左隣さん(ブラックチョコ)は嫉妬する。

 抹茶も旅に出て、ミルクチョコも旅に出た。

 俺は1チョコになってしまったようだ。

 軽口を叩き合えるやつらが居ないのはかなり寂しいな。

 ……抹茶、あの時は馬鹿にしてすまなかった。

 謝りたいが、それはもう叶わぬ話。

 ただひたすらにぼーっとして、旅に出るときまで待っていよう。


 数分後、手が近づいてきた。

 そうか、俺もようやく旅に出れるのか。


『うわー、だいぶ減ってるねぇ。さてと、箱開けてセッティングしますかね』


 その手は俺を掴……、むことはなく、奥にある箱を取った。

 そして箱は開けられる。

 中からはまた別のミルクチョコや抹茶チョコが出てきた。


「わぁー、これが世界かー!」

「ねぇー、広いねー!」

「ぼくたちも旅に出れるのかなぁ?」

「きっとすