イチャイチャ in 秘密のスポット――1
俺たちが江信に入学してから二週間が経った。
だいぶ高校生活には慣れてきたが、俺にできた男友達はたったひとりだ。まあ、アイドルでもなかなかいないレベルの美少女三人に囲まれているのだから、しかたないけれど。むしろ、ひとりでも男友達ができたことに感謝するべきなんだろうけど。
昼休み。俺たちは校舎北西にある、非常階段の脇にきていた。ここは行き止まりになっており、ほとんどひとが来ない。俺たちが見つけた秘密のスポットだ。
この秘密のスポットで四人揃って昼食をとるのが、俺たちの習慣になっている。今日も今日とて、俺たちは地面にレジャーシートを敷き、萌花が用意してくれた昼食にありつこうとしていた。
レジャーシートの中央に置かれているのは、二段積みの重箱。普通の弁当箱では、四人分の食事が入りきらないのだ。
「今日はこんな感じでーす」
「「「おお!」」」
萌花が重箱の蓋を開けると、俺、美風、詩織は
重箱に詰められていたのは、からあげ、サワラの西京焼き、エビチリ、玉子焼き、筑前煮、菜の花のおひたし、茹でブロッコリー、プチトマトだ。俺たちそれぞれの好みを満たし、栄養バランスにまで
「今日も美味そうだなあ」
「同感です。しかし、こんなにたくさんの料理を作るのは、大変だったのではありませんか?」
「全然大丈夫だよ」
心配そうな詩織に、ご飯が入った個別の弁当箱を俺たちに配りながら、萌花が微笑みかける。
「筑前煮とおひたしは作り置き。エビチリに入ってるエビはからあげと一緒に揚げていて、サワラの西京焼きは、あらかじめ漬けておいたものを焼くだけだから、時間も手間もそんなにかかってないの」
「萌花の主婦力は一級品ね。なんだか、女として負けた気分」
萌花の解説を聞いて、美風が乾いた笑い声を漏らした。
「じゃあ、いただきますか」
「はい。召し上がれ」
合掌して昼食にありつく。萌花の料理があまりにも美味しいものだから、俺たちの箸の進み具合は、『がっつく』の表現がふさわしいほどだった。
「ザックザクだな、このからあげ。時間が経っているのに、こんなにも小気味いい食感がするのは驚きだ」
「切り身の中心まで味が染みていますね。それでいてパサつきがなく、サワラ本来の味も死んでいない。絶妙な漬け具合です」
「エビの衣に餡が絡んでいて最高ね。餡の味付けもお店レベルだわ」
「えへへへ。ありがとう」
俺たち三人に絶賛されて、萌花がはにかむ。
萌花の料理は毎日食べているけれど、いまだに感動する。プロでやっていけるんじゃないかとすら思う美味しさだ。
夢中で食べていると、楽しげな色を帯びた目で、詩織が俺を見上げてくる。
「よかったですね、蓮弥さん。素敵な奥さんをもらえて」
「まったくだ。俺にはもったいないくらいだよ」
詩織の口振りは茶化し混じりだったけれど、動揺することなく、俺は正直に応じた。事実、萌花が奥さんになってくれて、心底感謝しているのだから。
「す、素敵な奥さんだなんて……えへ、えへへへ」
萌花の頬が、ぬるま湯に浸したライスペーパーみたいにフニャフニャになっている。俺に褒められて嬉しいのだろう。
萌花の喜び
「もちろんだけど、美風と詩織も素敵な奥さんだからな」
「い、いいいいきなりなに言ってんの!? ビックリするからやめてよ!」
「わたしは嬉しいので、何度でも言ってほしいです」
美風がツンデレらしくアタフタして、詩織が乙女っぽく口元をほころばせる。ふたりとも、頬を桜色にしているのが愛らしい。
こんなにも素敵な女の子たちがお嫁さんになってくれたなんて、俺、一生分の運を使い果たしたんじゃないか? まあ、みんなとずっと一緒に暮らしていけるのなら、それでもおつりがくるんだけどさ。
人生最高とも呼べる幸運に思いをはせていると、どういうわけか、萌花が俺にからあげを差し出してきた。
「どうした、萌花?」
「蓮弥くん。あーん」
「へっ?」
突然の『あーん』に、俺は
こちらは動揺しているけれど、いまだにふにゃふにゃな笑みを浮かべている萌花は、なんのためらいなく、からあげを俺の口に近づけてくる。
「も、萌花?
「恥ずかしくなんてないよ? 奥さんは旦那さまに『あーん』してあげるものでしょ?」
「よほど嬉しかったんだな、さっきの言葉!」
どうやら萌花は、先ほどの「素敵な奥さん」発言が大層お気に召したようだ。その影響で頭のなかがハッピーになりすぎて、羞恥心が迷子になっているらしい。恥ずかしがらずに『あーん』できているのは、そのためだろう。
萌花と対照的に、俺はうろたえにうろたえていた。もちろんだが、萌花の『あーん』が嫌だからではない。ためらう理由があるからだ。
「どうしたの、蓮弥くん? 口、開けて?」
「け、けどさ? これ、間接キスにならない?」
「ふぇ?」
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