神様から能力を与えられる。
見事な土下座を決める康二。再びラヴとの立場が逆転してしまって少し屈辱な康二であったが命の恩人には逆らえなかった。こんにゃろーと思いながらも口を開く。
「それで次は異世界に転生するんだろ?俺はそこで何をすればいいんだ?」「何もしなくていいのよ。」
「何だって?」
だから何もしなくていいとラヴは言った。貴方の好きなように生き、好きなように死ねばいいと康二に言った。不満そうな康二にラヴはだったら使命を与えてあげる、という。
「貴方の手の届く範囲でいいから、困っている人を助けること、これでどうかしら?」
ただし、とビシっとキメ顔を作ってラヴは言った。
「それがどんな悪人でも助けなさい。例えどれだけ嫌われていても、どんなに人を殺していても。」
困惑する康二にラヴは法の裁きを受けさせるか、それが無理なら貴方が犯した罪の裁きを下すこと。殺し以外の方法でね。と告げた。
「どうする?この約束を守れるなら、貴方に報酬を用意してもいいわ。殺さずの誓い、それはとても重いものであり、それは楽なようでとても苦しい道のりになるわ。」
「確かにそうだし、俺は性善説なんて信じてないし、必要だったら殺しもする。だからラヴの言うことは俺には守れな」
「あら、貴方、私に貸しがあったわよね?」
しかしと首を振る康二にラヴは
「じゃあそれをできる力を身につけなさい。それができるようになるまで誓いは言わなくていいから、自分でもできると思える強さを身につけたと思ったら私に誓いなさい。」
まあそれならと、不承不承引き受ける康二。それを満足気に見やり、胸を張るラヴ。豊満な胸部装甲が服を揺らし、童貞の康二の顔を赤くさせる。
『まあ私がこうでも言わないとこの子は負の感情を溜めすぎて、危ない方向にいく可能性があるからね。好きに生きなさいと言いながらも縛りを作る女神… なんて悪い女なのかしらね。』
心の中でテヘペロ⭐︎と舌を出しながらキメ顔を作る女神であった。
「それで貴方はどんな力を、どんな能力を望むのかしら?」
康二は少し考えてこういった。錬金術師になりたいと。
「錬金術師?随分と戦闘に不向きな能力ね。それで貴方はこれから出会う人たちを助けることができるのかしら。」
錬金術師とは大昔には金を作り出す夢のような職業として崇められていたのだが、それがペテン師によるメッキを使った詐欺であると見抜かれてからは康二が転生する異世界『イルミナ』では不遇の職業として知られていた。
確かに冒険者が冒険の時に所持しているポーションを作ることができるのだが、それは薬師という民間人や貴族を支える人気の職業が作ることができるし、なぜか薬師が調合したポーションの方が効果が高いという事情があるため、錬金術師は薬師の下位互換であると信じられてきた。
「錬金術師は不遇の職業だし、不人気よ。それでも錬金術師になろうというのかしら?」
それでも康二は頑なに錬金術師がいいというので、不思議に思ったラヴはこれまで神界から見てきた康二の人生を思い出して、合点がいった。
それは康二が住んでいた地球で連載されていた人気漫画の『黒鉄の錬金術師』であった。その漫画の主人公は通常は魔法陣を描いて発動させる錬金術を手を合わせて、地面に手を置くだけで発動させていたのである。
それに憧れているのであろうと察したラヴは自身も日本で作られる漫画やアニメにのめり込んでいたため、深くは問わずにこう言った。
「俺の錬金に震えろ!!」すかさず康二がこう言う。
「俺の錬金術は誰かを傷つけるための錬金術じゃない。彷徨える弱きものを救うための錬金術だ!」
別の某錬金術師はこんな厨二くさいセリフを言うわけではないのだが、パラレルワールドに渡った『黒鉄の錬金術師』は随分と厨二病勇者のような性格になってしまったようだ。パラレルワールド恐ろしや。
「そこまで言うなら錬金術師でも構わないわ。でもそれだけでは限界が来るから魔法や近接戦闘も多少できるようにしておくわ」
