私の家の電球は、女の涙で光っている

那須茄子

涙の電球

 寒くて、凍りそうな夜。


 今日も生きる上での習慣として、家の中に灯りを点す。


 それは微弱な光だが、他の人工的に生み出された光とは全く異なる美しさを秘めている。


 世界で一番美しいのは。

 この絶望と悲痛を滲ませた光だと、私は思っている。


 だから、こんなにも心も身体も温まるのだ。


 誰かを犠牲にした──もしくは、人の生を台無しにした時ほど。

 私の中の不明瞭な欲望は、形となり姿を現す。まるで冬眠を中断した獣のような、混濁と鋭利が入り雑じる。



 『あぁ、私は私らしく生きている!』



 ───どこの誰かも知らない女を宙吊りにし、朝から晩まで涙を流させて、電球の中に注がせる───。


 こんな行為が、許されるはずがない。

 そう。許されるはずがない。


 私は今まさに。

 一人の誰かを犠牲にし、その人間の生を台無しにしている真っ最中だ。



 はぁは。

 感動的だ。


 絶望と悲痛を滲ませた涙が、こんなにも美しいなんて。

 もっと早く知りたかった。


 

 名前も知らない君。

 私の為に、今後もずっとずっと泣いてくれ。



       


 


 






 

 

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