モテモテ対策はイチャイチャ――2
いまだに納得できずにいると、詩織が改めて口を開いた。
「では、いくつか根拠を上げましょう。第一に、蓮弥さんは紳士です」
「うん。引っ越しのとき、重い荷物を率先して運んでくれたもんね」
「しかも、これみよがしにじゃなくて自然にね。あれを素でできるのは才能だわ」
「それに、とっても優しいよね。昔、わたしが野良犬に襲われたとき、傷だらけになりながら助けてくれたもん」
「自分も怖かったでしょうけど、決して泣きませんでしたよね。きっと、萌花さんを心配させたくなかったのでしょう」
「あ! あれ、覚えてる? あたしがアイスを落としちゃったときにさ?」
「覚えてる覚えてる! 自分のアイスを美風ちゃんにあげたんだよね」
「たしか、『虫歯が痛いから』と言って気遣われたんですよね」
「そうそう。虫歯なんてなかったのにさ」
「も、もういい! わかった! わかったから、やめてくれ! そんなに褒めちぎられたら、照れくさすぎてぶっ倒れる!」
昔のエピソードで盛り上がる三人を、俺は慌てて制止する。まだまだ話し足りないと言いたげな顔をしながらも、「「「わかったならよろしい」」」と、三人は言うことを聞いてくれた。
ふぅ、と息をついて、顔の火照りを鎮めようと努める。
「ようするに、俺がモテる……かもしれないから、みんなはくっついているわけだな?」
「ええ。わたしたちが
「蓮弥くんのお嫁さんはわたしたちで充分だもんね」
「けど、俺とくっついてたら、変な目で見られないか?」
「変な目?」
眉をひそめ、美風が尋ねてくる。
辺りを見渡しながら、俺は指摘した。
「俺たちの状況、あきらかにハーレムだろ? どうしたって目立っちゃうと思うんだ。事実、現在進行形で周りから注目されているし」
先ほどからこちらを眺めている生徒たちは、俺たちがあまりにも仲睦まじげにしているためか、男子は恨めしそうに顔を歪め、女子はキャーキャーと黄色い声を上げている。
俺が後ろ指を指されるだけなら構わない。怖いのは、三人まで変な目で見られてしまう可能性だ。俺のせいで三人が疎まれたら、悔やんでも悔やみきれない。
「それなら問題ありませんよ」
顔を曇らせていると、詩織があっけらかんと言った。
「蓮弥さん。わたしたちは幼なじみですよね?」
「ああ、そうだな」
「幼なじみは仲がいいですよね?」
「そう……かな? たしかに俺たちはそうだけど、例外もいるんじゃないか?」
「仲がいいなら、
「待ってくれ。その理屈、ちょっと強引じゃないか? というか、俺の言い分を無視しないでほしいんですけど……」
「つまり、『幼なじみだから』の一言で問題は解決するわけです。
「いや、穴だらけだろ、その証明!!」
詩織の理屈が雑すぎて、ツッコまずにはいられなかった。
「いくらなんでも無理があるだろ! 美風と萌花もそう思うよな!?」
「「思わない」」
「なぜだ!?」
おまけに、美風と萌花が首を横に振るものだから、
おかしい。美風と萌花は、こんなにもアホの子だっただろうか? 詩織の理屈が無茶苦茶だと思わないのだろうか?
「完璧な言い訳だよ。蓮弥くんの
「これで大丈夫ね、蓮弥。じゃあ、もっとくっつきましょう」
「ふたりとも、さては俺とくっつきたいだけだな!?」
美風と萌花がすっと視線を逸らす。図星らしい。
俺は天を仰いだ。
くっついてくるのはいいけれど、むしろウェルカムだけれど、もっとマシな言い訳がほしい。『幼なじみだから』じゃ、乗り切れる気がしないんだよ。
「大丈夫です、蓮弥さん」
悩む俺を励ますように、詩織が真顔で言った。
「嘘も一〇〇回つけば信じてもらえるものです」
「全然大丈夫じゃない!」
波乱の予感しかしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます