十九、覚醒〈二〉
奥の方から漂ってくる身の毛もよだつほどの霊気……これは魔力だ。
(そして……)
しばらく走っていると、遠くに人影が見えた。この魔力はあの人影から感じるものだ。
人影は男だった。
男は血に塗れた長剣を手に握り、足元を見つめている。
グチャ。
その音を聞いた男は、
男の赤い瞳が
「仙人様……」
「師兄」
男に名を呼ばれた瞬間、
そして、止まっていた時が動き出したように、男の元まで駆け寄り、今にも倒れてしまいそうなその身体を抱きとめた。
「
「よかった……」
脈は乱れているが、命に別状はない。気絶しているだけだ。
(……間違いない。姿は変わってるが、この青年は
その美しく妖艶な男は
一方で、
肌で感じる魔力にも僅かに
「仙人様、貴方は魔族だったのですね……」
魔力を持つのは妖魔か魔道を収めた修仙者のみ。どちらにしろ、修仙者とは相反する存在であり、特に後者は禁忌とされている。本来であれば、追放か死罪だ。
しかし、
「まずはここから出なければ」
話はそれからだ。男──
そして、指先に霊力を込めて
出口を探すよりも転送術で脱出した方が手っ取り早い。かなりの霊力を要するが、幸いなことに満ち足りている。
「よし」
転送の陣を描き終えると、自身も陣の中へ入る。そして、手印を結んで「仙影移」と唱える。
瞬間、眩しい光が
◇◇◇
闇の中に立っている。ここには何もない。ただぽつぽつと赤い鬼火が浮かんで灯り、闇を照らしていた。
(ここはどこだろう)
そんなことを考えていると、自分の手が湿っていることに気がつく。赤黒い血。あの妖魔の血で手のひらが濡れていた。
(そうだ! 俺はあの妖魔に胸を突かれて、それで……)
思い出そうとすると、頭がズキリと痛み、
ふと、下を向いたまま瞼を持ち上げると、
水溜まりの存在に気がつくと、宙を漂っていた鬼火が
「えっ……!?!?」
そうして、水溜まりが明るく照らされた時、
「だ、誰!? 俺……!?」
記憶の中にある自分の容姿と異なる人物が写っていたのだ。
「なんか、声も若干低くなっている気がするんだけど……」
肩に流れる黒髪、鋭く強い紅の眼差し、真っ直ぐ通った高い鼻、薄い唇。細いながらに硬い筋肉、極めつけはこの世の全てを手にしたとでもいいたげな自信満々のオーラ……。
「妖魔王じゃん!?!?」
そう、
「まさか」
「……大丈夫だ。まだ封印されている」
ほっと息を吐くと氷のように強ばっていた身体が緩む。魔力は依然として秘魔の紗に覆われており、封印が解けた様子はなかった。
「じゃあ、この姿は一体どういうことなんだ?」
妖魔王が復活しかけているのか。あの妖魔に胸を突かれて殺されそうになり、その時に魔力が漏れ出てしまったのだろうか。
たしか、傷口も全て塞がっていたし……。
「そうだ……あの後、俺が妖魔を殺したんだ」
あの時、
きっと胸を突かれた時に、器が死なないようにと妖魔王の魔力が染み出てしまったのだ。そのために、
「ははあ、なるほどな」
おかしな状況だが、小説ではよく見る展開だ。事実、
「待って、俺死んでないよな? ここは夢なのが……?」
ひとつ解決したと思えば、またひとつ疑問が浮かんでくる。一体どうしたものか。
『
「師兄の声だ……!!!」
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