スラ狼との戦闘

康二と女忍者はグレートウルフの変異種(スラ狼)と向かい合った。


「あの風魔手裏剣、なかなかの威力だと思ったんだがな。あいつに弱点はないのか?」


「無い訳ではないが、魔法攻撃を通すなら下魔法Lv3以上か、中魔法Lv30以上は必要じゃな。それなら直接切り掛かった方が良さそうじゃぞ。お主、武器はないのか?」


生憎武器は手持ちがないんでね、と強がる康二。そもそも地球には魔物などいないし野生動物と戦ったことすらないので心臓がバクバクだったが、焦りすぎて逆に心は何とか平静を保てていた。


『初戦闘だってのに、物理と魔法が効かない相手なんてクソゲーすぎるだろ!あの膜のせいで殴りかかっても衝撃が吸収されるだろうし、どう戦えばいいんだ?』


『むう。あの者、このような強大な魔力と面妖な術を使うのに戦いは素人か?幾らグレートウルフの変異種とはいえそれよりも強い魔物と戦うことも旅ではあるじゃろうに。あやつ若干びびっておる。どうにもチグハグじゃな。』


お互いが別のことを考えている間、女忍者がやれやれと首を振りながら、一時休戦じゃ!これを使えと脇差のようなものを投げて寄越される。手に取ってみると魔法紋が刃に刻まれているようで、それに触れた時に女神の知識から自動鑑定の能力が発動する。


マジックアイテム 魔隠者の脇差

魔族の暗殺者の一族に伝わる脇差。魔の里の刀鍛冶が生み出した逸品で夜に紛れてこの脇差を使うと、威力が10%アップする。また魔族か魔族に認められた者がこれをを使うと等身が伸び、脇差から太刀へと成長することがある。


今は夜なのでこの能力は都合がいい。脇差なのでそこまで刀身が短いのも康二には都合が良かった。


幸いスキルに戦闘術Lv10と魔法があるので、近づいて戦う分には問題ないと康二は覚悟を決めて、女忍者に、叫ぶ。


「近づいて、一太刀浴びせる!!でかい魔法をその隙にかましてやれ!」


「簡単に言ってくれるわい。魔法の詠唱の間はフォローしてやれんぞい!」


おれには構うな、簡単には死なん。と言いながら心の中で

『ラヴにも簡単に死ぬなって言われたしな。』と呟く。


「夜魔法 宵闇!」


康二の体が夜の中に消え、続いて肉体強化を発動させてスラ狼へと駆け出す。


『あの者。少しムラがあるが魔法の収束は悪くないな、序魔法の初歩とはいえ、なかなかセンスがあるではないか。』


女忍者の中で康二の評価が一段上がる。そんなことは露知らず、すっかり戦闘モードになった康二は一気にスラ狼に近づき、戦闘術の中の剣術スキルを発動させる。隠者の脇差にありったけの魔力を浸透させ


「戦闘術 剣技 三日月!」


スラ狼の正面から、闇に乗じて後ろに回り込み、スライムの膜が比較的薄い後ろ足を切り付ける。スラ狼はギャアアアアアアと苦しそうに叫ぶが、後ろ足は腱が切れ、足の半ばまで深い傷がついていた。


どうにか距離を取ろうとするが、足の踏ん張りが効かずに腹ばいになってしまった。


「今だ!どでかい魔法を頼むぞ!!」


「わかっておる!下魔法Lv10 スラストハリケーン!くらうのじゃああああぁ!」


女忍者は両手を前に出して、構えると自身の周りに渦巻く風の魔力を正面に集めて、スラ狼に撃ち出す!吹き飛ばすような魔法ではなく、風の魔力で切り刻むことを意識しているようだ。


スラ狼は避ける術もなく頭から尻尾までスラストハリケーンに刻まれていく。風魔手裏剣を弾いた時のようにスライムの膜を膨らませて防いでいるようだが、下魔法の威力は高いようで覆っていた膜は吹き飛ばされ、全体に深い傷を負わせた。


「どうやら、深い傷は負わせれたようじゃの。ふぅ…」


女忍者がふらっと体を揺らしたかと思うと地面に崩れ落ちそうになるので、康二が抱き止める。お互いの視線が交じり合い、距離が近いせいか、月夜に照らされてお互いの顔がよく見えるからか、お互いが異性を感じて、照れて顔を逸らしてしまう。


