転移した先は荒れ果てた不毛の荒野

康二は日陰のような場所にいた。しばらくして重たい瞼が開き、目を覚ます。周りを見渡すと物置のような掘立小屋の中にいるようだ。日本で家を親に家を出て生かされた時に、面接の時に困るからと着替えを入れるための大きいスーツケースを持っていたがそれもあるようだ。ちなみにスーツケースの中身は




水(2L) 


ナガモリの菓子パン3つ(家にあったやつを勝手に持ってきた) 


財布(3万円) 


面接用のリクルートスーツ ネクタイ 靴下  


ビジネス用の腕時計(いつもつけるのを康二が嫌うため、カバンの中である)






しばらくぼっーとしていた康二だったが、不意に「女神の知識」と言うものが頭に流れ込んでくるのを感じる。


「何々?自分のステータスを見るときはステータスオープンって言うのか。ステータスオープン。」


そうして出てきたステータスを見て康二は首を傾げることになる。




綾野 康二 男 19歳




種族 人間族




称号 異世界からの旅人 世界の?人




スキル 錬菌術Lv10 錬金術Lv1 戦闘術 Lv5 柔術 Lv5 序魔法Lv10 中魔法Lv10 下魔法Lv5 ?魔法 Lv1 精霊魔法 Lv10




特技 歌を歌うこと 




加護 愛と生命を司るラヴァンの加護  超精霊 ??の加護




あれ、スキル多くない?ていうか錬菌術って何?しかもスキルLv高くない?


「どう言うことだ?て言うかラヴのやつ、Pacに情報を打ち込む時、殴ってやってたよな。あれでパソコンがバグったとかかな?」


首を傾げながらツッコミどころを探すと称号も増えているし、錬菌術と精霊魔法に至ってはLv10だと気づく。加護にも超精霊とやらの加護がついているし、やっぱりこれバグってるだけではないかと結論付ける康二。て言うか超精霊ってなんだよ。精霊超えちゃってるじゃん。




まあとりあえず、憧れの錬金術を使ってみようと思い、女神の知識を探ってみる。


「どれどれ、ラヴの知識によると錬金術の使い方は… おっ!これは『クロレン』(黒鉄の錬金術師の略)と同じじゃないか!」


早速、手を合わせて、錬金術錬金術と念じながら、術のイメージを形作っていく。


そして周りを見渡すと骨組みが壊れた椅子を見つけ、出来上がった椅子のイメージを脳内に作りながら、地面に手をつけ、


「レンキン!」


すると骨組みの壊れた椅子が光を放ち…、数秒後には壊れたままの椅子がそのまま出現するのであった。あれ?イメージが足りない?と思っていると」機械のような声が頭に鳴り響き


「錬金術のレベルが足りません。他のスキルと組み合わせて使うことを推奨します。」


と言うではないか。他のスキル?精霊魔法でも使うのかな?と首を傾げていると


「錬菌術と組み合わせて使うことを推奨します。」


錬菌術と?そもそもどう言う職業なんだと女神の知識を探ってみるが、やはりこれといった職業の当ては無い。そもそも細菌とはなんだ。空気中の微生物ではないのか?と拙い知識を探ってみると女神の知識にあるではないか。




細菌とは、微生物の一種であり、細胞核を持たず、単一の細胞で構成される原核生物に属する。次に原核生物とは何かというと細胞内にDNAを包む核(細胞核)を持たない生物のこと。全て単細胞生物とのことだ。




なるほどわからん…と投げ出しそうになっていたが、真面目な性分な康二はせめて『クロレン』の魔法陣を使わない錬金術を成功させたいと頭を捻っていた。だが名案は浮かばず、結局腹が減ってはどうしようもないととりあえずスーツケースの中にあった水と菓子パンを一つ食べ、掘立小屋を出ることにした。




小屋を出てみると所々になだらかな丘があるくらいの見渡す限りの荒野であった。植物のようなものはあまりなく雑草がいくつか生えているばかりである。


空を見上げると青空の中に太陽らしき光を放つ星が出ていて、ひつじ雲が浮かんでいた。


この異世界でもひつじ雲が多い時は翌日以降の天気は悪いのだろうかと感慨に耽っていると何かが頭に引っかかったのを感じる。しかしその何かがわからず地頭が悪いに違いないと己を嘆きながら歩みを進める。




