農地改革

三人は、少し暗い様子で長老の家から出てきた。カレンは気丈に振る舞い、康二に話しかける。



「まあ、そう落ち込むな。アグニス・オルゴーン魔王国と昔呼ばれている時から一度滅んでいるのだ。まあここから南下して森の中に移り住むのも悪くない。村の未来が暗いのはもう何十年も前から言われている。皆もこの土地を捨てる覚悟はできているのだ。」



そこでこの村では珍しい金髪な女から突然声をかけられる。



「そうやって逃げて逃げ続けるのか?どこまで行ってもアルライト王国からの追手は来るぞ。奴らは魔族排斥を掲げているからな。」



「アンナ!いきなり来て、何をいうのだ。またアルライト王国と戦ってこの村の民を散らせようとでも言うのか!好戦論はいいが何か勝つ手立てを考えてからいうのだな。」



「グウゥ、だが勝つ手立てはあるぞ!そこの得体の知れない旅人はなんと迷い人だというではないか。迷い人というのは昔からものすごいスキルを神から与えられているというではないか!その力をふるえばきっと… そしてグレートウルフの希少種もいる。」



「わしはグレートウルフではない!!フェンリルだ!!」



「それは失礼!白銀の目をもつ可憐な女子。だがそれが本当であれば、アルライト王国などは恐るるに足らん!奴らの脆弱な軍隊などフェンリルの力で打ち砕いてくれるであろう。」



「じゃから、本当じゃと言っておるであろう。なんじゃこのいけ好かないスカした女は。しかも我が従うのは康二とカレンのみじゃ。戦争の道具になるなど真平ごめんじゃぞ。」



「そうかそうか。そこの旅人は康二と言ったか。よく見れば、中々中性的で可愛らしい顔をしているではないか。どうだ私の物になるのは?そこの貧相な胸をしたカレンは放っておいて。おっとそこのフェンリルの女子も一緒にどうだ。私は男も女もいける口でな。3Pというのも…」



「我は貧相な胸などしていない!平均的な美乳なのだ!!お主の胸はでかいだけで垂れ乳ではないか!!康二もまさか我とリルがいながらこんなふざけた女がいいというのではないだろうな!」



康二はギロリとカレンが睨むのを見て、表情をこわばらせる。リルもグルウウウと不機嫌そうにしているし、垂れ乳扱いされたアンナもまた康二を鋭く見やる。もうなんか、めんどくさくなった康二はそんなことはいいから、畑を見せてくれとアンナに頼む。




「畑?別に見てもいいが、まさかまさか畑の中で!?ムウゥウウ、なんという発想力!良い!ならばシヨうではないか!!ムフフフ」



お前の頭の中はハッピーセットか!!とつっこみながら頭を抱える康二。畑に着くまでギャーギャー言いながら歩く4人なのであった。



「どうだ!!畑の様子は?康二の希望で荒地に侵食されかけている所を見せているがこれにはなんの意味があるのだ?私に教えてくれ!」



にじり寄ってくるアンナを放置して考える康二。元々は肥沃な大地だったとのことだが魔力汚染以外にも農地に足りないものが不足しているのではないかと考察した康二。



女神の知識に役立つものはないかと思っていると、この荒野の乾いた地質に向いた知識が見つかるではないか。



保水性の向上

土・砂に高吸水性高分子(吸水性ポリマー)を混ぜ込むことで、水の蒸発・流失を減少させる。特に水の確保が困難な地域で有効であるが、コストが高く今後の改良が期待される部分である。



康二がカレンとアンナにこの大荒野に雨は降るのかと聞くと年に2回だが大雨が降るそうだ。現在は聖ウルメス歴3456年の3月半ばといった所で後1週間もすると大雨が降る時期に差し掛かるそうだ。


いわゆる雨期だな。しかし乾季の方が長いことや魔力汚染が広がっていったことで荒野が広がっていったそうだ。康二はその説明に少し疑問を持った。



「戦争が起きたのは大昔なんだろ?なんで魔力汚染が広がるんだ?」



アンナが答えようとするとプリプリと怒っていたカレンが食い気味に話し始める。



「たまには我にも喋らせろ!!それはだな。年に一回大荒野の北にあるアルライト王国と西にあるオルガナ大帝国の戦争が起きるのだ。この大荒野は誰の領土でもない空白地帯になっていてな。ここを植民地にしようとお互いの国が侵攻してくるのだ。だが、結局の所、不毛の大地を開墾しようとしてもお互い失敗続きでな。だから旨みのない土地になってしまっていて、まともに戦争をする気がないのだ。だからその戦争も大して激しいものにはならず、少しやり合ってお互いに引いていくのだ。だが戦争ともなれば魔法は使うし、一対一でバカみたいな大魔法を放ち合う儀礼的なものが存在していてそのせいで魔力汚染は深まるばかりなのだ。」



