十八、覚醒〈一〉
「は……?」
目を開くと、視界に広がるのは水中ではなく、見知らぬ鍾乳洞のような場所だった。
「俺、湖の中に落ちたのに……」
「ええ〜、こんなところあったっけ?」
天井や壁からは独特な形をした鍾乳石が垂れ下がり、地面には至る所に水溜まりがある。そして、灯りが無いため全体的に薄暗い。まるで、夕焼けの世界に飲み込まれたようだ。
自分のプロットを思い返してみても、秘境の中にこんな空間を作った覚えはない。湖の中に入ると鍾乳洞に繋がっているという設定もない。つまり、ここは世界特有の代物だ。
「どうやって脱出しよう」
「誰かに助けに来て……あ!
そこで、
「師兄!! 聞こえますか!?」
しかし、何度試してみても返事は返ってこない。
「出口を探すかぁ……」
秘境において、別の空間同士が連結している特殊なエリアはたまにある。ここも脱出不可能な密空間ではなく、どこかに元の場所へ戻る出口があるはずだ。
「なんてツイてない……!」
今は交流会の真っ最中だ。まだ十点しか取れていないのは悲しすぎる。
「……果てしないな」
「……っ!?」
そして、ある一点に足を踏み入れた瞬間、
(とてつもない霊気だ……殺気さえ感じる)
突然こちらに向かってきた殺気に、
すると、暗い闇の中から、大きな影がこちらに向かってくるのが見えた。カツン、カツンと足音が響いてくる。
(やばいやばいやばい!
しかし、この場を支配する威圧感に、
影は着実に、
(間違いなく高ランクの妖魔だ! なんでここにいるんだよ! またバグですか!?)
一方的に放たれる霊気は、小物とは一線どころか十線を画していた。
(今の俺じゃあ、倒せない……!)
転生してから今日までの間で、かなり強くなったと自負していた。事実、
推測するに、
「貴様、我の許可なく領域に侵入するとは何者か」
低い地ならしのような声が耳を突く。妖魔がすぐ側まで来ていた。
(言語能力がある上にこの様相は……やっぱり高ランクの妖魔だ……!)
その妖魔は人型をしていた。額に二本の角が生え、腕が四本ある。さらに長く太い尾が伸びており、ぐるりと足元に巻きついている。
蛇のような鋭い琥珀の瞳が
「まぁよい。人間を喰らうのは久々じゃ。我の養分にしてやろう」
「っ……」
妖魔は腕をひとつ伸ばし、
「いい面をしておる。勿体ないが、ちゃんと骨まで吸収してやるからのう」
妖魔は「ははは」と妖しげに笑い、
(逃げないと……!)
そして、意を決して後ずさったその時。
「逃がさぬぞ」
「かは、っ……!!」
「フフ、痛いか?」
激痛が全身を伝い、視界が暗くなる。胸を貫く腕を引き抜こうと両手で掴むが、力が入らずビクともしない。妖魔はけたけたと不気味な笑い声をあげて、藻掻く
(死ぬ……!)
そう思った瞬間、宵珉の身体の中で何かがドクリと蠢いた。痛みとは違う妙な苦しみが
「な、んだ……?」
胸が、心臓が痛い。失血が進んでいるはずなのに、ドクドクと血が全身に駆け巡る感覚がする。
「はぁっ……はぁ……」
身体が燃えるように熱い。視界も暗く、息も荒い。今にも破裂してしまいそうなこの切迫感。
「ぐぁぁああああっ!!!」
突然、全身が張り裂けるような痛みに襲われて、
「なっ!?」
豹変した
「なぜ回復しておる……!?」
妖魔は退き、
『殺せ』
どこからか、声が聞こえる。魔力を解放しろと囁くあの声と同じだ。
(俺が死ぬ前にコイツを殺さなければ……)
視界が赤く染まって、過激な防衛本能が脳を支配していく。まるで何者かに操られているかのように制御が効かない。
「その姿は……まさかそんなはずは……!」
「お、お許しを……っ!!」
妖魔は慌てふためきながら懇願するが、
◇◇◇
「
「
「私の弟弟子から信号があったのだが、途切れてしまった……」
「それはおかしいな。秘境内で途切れるはずがないのに」
「……
「構わないよ。ここは俺に任せて」
「頼んだ。できるだけ早く戻ってくる」
途切れるはずのない信号が止まったということは、なにか異常事態が起こったということだ。緊張感が走り、手が汗ばんでいく。
「
脳内に残された信号を頼りに、
「無事でいてくれ……」
自分で思っていたよりも、
秘境にいる妖魔は人間を殺してしまえるほどの力はない。そう分かっていても、あの少年に対する心配がどんどん募っていく。
やがて、秘境の中を走り抜けていくと、小さな湖に辿り着いた。そこは切り開かれており、濁った湖があるだけで他には何もない。
しかし、
「妙だな」
周囲を探っても、
付近を探し回り、もう一度湖の正面に戻ってきたその時。
「なっ……!?」
沼の中からとてつもない霊力が放たれ、同時に
その息苦しさに
(この霊力は、まさか……!)
しかし、
やがて、
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