少し歩いて気づいた。せめて人がいる所に行きたいのにこのペースでは間に合わんと。なので女神の知識に良いものがないかと探していると「肉体強化」というものがあるではないか。これだと考えた康二はその方法を探る。


「えーっと、これだ。ミトコンドリアでもできる肉体強化。なんだこのタイトル。微生物扱いされてるぞ!」


あのポンコツアホ女神め。と思いながら独り言を続ける。


「肉体強化はまず魔力を体の血流に乗せて、全身に巡らせる。そして肉体強化(ボディブースト)と唱えると肉体強化になるんだな。なるほどな、序魔法の領分なんだな。それは他人でもできるのかな」


と言いながら、支援強化(サポートブースト)という魔法もあることに気づく。まあそれは後で使えばいいかと考えてまず肉体強化を使ってみることにした。




まず魔力の存在を感じるところから始める。体の奥にポカポカと少し熱い反応を感じるとそこに意識を集中していく。それがカッと温度が上がったような反応がしたところで全身の血液に熱いものを回していく。


体から突然光が瞬き、全身に白いオーラのようなものが出来る。それを維持するようにしながら、一歩を踏み出すとボコっと地面に足が食い込み周りの地面に亀裂が走る。


「えっ!?」


さらに動くと地面に深い穴が空きそうなので、なぜこうなったのか原因を探る。


「何々?魔力が極端に多いものが肉体強化すると周りのものを壊して迷惑になる。それに肉体に遥かに負担がかかるので程々の所で抑えること、か」


なるほどな、と呟き、水をお湯に沸騰させるが如く、魔力を引き出して使っていたところをぬるま湯くらいの感覚で血液に流してみると薄らと白いオーラがまとわりつくくらいになった。


そこで一歩を踏み出すと次は地面を破壊せずに歩くことができた。それに足が羽のようになったかのように軽い。


「ハッハッハッ、これなら荒野を軽く踏破できそうだぜ!!」


とはいえ、元は運動をろくにしていなかった一般人。まだ10代だった頃の全力疾走くらいならいけるかと考えながらトットッと荒地をハイテンションで走り始めた。






一方その頃、ラヴの神域では…




純白の眩いドレスを来て白銀の閃光を光らせたラヴと金色の眩い後光を光らせながら、愛しい主人を殺して攫っていった憎い女神をどう殺してやるかと目を血走らせる謎の少女が睨み合っていた。




「現世と神域は隔絶されているはずなのにそれに無理やり穴を開けて通り抜けてくるなんて恐ろしい力を持っているわね。あの魔力のない世界で精霊が生まれるなんて前例のないことだったのに。」


「そんなことはどうでもいいのです。私がご主人様の荒ぶる魔力を抑えて、疲労して寝ていた所を攫っていくなんてクソ度胸があるのです。ここで殺してやるのです。」


「あらあら、そんな狂った精霊は康二のもとに行かせるわけにはいかないわね。」






『完全に感情を暴走させて、荒ぶる精霊と化しているわね… しょうがないわ。ガス抜きさせてあげようかしら』女神は内心でため息をつきながら指をクイクイとさせる。




「しょうがないわ。付き合ってあげる。」




「死に晒せデス。我の血肉如き魔を捧げ、神敵を滅ぼす力を生み出す。『ラグナロク』」




少女の体からその体を構成する、魔力がごっそりと抜け出し、世の苦しみや恨みつらみ、絶望が形になったかのようにドス黒い漆黒の大剣が生み出される。金色の光を放つ少女と複雑な紋様が刻まれた『ラグナロク』は一見すると相容れないものに見えるが、それが蟲惑的な対比で、初見で少女を見たものは跪き、許しを乞いながら、魅力に取り憑かれるであろう。



それは康二がとんでもない痛みの頭痛や苦悩と戦っていた時に康二から生み出された神すら呪う魔力、少女が文字通り、体を張って、処理していたもの。




「あんた、精霊のくせに何とんでもないもの出してるのよ。しかもそれ康二から全部吸い取ったものでしょ。あいつとんでもないもの溜め込んでたわね…」


全くとんでもない主人と精霊がいたものだわと呆れながらラヴも祝言を謳う。




「唄え、謳え、この世に生きるものの命と希望を。この世の生命の素晴らしさを。『イムヌス』」


ラヴの体から白銀の魔力が、光るレイピアのように形を変え、月光がそのまま具現化したかのような存在感を放つ。この世の希望や命の輝きを詰め込み、『ラグナロク』と対比すると


