ラーメン作り
「それで何を作るのですか?」
セラが聞くと、康二はラーメンだな、と答える。
「「ラーメンとはなんだ?」じゃ?」
「ラーメンってのは俺の故郷に伝わる食べ物でな、国民的に愛されてる食べ物なんだ。」
なるほどのう、と言って首を傾げるカレンとリル。ちなみにアンナは村でも一番のパン焼き名人らしく康二の作る料理をみたいと言っていたものの、長老にお前がパンを焼かんでどうすると言われ、泣く泣く、パン焼きにいった。
かわいそうだったので、パンの発酵に使う酵母を乾燥させたドライイーストを渡してやるときょとんとしていたので、焼く前に混ぜて発酵させるんだ、と使い方を教えてやった。もちろんドライイーストは錬菌術で作り出した物である。
「さあ、まず中華麺からだな。麺の材料は小麦粉、かん水、塩だな。ただ小麦粉と塩は村にあるからいいが、かん水は錬金術で作り出すか、どこかから採ってこなくちゃいけないが。」
「かん水はどのように作るのですか?」
「女神の知識によると、炭酸水素ナトリウムを水に溶かした物らしい。ただ白い粉ってのはわかるが炭酸水素ナトリウムをイメージできないんだよな、はあ。」
「待て、それは洗濯の時に使う白い粉ではないか?そういう物が採れる塩の湖が大荒野にもあるぞ!」
「カレン、マジか!その白い粉は備蓄してるのか?」
「洗濯に使うからな、大量に備蓄してあるぞ。しかしそれを料理に使うのか?本当に大丈夫なのか?
「大丈夫だ、問題無い。」
某ゲームの名言を挟み、自信満々に言い切る康二だったが、逆に不安そうになるカレンとリル。セラは苦笑いしながらまあまあといい、その場をとりなすのであった。
ちなみにパラレルワールドの某ゲームはゲーム会社が資金難に陥りながらも何とか立て直し、そのゲームはクソゲーオブザイヤーに引っかかることはなかったという。いとおかし。
とりあえず、麺を作る所から行くかとカレンに持ってきてもらった重曹を水に溶かし、打ち水とする。そして小麦粉の中に打ち水を入れながら、捏ねるのではなく、混ぜる事を意識して、麺の元になるものを作っていく。
目標はだまになっていないオカラのような状態だ。康二はたまに行く祖母の家でオカラを好んで食べていたが、もう何年も食べていないことを思い出し、少し暗い気分になる。だが、そんなことはしていられないと10分ほど混ぜ合わせるて、コシの元となるグルテンが形成されると生地が伸びるようになる。
そして生地が出来上がったら10分ほど休ませて、その後一センチほどの厚さに成形する。この時に生地をのし餅状にするのだが、これが足で踏まずにやると時間がかかる。
しかし、ビニール袋のような素材(後で作ればいいことに気づいた)が無いので、足で踏んで作った麺は嫌がられるだろうと思った康二は綿棒のようなもので頑張って何度も伸ばした。この作業はカレンやリル、セラも手伝ってくれたが、セラが一番力が強かった。何故だ、解せぬ。
成形した麺を30分ほど寝かせているうちに、ラーメンには欠かせないスープ作りに挑戦することにしたのだが、康二は困ったことに気づいた。鶏白湯ラーメンを作ろうと思ったのだが、いつも康二は鶏ガラスープの素を使って、1人暮らしの頃、家でラーメンを作っていたので鶏の骨を使って、作ろうと思うとどうしても時間が足りない。
そのことを3人に話すと、セラが何とかしますよ、と言いながら、スープを作りましょうというので準備をすることにした。鶏は村で飼っていたので、ちょうど朝締めてバラした後、捨てようと思っていた骨を大量に譲ってもらい、臭み消しに使うニンニン(ニンニク)、オニオニ(玉ねぎ)、ジンジン(しょうが)、ネギネギ(長ネギ)、料理酒(とりあえず白ワインのようなもの)ももらってきて、大鍋に入れて煮込んでいく。
セラが鼻歌を歌いながら、時折呪文のようなものを唱えていると、アクがすごいスピードで出るではないか、慌てて康二がアク取りをして30分ほど経つと鶏白湯らしい色のスープになった。
一体何をしたんだと聞いたが、乙女の秘密ですとかわされてしまった。ただ、それを一緒に見ていたカレンが料理スキルの料理のみに使える煮込み時間短縮スキルか、使えるものは珍しいのだがなと言ってしまったので、セラはプルプルと震えながら、何故か康二の足をゲシゲシ蹴り始めてしまった。
