二十一、臣下
拱手して頭を傾ける
そのため、
「えっと……
「陛下、やっとお会いできました……!」
「へ、へへへ陛下ぁ!?!?」
とんでもない呼称で呼ばれ、
(こ、こいつ、いきなりなんなんだ!? まるで異世界の王様に転生した主人公みたいなシチュエーションじゃないか!)
唖然と
「転生したら仙郷に潜入するとは言っておられましたが、まさか、同じ
「えと……
「僕が潜入していると分かっていながら他人のように過ごされるなんて悲しいです……」
(もう、全然聞く耳を持たないし、陛下って一体なんなんだ……)
「ああでも、陛下と見抜けなかったなんて……なんと、情けない臣下でしょう! しんでしまいたい……!」
「
「えっ?」
「あれ、おかしいですね……。陛下の自我が戻っていない……? 器には陛下の意識ごと引き継がれるはずだったのですが」
「な、なあ……その陛下って妖魔王のことか?」
「もちろんですとも! 貴方様以外に僕が"陛下"とお呼びする者はいません!」
「やっぱり!?」
嫌な予感が当たり、
(
とんでもない状況に
原作で妖魔王は仙界を征服するために、彼の重鎮を何人か仙門に潜入させていた。
この少年──実年齢はおそらく三桁──も
「あー
「そうだったのですね。陛下は時が経てばとおっしゃってましたけど、いつ頃完成するのでしょうか……。ともあれ、あなたが陛下であられることには変わりありません!」
ノリが変わらない
妖魔王の配下には盲目な信者が多いという設定にしてあったが、どうやら
「それで、いつ仙界を侵略しますか? まずは
「ダメ!
「ええ……? ですが陛下は仙界を内部から壊滅するために、今回の転生を上手く使おうと……」
「
恐ろしい提案に、
(ええい、こうなったら……!)
「その……
臣下は妖魔王の幸福を願うはず。こう言えば、
「なんと……! それでは今すぐにでも手篭めにして、妾にでも置けばいいのでは?」
「いやいやいや、
「では、
「それも望んでない!」
話が変な方向へ向かっている気がして、
「第一、俺はまだ器としての身体ができてない。だから……仙界の征服は保留だ。他の誰にも俺のことを教えてはならない。もちろん他の上層部にも!」
「はぁ……陛下がそうおっしゃるならば、しばらくの間は僕の胸の内に留めておきます」
「ならいい。それと……できるだけ妖魔が人を襲わないように妖魔界を律してくれないか」
「ええっ、あれだけ妖魔は自由にさせていいとおっしゃられていたのに!?」
ああ、やっぱり妖魔王はクズだ……。原作の妖魔王は傲慢で横柄。妖魔界以外は見下していた。
しかし、俺が妖魔王の器となってしまった以上、身の振りは我が身に返ってくる。もはや征服する気はサラサラなく、むしろ妖魔界を平和に改革すべきだろう。
(仙郷にいながら、妖魔界のことも考えないといけないなんて! まあ、ここで
「陛下、
「え、
「ええ。陛下は隠密行動を望まれておられるようなので、僕はここで失礼します。なにかありましたらお呼びください。すぐに駆けつけますので!」
その颯爽とした動きに
(なんか、思ってたやつと違ったな……)
(前世ではぼっちだったのに、今はこんなに見舞ってくれる友達がいるなんて……!)
心の中で感激の涙を流していると、真に迫ったような
「
「
元気に名前を呼び返すと、
「
「うん、霊力の消耗と戦闘の衝撃で倒れたみたいな感じだから怪我とかはない」
「ふーん……急いで来て損した」
「へえ、心配してくれてたんだな」
素っ気なくため息を吐く
「そういや、俺は途中までしか知らないけど、今回も
「ふん、今回はあいつに譲ってやったんだ」
「ほーん」
わざと
(聞かなくても、俺は何があったか知ってるけど)
怪我をして倒れた自分の前に立ってボスの攻撃を庇ってくれたその背中、手を差し伸べてくれた時の優しい眼差しに。要するに、
(多分、順調に距離が縮まっていってるはず!)
ボスとの戦闘を覗き見できなかったのは悲しいが、また追い追い
せっかく話せる機会だったのに……次に会うのはあの洞天仙会だ。(
「というか、おまえこそ二位だろ。まさか俺が抜かされるなんて」
「まー、たまたま別のボス?に遭遇できただけだけど」
「でも倒せたんだろ? はぁ……俺も強くなんないと」
「よし、一緒に仙人目指して頑張ろーな!」
「このお気楽め」
「なんでも高ランクの妖魔に襲われたって聞いたが、思っていたよりも元気そうだな」
「そー! 倒れたのが嘘みたいにもう元気!」
「それならよかった」
穏やかに頷く
「あの
「褒めてもいいんだぞ〜」
「ハッ、調子に乗ってられるのも今のうちだぜ」
「病人とはいえ、師兄を部屋から追い出すなんて大したもんだな」
「うっ……」
冗談めかして言う
(明日、朝一で謝りに行こう……)
◇◇◇
同時刻。
「妖魔王、か」
もう百年以上"仙人様"と呼び心の中で慕ってきた人が、仙界と相反する妖魔界の王だったとは。
それは
しかし、嘘とも思えない。今なら分かる、仙人様の凄まじい実力。彼が妖魔王ならば納得できる話だ。
(それならば、なぜ仙人様は人間界で苓舜私を助けたのだろう……)
今の妖魔界は荒れ果て、人を襲う妖魔たちで溢れかえっている。それは妖魔王が統制せずに、妖魔たちをのさばらせているからだと言われている。しかし、記憶を手繰り寄せても、仙人様は恐ろしい方ではなく、優しく美しい方だった。まだ混乱が治まらない。
今、裏切られたという気持ちはない。到底他の人には言えない真実を話してくれたのだから。
しかし、鍾乳洞の中で会った、仙人様──妖魔王の姿の
今や、
「一体どうしたものか……」
この東西南北の仙郷間で定められた暗黙のルールには「魔力を持ち得るものを門下に入れてはならない」というものがある。
しかし、
「クソッ、私には無理だ……」
それに、人格は別にしろ彼こそが初恋の人だと知った今、どうして手放すことができよう。たとえ、彼が悪名高い妖魔王だとしても、
むしろ、やっと再会できたのだから彼に恩を返したい、まだ彼と共に過ごしていたいという気持ちばかり溢れてくる。
「……もうじき、師尊が帰ってくる」
「そうなれば……いやしかし、師尊ならば……」
師尊は真面目な一方、普通の修仙者とは違う感性を持っている。もしかしたら、
(いっそ、このことが反妖魔派の仙門に知られる前に、師尊には話しておくべきかもしれないな……)
この日、
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