傲慢なるアロガンティスの罪

「やはり康二殿は神の使い、そして魔王の再来でもあるようですね。」フランが言う。



「何のことか、さっぱりわからん。説明してくれ。」



康二殿が魔物と戦った後、負けを認めた魔物が人化する、これは前にもありましたね?と聞く、フラン。康二達が頷き、リルがわしがそうじゃった。というと実は…と前置きした上でフランが唐突にとんでもないことを言い出した。エンシェントエルフが生きていた遥か数億年前の時には魔物という存在はいなかった、と。じゃあなんで今のイルミナには魔物がいるのかと康二が問うと、フランはこういった。



「魔物とは人間族が突然変異した者なのですよ。」



「はあっ?」



と、全員で、それこそレイやアロサウルス達も驚いてしまう。それを為したのは、傲慢を司る神の力によるものであった、と続けるフラン。しかもそれはその神の身勝手な感情から起きた者であった。混乱が続く中、フランは語り出した。ある身勝手で傲慢な神のことを。



数万年前、まだ世界には勇者も魔王もいなかった。何故かと言えば、細かい争いはあったものの、世界は、人間族と魔族が生態系の頂点に立ち、それを脅かす存在はいなかったからであった。それに不満を持つ者が人間族と傲慢を司る神にいた。



ある人間族はこう思った。



『このまま平和な世の中が続けば、我が小国ガレージ王国は領土を広げる機会を失い、軍事的にも経済的にも大国に舐められたままであろう。何か、大国、アルミナ大王朝に大きな異変が起きて、小国郡の国達が大国を滅ぼす良い機会はないものかと』



ある傲慢なる神アロガンティスは思考していた。

2


『イルミナはつまらん。国同士で偽りの平和を作り上げ、仲良しごっこで満足している。人間共の本分はなんだ。争い、奪い合い、殺しあう、そしてその時に得た技術で世の中を発展させるのではないか?こんな世界は修正せねば。』



そして傲慢なる神は思いついた。大国で平和ごっこを楽しんでいる王族とその民を異形なる者に変異させれば良いのではないか、と。そして天罰が降ったと称して、他の国に攻めさせる。これは良い案だと思いつき、まずは不満を持っていた小国群の王の1人、ガレージ王に極秘に神託をくだすことにした。その神託の内容は



『今の大国の王と民は人間の本分である争いを疎かにしている。そのようなものは人間族にふさわしくない。貴様らで滅ぼせ。」



いきなりこんなことを言われたら、小国郡の王達も恨みを持っていても困惑するだろう。しかし小国郡の王ガレージ王は自分の欲望を満たすことに関しては有能であった。



初めは小国郡の他の国の王にも伝えようか迷ったが、そこから大国の王達に漏れることを恐れたので、自国の信頼できる者にしか話さず、事を進めることにした。



大臣達を呼び、どうでもいい会議だと思わせておいて、限られた者にしかわからない暗号の書類を用意し、後で解読させ、大国のスパイを欺いた。



軍事行動を起こすための兵糧集めはこの年にたまたま飢饉が発生したため、どの国も必死に食糧を集めていたので、大国の王やスパイにバレることは無かった。



月日は立ち、大国の王アルミナ大王朝の王と小国郡の王達とその1人であるガレージ王も含め、一同が集まり、和平が実現した記念を祝う50年記念のサミットのようなものが開かれようとしていた。場所は大国のアルミナ大王朝の城のダンスホールである。

                                                            


「今日も平和が続くことを嬉しく思う!アルミナ大王朝で行われる式典やパレードを楽しんでほしい!我からは以上だ!」



アルミナ大王朝の王は王らしくない短い言葉で話をまとめて終わった。人心を掴むのに長文の文章は必要ないと思っていたし、実際この王は民からも絶大な人気を誇っていた。だがお人好しで皆が自分と同じく平和を愛していると思っている節があり、そのせいでこれから起きる惨劇を予想できなかったのは事実だ。



次に小国郡の王達の中では一番手にアルライト王国の王が喋り出す。まずはアルミナ大王朝へのおべっかから入るいつもの長話かと思いきや、不穏な言葉がとびだす。



「まずはいつも平和平和と、頭まで平和ボケしている、アルミナ王へ祝福を、いや呪いの言葉を送らせていただこう。貴公は本当に愚かだ、私の国の兵士がアルミナ大王朝を包囲していることをここまで知らなかったとは。」