秘密にする理由無くない、と思ってしまった康二だがそれは言わずにセラはすごいな〜と言いながら、頭を撫でてやるのだった。セラは途端に上機嫌になっていたが、心の中で
『言えないです… そんな便利なスキルじゃなくて、ただの料理に時空精霊魔法の「早送り」を使ったなんて…です。」
と動揺していた事を。というか麺を寝かせる時にも使えたじゃん、私と気付き、周りの空気をドンヨリとさせていたが、そこはあえて空気を壊すように康二が製麺の続きをし始める。
打ち粉をして麺を切り分けるのだが、本当はコーンスターチ(とうもろこしの殿粉)を使ったほうがいい。しかしとうもろこしはこの村で育てていなかったので小麦粉で代用することにした。
麺は寝かせた生地を大量に作っていたので、4人で麺を切った。最初の頃は太さの幅がバラバラになったりしたが途中で慣れて均一に切れるようになった。麺が茹でる前の状態になったところで、長ネギを切っていた康二だが、薬味だけじゃ寂しいじゃないとのことに気づいた。
「ご主人様、ラーメンの具といえばやっぱりアレじゃないですか?」
「だよな〜 やっぱりチャーシューだよな?」
「え?もやしです。」
「なに?」
「ご主人様?」
「セラ、なんか怖いよ!!カレン、この村に豚はいないのか?」
「豚よりもやしです!!もやしはないのですか、カレン?」
「豚ともやしとは何だ!?ピーピッグのことなら知っているが、この村では飼ってないぞ!もやしとは何かわからん!!」
「「ええっっっっ…」」
「仕方ないだろ!何でもあると思うな!辺境の村だぞ!」
「まあ仕方ないか。チャーシューは鶏肉のモモの茹でたやつで代用しようか。」
「ご主人様!!もやしも作ってください!!」
「錬菌術で生きた細胞は作り出すのに魔力が膨大に必要なんだ。今日はセラの精霊魔法の時に3分の2使ったから、今はなあ。」
「へー、そういう事言うんですねぇ… 後でオシオキデスネ。」
なんかセラが妖艶な雰囲気出してて怖いよ!!って思いながら鶏肉のモモを茹でていく。
後、足りないのは醤油だな〜〜と康二が呟く。カレンがそれは何だと言うので、ラーメンには欠かせない調味料だという。
リルは知っていたようで昔あった迷い人が食べたいと言っておったぞ、確か丸い豆から作る調味料ではないか?と話す。丸い豆?それなら畑の肉のことか?貴重な肉の代わりになるのでな、あれは備蓄してあるという。
それだ!!と持ってきてもらった。作り方はわからなかったが丸い豆をだして、塩洗いして、樽の中に入れてみる。そして醤油作りに最適な菌と念じながら、菌に発酵と熟成を念じて魔力を込める。
そうすると黒い油みたいなものができたので舐めてみる。それっぽいのでできたので布で濾して完成だ。まあ本職の醤油よりも3割、いや4割落ちるので出来としては悪いのだが、後で女神の知識にないか、探してみようと思った康二であった。
いや今探せよと思われるかもしれないが、もうすぐ宴が‘始まるので時間がないのである。
そして村人が呼びにきて、宴を始めると言うので、外のかまどにスープと茹でる前の麺とネギネギと鶏胸肉の茹でたものとできたばかりの醤油を大量に持っていく。
この時は序魔法の収納を使えばいいので楽であった。後でパン作りが得意なカレンにスーツケースの中にある菓子パンを食わせてやろうと思った康二である。
「この細長いものはなんだ!?小麦からできているのか!そしてこれを茹でてスープと一緒に頂くのか!」
アンナが興奮したようにまくし立てているが、他の村人も初めて嗅ぐ鶏白湯スープの匂いに興味津々であった。ただ、小麦を細長くして食べる料理はないらしく、ちょっと虫に似てるとびびっている様子。
まずは康二が食べて見せて、警戒を解く予定だったが、そこは次期村長候補の私に任せろと、アンナが言うではないか。
だったら私も、とカレンも出てきて睨みあるので、じゃあ2人に任せると言って康二が麺を茹で、3分ほど経ったかなと言うところで湯切り(錬菌術で作った木製の湯切り)で麺の水気をとる。
そして木製の器にスープと醤油を入れて、麺を入れ、長ネギと、鶏ももの茹でた肉をいい感じにカットしたものを乗せて完成である。
ゴクリ…と唾を飲み込んで、目の前に器が出されるのをまち、へい、お待ち!と康二の声が掛かったところでスプーンとフォークを構えるカレンとアンナ。
