家庭的な女の子はそれだけでポイントが高い――4

「よし! じゃあ、いまから作るね!」


 帰宅後、私服に着替えた萌花が、自前のエプロンを身につけて、キッチンで袖まくりをする。エプロン姿の萌花がキッチンに立っている光景に、俺は本当に萌花と夫婦になったんだなあ、としみじみと感じた。


 今晩の献立こんだては、煮魚・海老フライ・スンドゥブチゲ・チキンカツに決まった。ちなみに、チキンカツと海老フライは一緒に揚げて、時短を図るらしい。


 とはいえ、ひとりで四品も作るのは大変だよな。


 そう思い、俺は萌花に声をかけた。


「俺も手伝うよ」

「え? けど……」

「なにもしないのは、なんだか居たたまれないしさ」


 遠慮する萌花に、「それに」と続ける。


「萌花の力になりたいんだよ。一応、俺も夫なんだし」

「ふぇっ!?」


 少し照れくさくて、俺は頬をポリポリと掻く。


 鳴き声じみた可愛らしい声を上げた萌花は、口元をむにゃむにゃと波打たせたあと、照れと喜びが混じったような微笑みを浮かべた。


「それなら、お言葉に甘えちゃおうかな」

「ああ!」





 それから俺は、萌花の指示を受けつつ、調理器具を用意したり、火加減を見たりして手伝った。いままで家事に魅力を感じなかったが、萌花と一緒にやっていると、不思議と好きになれる気がする。


 こういうの、新婚夫婦みたいでいいな。


 そんな感想を得て、みたいじゃなくて実際に婚約したじゃないか、と思い出し、なんだか可笑おかしくなる。


 頬を緩めていると、隣から、クスリ、と小さな笑い声が聞こえた。


「どうしたんだ?」

「こういうの、新婚夫婦みたいでいいなって思ってね? みたいじゃなくて本当に婚約したんだ、って気づいたら、可笑しくなっちゃって」


 俺は目を丸くした。


「萌花も?」

「え?」


 なんのこと? と言いたげにキョトンとする萌花に、俺は教える。


「俺も同じこと考えてたんだ」


 俺と同じく、萌花が目を丸くした。


 俺と萌花は目を見合わせて――どちらからともなく、クスクスと笑い合う。


「なんかさ? 同じときに同じことを感じるのって、いいな」

「うん、そうだね。心が通じ合ってる気がするね」


 幸せを噛みしめる俺たち。


 漂うのは甘い雰囲気。


「コーヒーが欲しくなりますね」

「同感。甘いったらありゃしないわ」

「うおっ!?」

「ひゃうっ!?」


 次の瞬間、なんの前触れもなくふたり分の声が聞こえて、口から心臓が飛び出すかと思った。


 声がしたほうに目をやると、いつのに帰ってきたのか、詩織と美風がリビングダイニングに立っている。


「び、びっくりさせるなよ!」

「気づかないそっちが悪いんでしょ?」

「結構前から、わたしたちはいましたよ?」

「そ、そうなの?」

「ええ。まあ、蓮弥も萌花も、ふたりの世界に浸ってたみたいだから、気づかなくてもしかたないわね」


 からかい混じりの美風の指摘に、俺も萌花も口をつぐむ。できることといえば、顔を赤らめることくらいだ。


 そんな俺たちの様子を面白がるように、詩織と美風が口端を上げながら言った。


「蓮弥さん? 今度はわたしたちとイチャイチャしてくださいね」

「萌花だけ贔屓ひいきするのは、どうかと思うしね」


 俺の答えは決まっている。


 いまだに心臓がバクバク音を立てるなか、苦笑とともに告げた。


「もちろんだよ」

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