なるほどな、カレン、説明ありがとうと言い、康二は魔力汚染についてもどうにかせねばと考えてみる。魔力を吸い出すのはどうかと考えて、大荒野に侵食されかけている土を触って



「魔力吸収」



と唱えてみる。少しは土に入り込んだ魔力が吸い出されていく感触はあるが、効率が悪いし魔法の燃費も悪い。


康二の強大な魔力を持ってしても結界内の土壌に溜まっている魔力を全部吸い出すのは2年はかかりそうだと結論付けてこれではダメだと考え直す。



『考えろ。俺の本分はやはり錬金術、いや錬菌術だ。そして魔力とは何かまだよくわかってないが異世界には魔力を餌に生きている菌も存在するのではないか?こういう時は「視点切替」だな』



康二は「視点切替」と呟き、空気中の色を見る。康二の目が赤色に輝き、その様子を見たリルとアンナはそれは魔眼ではないかと騒ぎ出し、カレンは知っていたので魔眼については言及しなかったがそれで何をするつもりじゃと問いかける。



カレンにまあ見てろ、と言いながら魔力の色が青色であることを確認すると空気中の薄い青が少しづつ薄くなっているところに気づく。


これが魔力を餌にする菌、名付けて魔力菌だと仮定した康二はその菌の色を見る。灰色であることを確認し、魔力菌のイメージを作り上げると今回は手を合わせずに



「レンキンっ」



と呟く。魔力菌とはおそらく原核生物いや原核魔生物なのだろうと考えて、真核魔生物のような魔力菌も作り出せるのではないかと思考しているうちに、康二が指定した土の中に魔力菌が発生し、康二が魔力を注ぎ込んでいくと次第に土に入り込んだ魔力を分解していく。そして唐突に荒れていた土が光り輝き始める。



「これは…!土が浄化されているのではないか!?わしの知識だと下魔法レベル50はないと浄化の光は使えんかった気がするが?いやしかし、この魔法の魔力量では下魔法レベル50などは発動できん…。これは一体何が起きておるのじゃ、康二。」



「これは魔法ではなく、錬菌術だ。菌とは空気中に存在する砂より小さい生物のことでその中には魔力を分解する魔力菌というものも存在している、らしい。それを踏まえてこの菌を魔力汚染が広がっている土壌の中に発生させて魔力を分解させたんだ」



と話す康二。なるほどと、唸る3人。しかしその魔力菌とやらが魔力を分解しているのであれば魔力は無くなってしまうのではないかの?とリルが聞いてくるので、空気中にはそれほどの割合では居ないんだと話す康二。魔力濃度が濃い場所じゃないと魔力菌は生きられないみたいなんだ、と話し終えた。



その間に10ヘクタールほどはあった長方形の土地が浄化され、黒褐色の土地だった場所が健康的な茶色の土に変わっていた。魔力菌は魔力汚染を分解し終え、土の養分へと還っていったようだ。



興奮したアンナが土を両手で掬い上げながら興奮した面持ちで、これならこの土地にでも小麦や野菜を作付けできると叫んでいた。そしてその様子を不思議に思った村人が見にきて、また喜びの声を上げるというループに落ち入り、康二は迷い人万歳ー!!と胴上げされていた。他の3人も胴上げの輪に加わっていた。



これならば、大荒野の緑地化も夢ではない、何十年も掛ければ何とかなると村人が喜んでいる所に後ろから鈴のように響く、知らない声が話しかけてくる。



「あらあら皆さん嬉しそうですねー!でもご主人様と私の力があれば1日で大荒野を緑地化して見せましょう!」



皆が振り向くと天使の輪を頭に浮かせた明るい黄緑色の髪色で金色の目をした。少女がふわりと浮いて、神々しい雰囲気を放っていた。間違いないセラである。



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