カレンは麺をフォークに巻きつけ、アンナはスープをスプーンですくい、同時に食す…!!これはっと、唸ったと思うと、喋り始めるカレンとアンナ。
「何だ!!この麺という細長いものは!!このスープの汁気を吸っていてよく絡み合う\\それにチュルリとした食感がいい!!美味い、美味すぎるぞ!!」
「このスープもすごいぞ!!とりぱいたんらあめんというらしいが、鳥の野生味溢れるスープかと思えば、女性にも優しいあっさりとしていて、どこか濃厚な風味もある素晴らしいスープだ!!んん\\これは止まらん、とまらんぞ!!」
2人が絶賛してから、村人たちも待ちきれなくなり、我先にと器を持って、らあめんをくれと叫び出す。一列に並んでくれと言っても聞かない程であった。
そして、貰った村人から美味い、美味すぎる、これはどのように作ったものなのか、この村でもスープと一緒に入れている醤油は作れるものなのかと質問が相次いだ。
中には醤油なしのスープを味見して、むう、これは醤油があってこそ、成り立つ料理なのだ!!と叫び、俺に醤油をつくらせてくれ!頼む、という村人もいた。
それほどラーメンは異世界でウケたのであった。長老はまたもや涙を流し、神を呼び出し、神の供物とすると言って聞かなかった。康二は冗談だと思っていたのだが、後日、本当にやるとはつゆほども思っていなかった。
康二やリル、セラも初めての一から作るラーメンに舌包みをうち、まだ醤油が美味しくないとか、もやしがないとか、言っている2人を尻目にリルは無言で2杯目、3杯目と平らげていった。
途中から、康二とセラだけで使っていた箸に目をつけ、それをわしにも作ってたも!と言い、苦戦しながらも麺を掴み、食べていた。
もちろん宴なので、鳥の丸焼きやアンナが初めて使うイースト菌に苦戦しながらも上手に焼いた黒パンにも舌包みを打っていた。
だが、村人的にはらあめんのインパクトに持っていかれたらしく、ふわふわの黒パンは美味しいと言っていたが、こっそりらあめんのスープに浸して食べる村人が続出したそうだ。それを怒りながら自分もこっそりやるアンナの姿もあったとか。
そして康二が出した菓子パンをアンナが食べる一場面もあったが、ジャムぱんやメロンパンを食べながら、私のパン作りは甘かった、いやこれほどまでに甘くて美味いパンを焼けるほど甘くはなかったとよくわからないことをいいながら、パンの中にジャムを挟んだり、高価な砂糖をまぶしたパンは食べたことがないと感涙していた。
「もう康二なしじゃ生きていけない!!責任とって!!」
と迫るアンナだったが、菓子パンはこれだけしかないというと呆然としていた。だったら康二の嫁となって、異世界の菓子パンの知識を教えて、いやらあめんの知識も\\\と腰をくねくねしながら言うので、それは嫁入りしなくても教えるからとなだめる康二であった。
ただそれを横目で見ていたセラが
「ご主人様、異世界ではこんなにモテるんですねえ。私は嬉しいです。ですが私が『第一』の女ということだけはお忘れないよう… フフフッ」
と不気味な笑いをしていたことだけは伝えておこう。
村人達は飲めや唱えやの騒ぎをしていたが、康二にも一曲歌ってくれとせがんできて、一曲歌うことになった。
康二の十八番で、康二の世界でも超有名なアダルトなチルドレンの海賊王になりたい男の歌であった。日本語はイルミナの現地語に翻訳され、この世界でも村人達にウケたのであった。
中には吟遊詩人になりたいと思っていた若い村人もおり、その人に後でもう一回歌ってくれとせがまれるほどであった。
その後、康二と村人達は酒を飲み交わしながら、この世界の暮らしや康二の住んでいた日本の話をしていたが、酒に強いはずの康二がセラがどこからか出してきたとんでもなく美味しい酒を飲んだ途端に潰れ、介抱すると言ってカレンの家のベッドに寝かされ、セラや途中参戦したカレンやリルやアンナに、色々な意味で搾り取られたということだけ伝えておく。
「ご主人様ぁ\\ マダマダオシオキハコレカラデスヨ\\」
「ひええええええええええええええっ!!\\\」
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