「何を言っているのだ!貴公はいや、貴様は我が王朝と手を組んで和平を望んだのだぞ!それをお前のくだらぬ感情で破棄するとは、破滅に陥るのはそちらだと思わんか!」



「私も傲慢を司る神アロガンティス様の言葉を聞くまでは、この野心を眠らせておこうと思いましたが、他ならぬ神が私に囁くのです!愚かな平和を終わらせろ!とねえ。」



もういい!この愚かな者をひっとらええいと近衛騎士団に命ずるアルミナ王。空気が重苦しいもの変わって行く中、ガレージ王は余裕の顔でこう言った。



「おお神よ!今ここで平和ボケした者共に神罰を与えたまえ!」



こう言ったところでガレージ王の様子が変わっていく。ビクビクと痙攣を起こして、ダンスホールの床に倒れる。そして急に体が宙に浮いたかと思うと、人間離れした存在感と威圧感を醸し出す。



「我が名はアロガンティス。傲慢を司る神だ。我にひれ伏せ。」



その言葉だけで、小国郡の他の王や貴族達が頭を下げる。だが、プレッシャーに負けそうになりながらもアルミナ王は頭を下げることはなかった。



「なぜ、神が我らの平和の願いを気に入らぬというのですか!なぜ、そのような愚かなものに力を貸そうとするのですか!?」



「なぜなぜ、とうるさい奴だ。我はただ、貴様の平和とやらを願う心がつまらんだけだ。平和など人間の発展のためには一ミリも要らん。それより喜ぶがいい。貴様やその民は今から新たな平和の礎になるのだ。醜い魔物になるがいい。」



貴様ああああああ!!と王の護衛である近衛騎士の1人が剣を抜き斬りかかろうとする!アロガンテイスはひらりと剣を後ろに動きながらかわし、まずは貴様からだと手をかざす。



瘴気のような霧に包まれると、ガアアアアアアアアアと苦しむ叫び声がダンスホールに響く!瘴気が取り払われるとそこには剣を持ったオークがいた。しかし魔物がこれまで存在しなかった世界のため、オークという魔物は知られていなかったが。



元近衛騎士のオークは魔物になっても自我があった。それは王の盾であり、王朝を守るために仕えてきたからこそなせる奇跡であった。瘴気はガレージ王とその取り巻き以外は避けるようにして、会場に渦巻いていく。貴族やアルミナ王を包み込み、オークだけではなく、貴族はゴブリンに、アルミナ王はオークキングに変わってしまった。ガレージ王はすぐにもその取り巻きを連れて、ダンスホールから出て行ってしまった。怒りが自分の身に向く前に逃げたのである。



アロガンティスは、魔物に変わってしまった王達にこういった。暴れろ、と。その一言で自我が残っていた者達もただ暴れ回る哀れな人形と化してしまった。こうなるとアルミナ大王朝は破滅の道しか残されていなかった。



「その後、アルミナ大王朝はどうなったんだ?」康二が聞く。



「アルミナ大王朝は王朝の王達のみならず、ほとんどの民が魔物化しました。そしてガレージ王国の兵士に襲われ,暴れながらも散り散りになって逃げました。」



「大王朝の民達がほとんど、魔物化したとなると何十万の民が一斉に魔物に変わったわけか。」アンナが呟く。



「そればかりではなく、アルミナ大王朝からは魔物が何もないところから湧き出るようになったようです。これが傲慢を司るアロガンティスの罪です。」



「それで俺が戦った魔物達が、人化するのはなんでなんだ?その理由は話してもらってないぞ。」



「それは康二殿が魔物化の呪いを解いて、一時的ではありますが元の人間族に戻しているからです。そんなことができるのは神の使命を帯びた使徒様か魔を司る王の所業でしかかんがえられません。」



「確かに俺はラヴに救いを差し伸べるようにって言われたけど、魔物まで救えとは言われてないし……」



「だから言ったでしょう。魔物は元は人間族だったのです。人の範疇に含まれています。」



「わしからも良いか。康二の魔を司る王の所業など見たこともないのじゃが。」リルが言う。


「魔を司る王、魔王は魔物と心を通わせ、自分の配下とすることができました。」



それはリルとレイやアロサウルス達もわかるでしょう?とフランがいう。まあ、確かにと呟くリルと赤い顔をしてそっぽを剥くレイ。アロサウルス達は僕たちはレイ姉さんの怨念を浄化してくれた康二殿に感謝していると、無表情ながら、真剣な様子で喋っていた。



「康二殿は魔王の再来でもあるのです。」フランは康二達に向けて力強く語るのであった。



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