イチャイチャ in 秘密のスポット――2
俺の指摘に、萌花が目をパチクリさせる。
萌花が、俺の口→からあげ→箸の先、の順番に視線を移動させる。それを三回ローテーションしたところで、茹だるように顔を赤らめた。やはり、『あーん』すると間接キスになることを、失念していたらしい。
視線をあちらこちらにやりながら、萌花がプルプルと小刻みに震える。見るからに羞恥心マックスな様子だ。
それでも萌花は、からあげを引っ込めようとはしなかった。
「あ、あーん」
「へっ?」
またしても、俺は間抜けな声を上げる。
相変わらず萌花は恥ずかしそうにしているが、『あーん』をやめる気配はない。それはつまり、間接キスになっても構わないということだ。
当然ながら、恥ずかしいだけで俺も嫌じゃないし、ここで拒んだら、勇気を振り絞ってくれた萌花に失礼すぎる。
覚悟を決めて、俺は口を開けた。
「あ、あーん」
「は、はい。あーん」
萌花が運んでくれたからあげを口に含む。『あーん』と間接キスの実績が、同時に解除された。
真っ赤な顔をしているだろう俺に、同じく顔を赤くしながら、萌花が
「お、美味しい?」
「美味しい……んだろうけど、ドキドキしすぎて味がわからない」
「そ、そっか」
正直に答えると、萌花の顔がさらに赤くなった。
『あーん』って、こんなにも照れくさいものなんだな。世のカップルは、よく平然とこんなことができるな。
恥ずかしさを紛らわすため、そんなたわいのないことを考える。
だが、どうやら俺は、恥ずかしさから逃れられない
からあげが、さらにふたつ差し出された。
「奥さんは旦那さまに『あーん』してあげるもの、ですよね?」
「こ、公平に、あたしたちからも受け取って」
「……なんとなく、こうなる気はしてた」
面白そうに
けれど、ふたりからの『あーん』を拒むつもりなんてない。萌花と同じくらい、詩織と美風が好きだから。ふたりからの愛情をちゃんと受け取りたいから。三人とも平等に愛したいから。
「あ、あーん」
「「あーん」」
ふたりが差し出してくるからあげを、パク、パクリ、と頬張る。これで三人分の実績解除だ。
当然ながら、羞恥メーターはリミットオーバー。体温が上がりすぎたのか、頭がクラクラする。
いままでにないくらい心臓がうるさい。この上なく幸せだけど、同時に寿命が縮まってる気がするなあ。
そんな感想を覚えながら口いっぱいのからあげを
「ね、ねえ、蓮弥? ギブ・アンド・テイクって知ってる?」
「ああ。どっちかが与えられたら、与えられたほうが、くれたほうにお返しをする関係のことだよな?」
「そう。それって健全な関係よね?」
「そうだな。恩と恩返しの関係だからな」
「な、ならさ? あたしたちも、そうならないとね」
美風が俺を見つめてくる。空色の瞳はどこか物欲しげだ。
ああ……そういうことね。
その発言と態度で、美風がなにを求めているのか、俺は察した。
美風が想像通りの行動に出る。
「あ、あーん」
開かれる美風の口。ようするに、『あーん』したから『あーん』してほしいということだろう。
ここで考えるべきは、俺に『あーん』してくれたのは美風だけじゃないということ。そして、残りのふたりも、美風に負けないくらい俺が好きということだ。
「美風さんの
「わ、わたしもそう思う!」
そうなると、詩織と萌花も、『あーん』返しを求めてくるのは必然なわけでして。
口を開けて『あーん』を待つ三人。ピンク色の口内粘膜が
「あ、あーん」
頭から湯気が上がりそうなほどに体を熱くしながら、俺は三人に『あーん』返しをしてあげた。
親鳥から餌を与えられた雛みたいに三人が口をモグモグさせるなか、俺は心のなかで呟く。
この場所を見つけられて、本当によかった。
こんなふうにイチャついているところを男子生徒に目撃されたら、夜道で常に背後を気にしなくてはならなくなるだろう。
俺たちが秘密のスポットで昼食をとっているのは、その危険を回避するためだったりするのだ。
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