第4話 環境再生型農業

 地球のダイナミックな天変地異は、知的生命体にも計り知れないものがあります。しかし、今の人類に出来る事があるのです。



 土壌の中に含まれる炭素量は、大気中にCO2として存在する炭素量の2から3倍の1兆5000億トン相当が含まれています。しかし、人類の農耕により4500億トンが大気中に放出されました。その量は、化石燃料の燃焼により放出された炭素量2700億トンを大きく上回るのです。

 気候変動対策によって、人為的なCO2の排出を削減するばかりではなく、従来の農法ではない環境再生型農業へ転換されなければならないのです。


 それは、カーボンファーミングです。土壌の質を向上させることで温室効果ガスの排出を抑制して、大気中のCO2を土壌に貯留できるようにする農法です。つまり、自然の炭素吸収源を復元して保護する農業です。



「もう肥料も農薬も値上がりして、農業はやっていけない」


「でもお隣さんは、牛も飼い作物も栽培して、収入も上がっていると聞いているよ」


「どうやっているか聞きに行こうよ」


「農地は耕せばいいというものでもない。耕すと、土の中にいるミミズや菌を殺してしまう。うちの土を見てくれ、茶色で硬い土ではなく、黒く柔らかいだろ。これは、黙っていても土が作物を栄養たっぷりに育ててくれる。この土は団粒構造をしているのさ。肥料や農薬もいらない。農薬は土壌によくない。肥料代も馬鹿にならない。

 そして、今問題のCO2だって土が吸収するから作物にはいいのさ。それに、水はけも良く、大雨でも作物は育ったよ。

 牧畜だって、飼料を使わずに区画を置いて、循環的に使うと牧草もよく生える。牛の糞が肥料になり、牛の飼料はいらなくなる。一石二鳥で、採算が取れるのさ。

 干ばつにも水害にも強い農業だよ。これが、カーボンファーミングというもさ」


「耕して、生き物たちの家を壊し、食べ物も奪っていたわけか」


「洪水の被害も、耕作が土壌の保湿効果を壊していたのか」



 耕すと土をかき乱します。土壌粒子がくっついて小粒の粒子になったものを団粒と呼びます。団粒構造とは団粒が更にくっついて集合体となったものを指します。そして、土壌粒子をくっつけているのは土壌中の陽イオンや粘土鉱物、腐植などの有機物、ミミズや微生物、植物根の分泌物、カビの菌糸などです。


 発達した団粒構造は雨などで濡れても壊れない耐水性を獲得しており、これには生きた植物の根によって団粒が固められることが重要と考えられているのです。他方、土壌粒子がバラバラの土は、単粒構造と言います。


 団粒構造の発達した土壌は柔らかくフカフカで野菜の栽培に適しています。単粒構造の詰まった固い土では植物の根は伸びにくく酸素不足になりやすいため農業には不向きということです。


 単粒構造の土壌は雨が降り、ベタベタになり乾燥するとカチカチに固まります。団粒構造は、団粒の外には大きな隙間があり、団粒の内部には非常に狭い隙間(毛管孔隙)があります。この2種類の隙間があることが重要で、雨が降ったり潅水(人の手によって農作物に水を与えること)を行ったりすると団粒の外側の隙間は大きいので、水が流れ落ち、空気が蓄えられます。団粒内部の隙間には浸透した水が保持されます。これが作物の栽培に適した保水性、通気性、透水性に優れた水持ちが良くて、水はけがよい土の正体です。



 環境再生型農業には、リジェネラティブ農業と呼ばれる農法もあり、土壌の有機物を増やすことでCO2を貯留し、気候変動を抑制する効果があると考えられています。

不耕起栽培をはじめ有機肥料や堆肥の活用など古くからある農業技術がベースとなっています。不耕起栽培は土壌へのCO2貯留という点においてだけでなく、農業従事者の省力化や土壌に生息する生物の多様性が促せるなど様々な面でメリットが多く、アメリカやヨーロッパで推奨され再生型農業として広く取り入れられている栽培方法です。


 化学肥料や農薬の使用、機械化などにより農業の生産性が高まっていった一方で、過度に生産性を追求した管理方法により、温室効果ガスの発生や生態系への影響など農業自体が環境への負荷の原因になってしまったのです。


 温室効果ガス排出量を実質ゼロにするための取り組みとして リジェネラティブ・オーガニック認証制度の基準があります。第三者認証機関であるリジェネラティブ・オーガニック・アライアンスが審査しブロンズ・シルバー・ゴールドといったレベル別に認証ラベルを使用できるという仕組みになっているのです。



 牛の排せつ物から発生するメタンが、環境に悪影響であると聞いたことがあると思いますが、狭い場所で無理な飼育を行うことで牛の排せつ物を微生物が分解できる限界を超えると、環境に影響をもたらします。

 特に畜産業では、窒素やリンなどが大量に使われている傾向にあり、これらが過剰になると環境への負荷が高まってしまいます。土壌は大気や植物以上に炭素を貯めることができると言われていますが、その土の特性や環境などによってもどの程度炭素を貯め込むことができるのかは異なります。

 それでも、リジェラティブ農業はCO2の吸収と隔離を行うことで、地球温暖化の抑制に効果がある農法だということです。


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