モテモテ対策はイチャイチャ――1

 萌花が用意してくれた朝食をいただいたのち、俺たちは揃って登校していた。


「朝ご飯、とっても美味しかった。腕を上げたのね、萌花」

「ありがとう、美風ちゃん。引っ越してすぐで食材がなかったから、コンビニで買ったものにちょっと手を加えただけなんだけどね」

「それだけであの出来ですか。今日の晩ご飯が楽しみですね」


 三人が談笑している。


 そんななか、俺は戸惑っていた。


「なんかさ? みんな、近くない?」


 三人ともが、やたらと近い位置にいるからだ。


 右側にいる萌花とは、何度も腕と腕が触れ合っているし、左側にいる詩織は俺と手を繋いでいるし、左後ろにいる美風は、制服の裾をつまみながら、俺に寄り添うみたいにしている。


 学校が近づくにつれて、周りの生徒たちも増えてきている。彼ら、彼女らは、一様に、好奇の視線を俺たちに向けていた。大変気まずいため、できることなら三人には離れてほしい。


 困った顔をしていると、萌花が上目遣いを向けてきた。


「ダメかな、蓮弥くん?」

「いや、全然ダメじゃないけどさ」

「できるなら、このままでいたいです。大好きな蓮弥さんと結婚できたことで、イチャイチャしたくてたまらないのですから」

「そ、その言い方は効く……っ!」

「あ、あたしは別に、イチャイチャしたいとかじゃないけど……」

「そうなのですか? でしたら、美風さんは離れても構わないですよ?」

「離れたいとは言ってないでしょ!」


 萌花がシュンとしながらいてきて、詩織が繋いだ手をキュッと握り、美風がいつものようにツンデレる。三者三様ではあるが、『俺とくっついていたい』という気持ちは一緒のようだ。


 三人の愛情を感じ、俺の顔が熱を帯びた。


 愛おしすぎる……こんなにも慕ってくれるなら、離れてくれなんて、とてもじゃないけど言えないな。


 諦めて、俺は苦笑する。


「それに、これは蓮弥くんのモテ対策でもあるのです」

「……ん?」


 続けて、詩織がよくわからないことを口にした。


 苦笑したまま、俺はクエスチョンマークを浮かべる。


「モテ対策? 俺の?」

「ええ。蓮弥さんはモテるでしょう?」

「生まれてこの方、一度も思ったことないけど」

「あたしたちに囲まれた状況で、よくそんなことを口にできるわね」


 美風が溜息をつき、萌花が「うん、うん」と同意の頷きをした。


 そ、そういえばそうか。この状況でモテないなんて言ったら、世の思春期男子たちに袋だたきにされそうだ。


 頬に汗を伝わせつつ、コホンと咳払いする。


「ま、まあ、たしかにこの状況では言い逃れできないけど、あくまでモテるのはみんなにだけだから」

「「「いやいや」」」

「ええ……」


 俺の弁明は全否定された。


 うろたえる俺に、三人が説いてくる。


「あのね、蓮弥。自覚ないなら言っておくけど、あんたってスペック高いのよ?」

「ええ。中堅クラスのバスケ部を、全国大会優秀に導くくらいですし」

「それに顔も整っているしね。モテないほうがおかしいよ」


 三人に指摘されてもピンとこなかった。なにしろ、いままでの人生で、彼女たち以外にモテたためしがないのだから。


 俺は眉根に皺を寄せる。


「けど、小学校でも中学校でも、女子から好かれた記憶はないし、告白されたこともなかったし……まあ、みんな以外の女の子に興味はなかったんだけど」

「……蓮弥くん、無自覚にフラグを折りまくったんだろうね」

「でしょうね。『あたしたち以外の女の子に興味はなかった』なんて、真顔で言うやつだし」

「嬉しくはあるのですが、蓮弥さんのことが好きだっただろう方々の気持ちを考えると、素直に喜べないですね」

「「同感」」


 萌花が苦笑して、美風がジト目になり、詩織が嘆息たんそくする。

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