『よく見ればこやつ、中々男らしい顔立ちじゃの。それに筋肉もあるし… ま、まあ見所があるやつじゃと思っておこう\\』


女忍者はどうやら筋肉フェチらしい。ガチガチのゴリマッチョよりも程々の筋肉で細マッチョと言うところに惹かれているらしい。だがそれは言わず、先ほどの一太刀浴びせた時の動きは見事だった、と言って康二を褒める。


康二は初めての異性との触れ合いや体の柔らかさに誘惑されて、話を聞いていなかったが…


しかし、スラ狼がガアアアアアアアアと傷だらけの体を震わして吠える。

瞬時に女忍者を下ろして、構える康二。あっと少し声を出して残念そうにする女忍者だったが頭を切り替えて、スラ狼に対して構える。そしてスライムの膜を身に纏い、体を光らせるとスラストハリケーンで負わせた深傷が回復していく。


「まずいのう。先ほどの魔法で魔力を使いすぎたわ。もう下魔法は使えん。」


「なんだって?くそ、魔法耐性を貫通できるのはお前しかいないっていうのに」


まずいな、と思考を巡らせる康二。俺の手持ちの魔法ではロクにダメージを与えられないだろう。それかさっきみたいにチマチマ切り付けるか?だが回復されるのでは埒が開かない。精霊魔法はどうか?いや、加護を失っているせいか、いまいち強い魔法を打てるか自信がない。ならばどうする?とここまで考えて


「いや俺には錬菌術がある。おい、女。お前の名前はなんていうんだ?


「なんじゃ、こんな時に。しかし生死がかかった場面でお互いの名前を知らんのも拙いか。わしの名前はカレンじゃ。お主は?」


「康二だ。俺には一つ、いや二つ策がある。まだ風魔法は打てるか?あの膜を切り裂くくらいの威力でいいんだ。」


「それくらいの魔法ならまだ打てる。じゃがその後は援護できんぞ。それでいいか?」


「ああ問題ない。」


会話が終わり、康二は自分の思考に集中する。思い出せ。菌の種類には原核生物と真核生物があり、生きた細胞を生み出すには大量の魔力を消耗する。今の魔力量では真核生物を作れない。


だが、細菌は原核生物であり、生きてはいるが細胞ではないので魔力コストは安いのではないか?ならば病原菌を作り出せばいい。


康二は風邪菌、風邪菌と念じながら、パンと手を合わせ錬菌術を発動させる。できるだけ濃く、凶悪な病原菌となるように魔力を濃縮させて、カレンとスラ狼と対角線上になるように設置する。


「頼むぞ!空気を取り込むような渦を濃縮させた風の魔法を頼む!」


「じゃったら作戦を立てる段階でそう言えっ!全く注文の多い男じゃのう!いくぞ!!


中魔法Lv30 サイクロンカッター!!!」


カレンは渦を出来るだけ巻き、それでいて鋭い刃になるような濃縮した魔法を打ち出した。


魔族は元々魔力の扱いに長けているが、生死のかかった局面であることや得体の知れない男だが、康二のことを信用はできると思っていたこともあって、その魔法はカレンの生涯でも会心の出来となった。


その渦巻く風の刃は康二の生み出した凶悪な病原菌を吸い込み、スラ狼の口元目掛け飛んでいく。そのままスライムの膜を一瞬で貫通し、口元に吸い込まれ、腹の中に深い傷を残して、その巨体を吹き飛ばした。


すかさず康二は病原菌を操作し、傷や腹の粘膜から血液に乗せる。スラ狼は先ほど、体の回復に魔力と体力をかなり費やしていたので、免疫が大幅に落ちている。そして…


「これでダメならもう勝つ術はないが… お主は何をしたのじゃ?」


「それは見てればわかるぞ。おっとそろそろだな。」


スラ狼は蹲って腹の中の傷を回復させているようだ。だが少しずつ目の焦点が合わなくなり


「クシュん、はあああああくっしゅん!!!」


と咳をし始めた。


隣でコテンと首を傾げ、はて?と言うカレン。それを見て少し可愛いなと思いながら康二は種明かしをする。


俺は錬金術師じゃない、錬菌術師だと。それを聞いてカレンは逆側にまた首を傾け、菌とはなんじゃ?と言うではないか。なんと説明すればいいだろうと思っていると


「降参だ。そこの得体の知れぬ人間と女魔族よ。わしはわしを下したものに従う。クシュっ」


と人間の女の声で喋る声がした。


誰だ?と2人で周りを身渡していると、目の前のスラ狼が突然光の玉になったかと思うと、狼耳を生やした裸の女となった。


スラ狼は人化したのであった。



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