再会――3

 入学式では校長や生徒会長から歓迎の言葉が贈られて、そのあとのホームルームでは、クラスメイトたちの自己紹介や、担任の先生からの高校生活に関するアドバイスなどがあった。


 だが、それらの内容の大半を俺は覚えていない。放課後にひかえている、三人の幼なじみとの話。それが、気になって気になってしかたがなかったからだ。




 ――蓮弥? あの約束、覚えてる?




 三人は、結婚の約束について、どう考えているのだろうか? 結婚の約束について、どんな話をしてくれるのだろうか?


 学校生活一日目をひたすらソワソワして過ごし、待ちに待った放課後がやってきた。


 ようやく彼女たちから話が聞けると思っていた俺は――またしても戸惑いのさなかにあった。


 現在、なぜだかわからないが、俺たちはワゴン車に乗せられて、どこかに運ばれている。状況を理解しているのか三人は平然としているけれど、いまだに説明を受けていない俺にはちんぷんかんぷんだ。


 加えて、ワゴン車を運転している女性のプロフィールが、俺の混乱をさらに加速させていた。


 二〇代後半と思われる、眼鏡をかけた黒髪の女性。観音崎英子かんのんざき えいこと名乗ったその女性は、日本政府の職員らしいのだ。


 政府の職員が、一般高校生に過ぎない俺たちになんの用だろうか? 三人は観音崎さんとどういう関係なのだろうか? 結婚の約束と観音崎さんに、どんな関係があるのだろうか?


 わからない。まったくわからない。わからないことだらけで目眩めまいがしそうだ。


「もうすぐ目的地に到着しますよ」


 俺が頭を抱えていると、観音崎さんがそう知らせてきた。


 絶賛大混乱中のなか、俺は尋ねる。


「あの……目的地って?」

「政府が保有するマンションです」


 俺の問いかけに答え、観音崎さんが続けた。




「そこが、あなた方が同棲生活を送る場所です」

「同棲生活!?」




 なんの前触れもなく飛び出した爆弾発言に、俺は目を白黒させる。


「ど、どうして、俺たちが同棲生活を!?」

「? 詳細はお聞きになっているはずですが?」


 観音崎さんが眉をひそめるのが、バックミラー越しに見えた。不思議がっているようだけど、本当に不思議がりたいのはこっちのほうだ。どれだけ考えても、三人と同棲する理由や、そこに至るまでの経緯がわからないのだから。


「蓮弥くんには事情が伝えられていないんです」


 混乱しすぎて目を回しそうになるなか、萌花が観音崎さんに説明する。


 観音崎さんが、険しさと悩ましさがミックスされたような表情をした。


「大丈夫なのですか? 政府としては、あなた方に同棲してもらわなくては困るのですが……」

「大丈夫です」


 観音崎さんに答えたのは詩織だ。


「今回のお話をなかったことになんてさせません。必ず大丈夫にしてみせます」

「ええ。あたしたちが二度と離ればなれにならないため、絶対に蓮弥と同棲しないといけないんですから」


 美風が詩織に続く。ふたりとも、いや、萌花も合わせて三人ともが、なにかを決意したように凜とした表情をしていた。


 観音崎さんが息をつく。


「……わかりました。どうか西条さんを納得させてください」

「「「もちろん」」」


 三人がしっかりと頷いた。


「すみません。いったいなんの話をしているんですか?」


 ひとり置いてけぼりの俺は、たまらず観音崎さんに説明を求める。


 前を見据えたまま、観音崎さんが答えた。


「あなた方に、テストケースになっていただきたいのですよ」

「テストケース?」


「ええ」と相槌を打ち、観音崎さんがまたしても爆弾を投下した。




「重婚のテストケースです」

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