あえて言及すると女神の言う多少は一般異世界においては天才と言われる一握りの人間達の水準になってしまうのだが。
しかし到達点はそこであって、地球では武道を学んでいたわけでない康二は能力を与えられても一般人に毛がはえた程度でしかない。地道に練習しなさいとラヴにいわれ、康二はコツコツやっていこうと思ったのであった。
ラヴと康二が話し合って決めた康二の初期ステータスはこうである。
綾野 康二 男 19歳
種族 人間族
称号 異世界からの旅人
スキル 錬金術Lv5 戦闘術 Lv1 柔術 Lv1 序魔法Lv1 中魔法Lv1 下魔法Lv1
特技 歌を歌うこと
加護 愛と生命を司るラヴァンの加護
ちなみに異世界からの旅人にはどこの土地でも根なし草の旅人であると扱われるという裏効果がある。
特技の欄に歌を歌うことというのがあるのは、康二はヒトカラが好きだったのだが、所詮下手の横好きという域を出ず、本人が気にしていたの知っていたラヴがだったら上手くなればいいじゃないと神の力で人間が出せるギリギリの高音域と低音域を出せるようにした結果である。
ラヴは愛を司る神なだけあって色々と過保護であった。
序魔法はいわゆる初級魔法、中魔法は、中級魔法、序魔法は上級魔法である。イルミナでは特殊な言われ方をしているのであった。
ラヴは和室のちゃぶ台の上に最新型のPac(薄型高性能パソコン)を取り出して、先程話し合ったステータスをふんふんと鼻歌を歌いながら打ち込み始めた。だが康二がドン引きするほどキーボードの打ち込みが遅い。
「ラヴ、お前…」
俺が代わってやろうかと康二が言うがこれは神専用のパソコンだと断られる。
「これでも気にしてるのよ!あいつらにも打ち込み遅すぎって笑われるし…。」
康二が音声認識とか使えばいいじゃないかと言うとその手があったかとまた嬉しそうにPacに喋りかけるが、なぜかパソコンは別の言葉に変換して、それをラヴが手打ちで直したりと、とにかくめんどくさそうだ。イライラと作業していたラヴが
「アアアアアあ!!!」
と叫んだと思うと急に腰を落とし、空手家のような正拳突きの構えをして
「女神最終奥義!!断罪の聖拳突き」
と技名を言いながらパソコンに殴りかかる。画面が砕けると思った瞬間、にゅっと手が画面に入り、3秒ほどして手を抜くと先程のステータスが画面に表示されたのであった。
康二はこいつ、最終的に暴力で全てを解決するタイプだと確信するとジト目をしたラヴが黙って康二に向かって構えを見せるので慌てて、横を向いて下手くそな口笛を吹いていた。
その後、何とかポンコツ女神を宥めた後、2人で楽しく雑談していると白い空間に段々と霧がかかり、空気が震え始める。これは何事かと周りを見渡す康二。
「そろそろかしらね…」
と意味深に呟くラヴ。
「貴方がここにいられるのも後わずかね。この空間は神域であり、魂のまま剥き出しでここにいるのも限りがあるの。だから私の加護で守っていたけどそれも限界。貴方には異世界転移してもらうわ。」
多少の融通は聞くけど何か望むことはある?とラヴが聞くと康二は高身長のイケメンにしてくれと叫ぶ。テンプレねーと言いながらヒラヒラと手を振るとキラキラとした光が無から生まれ、康二に吸い込まれていく。
「これは異世界転移してから反映させてもらうわ。さっきの話を蒸し返すようで悪いけどなるべく殺人はしないこと。貴方の魂が穢れるわ。後ちゃんと生きるのよ。勝手に死ぬのは許しません。」
それだけ言うと康二の体が光始める。しかし康二は何か違和感を感じ、何かを言おうとした瞬間、光は眩い閃光を放ち康二はイルミナへと転移していった。
その後、ラヴの神域にいきなり爆発音が鳴り響き、3m先の地面に穴が空き、眩い光を放つ少女がそこから舞い降りた。少女はラヴを睨め付けながら、こう言う。私の愛しいご主人様を攫ったのは貴方ですか、と。
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