家庭的な女の子はそれだけでポイントが高い――3

 スーパーについた俺と萌花は、はじめに青果売り場へ向かうことにした。


 カートを押しながら、俺は萌花に尋ねる。


「みんなの好きなものを作るって言ってたけど、なににするんだ?」

「うーん……好きなジャンルがみんな違うから、ちょっと悩んじゃうね」

「萌花が洋食で詩織が和食、美風は辛いものが好きだったよな? たしかにバラバラだ」

「うん。ひとまず、一品目はチキンカツかな」


 萌花が口にした料理名に、俺は目を丸くした。なにしろ、チキンカツは俺の好物なのだから。


「よく覚えてたな、俺の好物」

「蓮弥くんだって、わたしたちの好きなものを覚えててくれたじゃない」


 萌花がクスクスと笑みをこぼし、ひなたぼっこをする猫みたいに、ふにっと目を細める。


「覚えてるよ。大好きな蓮弥くんのことだもん」

「そ、そうか」


 キューピッドの矢に、胸を撃ち抜かれた気分だった。





 青果売り場で野菜を選び、鮮魚売り場で魚を吟味ぎんみする。


 そのどちらでも、萌花は大活躍した。


「このネギよりも、こっちのほうがよさそうだね。白い部分がちゃんと固いから、中身が詰まってて、みずみずしいと思う」

「魚はね? 目が澄んでいるものがいいんだ。それから、おなかの部分を軽く押してみるのも、鮮度を見極めるコツ。弾力があったら新鮮な証拠だよ」


 こんな調子で、より鮮度のいい食材を、的確に見分けていったのだ。


 萌花の女子力……というか、主婦力が高すぎる。こんなに主婦らしい高校生って、なかなかいないんじゃないか?


 感心しながら、続いて精肉売り場へ向かう。


「あ。お砂糖が安い」


 その途中、棚の脇に並べられた砂糖に、萌花が着目した。


「買っていくか?」

「うん」


 萌花が首肯しゅこうして、砂糖の袋を三つ手にした。


「えっ? 三つも? 多くないか?」

「多くても大丈夫。お砂糖は日持ちするからね。安いときに買いだめしておくのがポイントなんだよ」


 驚く俺に、萌花がニッコリ笑って説明する。


 このスーパーを訪れる前、『節約はちゃんとしたい』と萌花が口にしていたが、まさに有言実行。萌花には安心して家計を任せられそうだ。


 尊敬の念すら覚えながら、俺は萌花に感謝する。


「萌花みたいな奥さんがいてくれて、俺は幸せ者だよ」

「ふ、不意打ちはズルい!」


 萌花が頬を紅葉色にした。





 買い物を済ませて、レジで精算する。俺たちのことをカップルだと思ったのか、レジ打ちのおばさんが、微笑ましいものを見るような顔をしていた。


 レジ打ちのおばさんに見送られた俺たちは、萌花が持参したマイバッグに、買ったものをしまっていった。


「じゃあ、帰ろうか」

「持ってくれるの?」


 俺がマイバッグを手にすると、萌花が目をパチクリさせる。


「四品分の食材に加えて、砂糖も三袋入ってる。こんなに重いものを萌花に持たせたら、男がすたるよ」


 気遣うと、萌花はふにゃりと頬を緩めた。


「わたしも、蓮弥くんみたいな旦那さまがいてくれて、幸せ者だよ」

「さ、さっきの仕返しか!」


 今度は俺が赤面する番だった。


 してやったりとばかりに、萌花が歯を見せて笑った。

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