家庭的な女の子はそれだけでポイントが高い――1

 結論から言うと、『幼なじみだから』という言い訳はまったく通じなかった。


 苦し紛れの言い訳になど耳を貸さず、登校時の俺たちを目撃したクラスメイトも、その話を耳にしたクラスメイトも、よってたかって俺を質問攻めにしてきた。間違いなく、この学校のトップスリーを独占する美少女たちを、まとめてはべらせているのだからしかたないけれど。


 多くの男子が俺を羨ましがり、なかには敵視してくる者もいた。男子の友達を作るのは、諦めたほうがいいかもしれない。


 休み時間になるたびに質問攻めに遭ってきたため、放課後になるころには、俺はヘロヘロになっていた。


 三人と一緒に廊下を歩きながら、俺は深々と息をつく。


「……疲れた」

流石さすがに『幼なじみだから』じゃ無理があったね」

「やっぱりわかってたんだな。その言い訳は通じないって」


 同じく嘆息たんそくする萌花の様子に、俺は力なく笑った。


 そんな俺の姿を目にして、美風がシュンとする。


「あたしたちのせいで蓮弥が困るのは、申し訳ないわね」

「いいよ。質問攻めにされるのは大変だけど、みんながそばにいてくれるのは嬉しいし。それに、美風も萌花もフォローしてくれただろ?」


 言いながら、美風と萌花を励ますために微笑みかけた。


 美風と萌花も質問攻めに遭っていたが、自分よりも俺のことを優先してくれたのか、俺をかばう発言をしてくれていた。ふたりのフォローがなければ、俺の疲労感はさらに増していたことだろう。


「ふたりとも疲れていただろうけど、俺の負担を軽くしようとしてくれたんだ。文句ばかり言ってられないよ」

「そう言ってもらえると嬉しいよ、蓮弥くん」

「まあ、蓮弥には無理してもらってるし、それくらいしないといけないものね」


 萌花が嬉しそうに目を細め、美風が照れ隠しするように髪の先をいじる。なんとか立ち直らせることができたらしい。


 胸を撫で下ろしていると、詩織が唇を尖らせた。


「隣のクラスなので、わたしはあまりフォローできませんでした。悔しいです」

「健気なね方だな。その気持ちだけで充分だよ」


 自分のためでなく、俺のために拗ねている詩織が愛らしい。思わず笑みがこぼれる。


 みんなと話していると疲れが癒えていくみたいだ。これなら、明日の質問攻めにも耐えられそうだな。


 嬉しくも悩ましくもある気持ちになり、俺は苦笑を浮かべた。


 それからも、三人と談笑しながら昇降口へ向かう。その途中、美風と詩織が不意に手を挙げた。


「蓮弥、萌花、あたしたちは学校に残るわ」

「先に帰っていてもらえますか?」

「なにか用事があるのか?」

「バスケ部の見学に行きたいのよ、あたし」

「あれ? まだ入部できないんじゃなかったっけ?」


 コテン、と萌花が首を傾げる。


 萌花の言うとおり、新入生はまだ部活に参加できない。そのことは美風もわかっているはずだ。


 それでも、美風は見学に行くつもりらしい。


「入部できないからって、見学しちゃいけないわけじゃないでしょ? バスケはチームスポーツだし、先輩たちとコミュニケーションをとっておきたいのよ」

「なるほど」


 美風の考えを聞いて、萌花が納得の頷きをした。


「わたしは図書室を覗いていこうと思います。蔵書が気になりますから」

「相変わらず、詩織は本が好きなんだな」

「ええ。さがのようなものです」


 詩織がわずかに口端くちはしを上げる。


 俺たちが出会ったころ、詩織はすでにたくさんの知識を持っていたが、それはひとえに、彼女が読書好きだからだ。まだ小学校低学年だったにもかかわらず、詩織は、小説・専門書・ビジネス書など、大人が読むような本まで好んでいた。


 詩織の読書好きはいまでも変わらないらしい。そのことが、昔の思い出といまとを繋いでいるように思えて、なんだか嬉しかった。


「ってことで、ここからは別行動ね」

「用事が終わったら、わたしたちはふたりで帰りますので」

「わかった」


 美風と詩織に頷きを返し、「ただ」と俺は続ける。


「遅くなるようなら、迎えにいくから連絡してくれよ? 美風と詩織みたいな可愛い子に、夜道を歩かせるわけにはいかないしな」

「……本当に蓮弥はジゴロね」

「やはりモテ対策は必須です。そばにいる時間を、もっと増やさないといけませんね」


 美風がジト目になり、詩織が深刻そうな顔をする。


 俺、そんなに変なこと言ったか? ふたりを心配するのは当然なんだけど。


「まあ、ありがとね、蓮弥」

「その調子で萌花さんをお願いします」

「了解」

「美風ちゃん、詩織ちゃん、またあとでね」


 手を振って去っていく美風と詩織を、同じく手を振って、俺と萌花は見送った。

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