カルマの本領

カルマとバーダーの戦いは膠着状況に陥っていた。カルマが首筋に突きつけたナイフはバーダーの精霊魔法によって弾かれてしまった。



カルマは技を持って、この勝負を制すると言ったがそれは本当にできるのか。



勝負を見ながら、康二とセラとリルは、カルマのことを心配していた。バーダーの一撃を受け止めた時に少しだけだが、カルマの足元がふらついていたのを見たからである。



「カルマはああ言っているが、本当はどうなんだ?」小声で康二がカレン達に聞く。



「カルマはできないことをできるとは言わないだろうな。それは我が保証する。」



「私からも言わせてもらうが、カルマは魔族の村の中でも戦闘力は上から数えたほうが早い。魔力量は決して多いとは言えないが、魔法の応用力は1,2を争うほどだ。」



「俺っちから見てもカルマの体格は決して大きくねえ。だけどあいつの相棒(ナイフ)は特別なんだ。それにあいつの技が加われば、あんな筋肉野郎なんてすぐに倒せるぜ。」



カルマのナイフにはシャドウ・エッジという名前がある。シャドウ・エッジには分身ともう一つある能力があり、カルマが最初に詠唱を邪魔する時に投げたシャドウ・エッジとその後、懐から出したシャドウ・エッジは同じものである。本数を気にせず、使うことができるのは地味だが、かなりのアドバンテージだ。



カルマはバーダーから距離を取ると詠唱を始める。それを見たバーダーは、またもや独特の歩法によって、瞬時に距離を詰め、ボディにパンチを繰り出す。



シャドウ・エッジのもう一つの能力がここで発動する。それはシャドウ・エッジの所有者もまた分身できることである。カルマはボディに重いパンチの一撃をもらったと思ったところでカルマの体は影となって、消える。



そして詠唱が完成する。

「風の魔力よ、拙者の魔力を食い、逆巻く嵐と為せ!」


これは下魔法Lv10の風属性の強化技である。風の魔力によって強化状態になった、カルマは足元につむじ風を生み出し、それに乗って攻撃を繰り出す!その速さに反応できなかったバーダーは首筋に鋭いシャドウ・エッジの一撃をもらい、その力強さに焦りを覚える。



『危ねえ、今の一撃は血管まで行ってもおかしくなかった。もう次はもらえねえ…… 』



バーダーは、ボディに重い一撃を喰らわせ、それで動きを止めたところで投げ技で相手の関節を決めて、この勝負を終わらせるつもりだった。だが、自分の打撃が当たっても分身だったりかわされて、次の一撃に繋がらないのを感じて、考えることをやめた。



『しょうがねえ、俺のダブルラリアットで相手が突っ込んできたところを吸い込んで、投げ技で止めだ。』



バーダーが覚悟を決めたところで、カルマも相手の動きが待ちに変わったのを見てとり、次の攻防で決めようと思った。



カルマはまた詠唱を始める。それを今度は止めることなくじっと待つバーダー。

「逆巻く風の魔力よ、集まり、荒ぶる竜巻を為せ!!」下魔法Lv30の先ほどの強化魔法の派生魔法を繰り出す、カルマ。



突如、つむじ風が集まり,高さ10メートルほどの竜巻を作り上げる。カルマはそれを風の魔力を込めた飛び蹴りで、バーダーの方に蹴り出す!想定もしていなかった竜巻に動揺するバーダーだが、深呼吸をして落ち着くとダブルラリアットで竜巻を迎え撃つ!



「うおおおおおおおおお!!」



ぐるぐると体と腕を回しながら、竜巻の風を打ち消そうとするバーダー!カルマはその間に竜巻に自ら突っ込み、風の勢いを利用して加速し、バーダーの首筋にシャドウナイフを突き出した!



一瞬、お互い動きが止まり、空間に静寂が訪れる。カルマは首筋を抉るように出したナイフは皮膚の繊維ひとつ残して、血が吹き出すギリギリの所で止まった。だがダブルラリアットに巻き込まれなかったわけではなく、腕の回転によってカルマも空中に吹き飛ばされてそのまま受け身も取らずに地面に叩きつけられた。



「両者、そこまで!ギリギリで命までは取らなかった様だな。取っていたら両者失格の上、この里から放り出すところだったぞ。お互いの健闘を称え、この勝負引き分けとする!」



この勝負は両者引き分けで終わった。お互いの死力を尽くした勝負だった。









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