全部4体、この手でネメシスを殺す。今はそれだけを考える。)

 ネメシスの何とも言い表せないその姿を見ると、思い出したくもない過去の記憶が蘇る。それを忌々しく思いながら玲は近くの一体の傍へと行く。

天乃光柱あまのこうちゅう

 そう呟き、おもむろに両手の指で網目を作るように重ねネメシスの方に向ける。その瞬間ネメシスの頭上から眩い閃光が一本の柱のように降り立つ。それを一瞥して次のネメシスの元へ玲は向かう。そこにはつい先程までネメシスだった物の塵が舞うだけであった。



「おい、今の光はなんだ?」

「知るかよ、あっちの2体は学園の連中が戦ってるんだろ。だったらそいつ等の中の誰かの能力じゃないのか。」

「だが、ネメシスの反応がもう一つ消えてるんだぞ。そんな強い能力を持ってるなら隊員として働くべきだと思わないか?」

「そんなことより目の前のことに集中しろ!考える時間は終わればいくらでもあるだろう、さっさと終わらせるぞ。ったく、そろそろ昼食だって時に出てきやがって。」

「あ、あぁ解った。恐らく3級程度だ、速く片付けようか」 

 本当にこの程度で良かったと隊員ーー神林慧悟かんばやし けいご・6級ーーは思った。裂け目の大きさがここ数ヶ月の記憶だと一番だからだ。正直この大きさだと人型が出ることも警戒した。心配し過ぎだったなと今更ながら安心する。


 ーーー研究者の報告によりネメシスは人間の大きさに近づくほど強さが上がることが判明している。これを受けた組織は隊員とネメシスに対し1から10の階級を設けた。だがこの区分は曖昧であり、正直大まかなものではある。しかし、いわゆる人型のネメシスの強さは他と一線を画し最低でも8級に値する。組織の報告所によると公になっていないが現在までに10級の出現は5回、その5体はいずれも強大な能力と知性を持ち、中には人語を解し話すものもいたという。そしてそれらを殺した能力者こそ組織の最高戦力であり10級の称号を与えられた人類の英雄なのであった。



 神林は今の状況に困惑していた。少し前まで戦っていたネメシスが先程と同じ閃光により消滅したからである。上を見上げると見知らぬ男が空で立っていた。

(まさかネメシスなのか?しかしネメシス同士で殺し合うなどあり得るのか?)

「おいお前、何もんだ!」

 同僚ーー柊洸一朗ひいらぎ こういちろう・6級ーーが恐怖を声に滲ませて彼に問う。柊は今にも彼を、持っている銃で撃とうとしている。

「待て!柊、落ち着け。同じ能力者の可能性もあるだろ。失礼しました、あなたは一体誰なのでしょうか?」

 俺はそう聞き彼の顔を見た、その瞬間背筋が凍るような感覚に陥った。それは彼の俺を見る目が原因だった。その目にはまるで俺達が虫けらかのように見えているのか、そう思える程の冷たい視線であった。彼が口を開いた。

「お前達はこの程度のネメシスを殺すのに今まで手間取っていたのか?」

 その視線と同じくらいに冷たい声でそう伝えられる。

「手間取ってはいたわけではない、だが援護していただけことには感謝している。」

 何故か解らないが彼は怒っているようだった。(このままでは柊がキレ始める、何とか俺が話をつけなければ、、)そう考えるも一足遅かった。

「おい、何が言いてえのか知らねえが質問に答えろ!お前は誰なんだよ!」

 まずいこれ以上怒らせるのは、、

「九十九玲」、彼はそう一言答えた。



 玲は失望していた。しかし、それは期待していたからではなく自分の予想通りだったからである。組織は当てにならない、この2人を見てそう確信した。

(あれで手間取っていないだと。つまりこいつ等は毎回雑魚ネメシスにも時間を掛けているということか。)

「あなたは学園の教員の方でしょうか。」

 どうやらこいつらは何か誤解しているようだ。そう思い玲は能力を終了し地面に降り彼らの前に立つ。

「私は今日この学園に入学した生徒だ。」

「なっ、」  「嘘だろ、おい」



 まだ新入生だと、到底信じられない。彼はすでに隊長格の実力を持っているではないか。神林はその言葉を受け入れるのに少し時間がかかった。柊に関してはまだ受け入れられて無いようだった。

「君さえ良ければ俺の隊に入隊しないか?君ほどの実力があれば誰も文句を言うまい、隊長も快く受け入れてくれるはずだ。」

 彼の実力を知った以上放置するのは惜しい。そう考えて神林は言ったのだったが、

「そんな事に興味はない。それより私の姉が組織に入ってるはずだ心当たりはないか?」

 そうきっぱりと断られた。その時、この会話を聞いていた柊が少し興奮気味に彼に話しかける。

「お前確か九十九って言ってたよな!!お前の姉というのはまさか九十九麗奈つくも れいななのか?!」

「それは本当なのか?!九十九麗奈といえば本隊長の一人じゃないか!!」

「本隊長?それはよく解らないが麗奈姉さんを知っているのならどこに行けば会えるのか教えろ。」

 信じられないことばかりだがこれが本当なら辻褄は合う。なぜなら彼女の実力はまさに化け物級と言っても過言ではないからだ。むしろ彼の実力、そして性格に納得までできる。

「俺たちも彼女に会ったことはない。なにしろ彼女は他者との交流を一切行わないんだ。恐らく会ったことのある人の方が少ない。だが俺たちは今から戦闘報告をしに隊長の元に行く。その時に今の出来事を伝え便宜を図ってもらうよう頼もうと思う。けどあんまり期待はしないでくれ、俺は組織の中でも下っぱだからな。聞き入れて貰えるかは正直分からない。」

「そうか、では頼む。それと一つ聞きたい、何故能力者でありながら武器を使って戦う。」

「知らねえのか、能力者つっても全員が戦闘向きじゃねえし、無限に使えるわけじゃねえんだぞ。」

「そういうことだ。例えば俺の能力は対象の動きを強制的に止める”強制停止ストッパー”なんだが、これは戦闘に使えはするがネメシスを殺せるわけじゃないし、格上にはほとんど効かない。しかも一回使うだけでネメルギーをすごく消費する。だから武器は必須になってくる。この武器は組織の研究者が開発したネメシスにも通用する物なんだぞ。使いこなすのも意外と難しいぞ。」

「そうだったのか。私は勘違いしていたようだ。先程の失言は取り消す。申し訳ない。」

「解ってくれてなによりだ。じゃあ、俺らは基地に戻る。気をつけて学校に戻れよ。」  

「まあ、次会うときまでに敬語を覚えとくことだな。」そう言って二人は去っていった。

 やっと姉さんに会うことができるかもしれない。そう思うと玲は心が踊った。そんな思いを噛みしめながら学園に戻るのであった。




 とある空間で4つの人影が会話をしていた。

「さっきのやつヤバくなーい?一瞬だったんだけどー」

「あぁ、想定外のことが起きてしまった。」

「だからといって計画を中止する程なのか?わざわざ大きい穴を開けたのだぞ。」

「いや、あらゆることを考慮し計画は中止すべきだ。失敗は認められない。私が求めるのは完璧のみだ。」

「ぁぁ、私はあの4匹の仔達が不憫で憐れでしょうがない。ぁぁ、悲しい、悲しい。」

「はいはーい。それでー、計画はどうするわけー?」

「先送りだ。あれの情報を得るまではな。問題はない。まだ時間はある。」

「それならいいけどさー」

「心配はいらないさ、必ず成功させる。我々の目的のために!!」



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