まさに『希望』と『絶望』であった。




2人は見つめ合いながら、大剣とレイピアを構え、お互いに剣を下ろしたり、構えを変えながらフェイントをかける。そしてお互いに同時に動き、少女が大剣でラヴを一刀両断しようとするが、それをラヴは受け流すのではなく大剣の刃と刃を合わせるような形でレイピアの先を動かす。一瞬で大剣が止められてしまったことに動揺する少女。




その隙を見逃すラヴではなく、大剣をそのまま絡め取ろうとするが少女も動揺から復帰すると大剣を引いて体を反転させて横から薙ぎ払おうとする。しかし一瞬背中をむけている間にラブの体は正面から消え、背後に回っていた。




「あら、簡単に相手から視線を切ってはダメよ。これはお仕置きね」




後ろから容赦なく頭を回し蹴りされ、一瞬で10メートルほど飛ばされる。


大剣を手放しかけ、吹き飛ぶ少女だったが、熱くなっていた感情が消し飛び、自分が精霊と呼ばれる存在であることを思い出す。大剣を握り締め、神域に漂っている精霊たちに語りかけ、神域の主を倒さんとする。




『精霊よ、踊れ踊れ、この世の全てを燃やせ。我が絶望を糧にして。ヘルフレイム!!」




炎精霊と闇精霊の力を借り、ラグナロクに溜め込まれている黒い魔力を上乗せしたヘルフレイムはラヴァンを燃やし尽くし、彼女は黒い炎に包みこまれていく。その炎は瞬く間に神域全体に広がり、少女が立っている周り以外を黒く包んでいく。炎精霊と闇精霊はハイタッチしながら嬉しそうに踊っていた。




「やったわ!」


嬉しそうに叫ぶ少女!だが




「全くあなたもその主人もお約束が好きねえ?」




黒い炎の中から白銀のオーラが立ち昇り、パチンと音がすると黒い炎が消え、無傷のラヴァンがオーラを纏わせながら姿を現す。




「な、なんで」


「考えても見なさい。この神域の主に対して、この神域の精霊が本気で攻撃すると思うの?戦闘ごっこみたいなものだからダメージなんて生まれるはずがないじゃない。」


『まあ、ラグナロクの魔力が混ざっていたから、私の神力でも打ち消すのに時間がかかってしまったわ。あの子と大剣は危ういからこのまま放っておくわけにはいかないわね。』


女神は内心で康二の黒い感情を糧として生み出された大剣に動揺していたが、それを表に出すことは無かった。




少女はアニメや漫画を読んでいる康二の隣で具現化はできなかったもの一緒に過ごしていたことで戦闘とはこうするものだという漠然とした感覚があった。しかしそれは想像によるもので実際の戦闘はこれが初めてだ。




その点、ラヴァンは人間時代は英雄王で神々しいプリンセスナイトと呼ばれ、神となった後も人間時間で数億年の歳月をかけて鍛錬や聖戦で戦っていた経験があるため、月とスッポンほどの違いがあった。


少女はフェイントをかけ合いながら、隙を探っている時点でそれが痛いほどわかっていた。それでも彼女は引くわけにはいかなかった。大切な主人の元に行くために。




「やあアアアアアっ」


と叫びながら焦れた少女は渾身の一撃を仕掛けた。ラグナロクは体に馴染んでいるし、相手は神剣とはいえ、レイピア。弾かれることはないだろうと思っていたのだが


「だから甘いと言っているのよ。あなたもあなたのその大剣もここで終わりよ。」




「『イムヌス』その力を示しなさい。断罪の聖剣、サンクトゥスセイバー!!!」




ラヴァンが神力をこめ、大剣を打ち払いながら、なんの迷いもなく少女の胸にレイピアを突き刺す。胸元に白い十字架が浮かび上がり、爆発音がごおおおおんんと鳴り響く。


そして少女は塵となって消えていた。輝く白い大剣を残して。



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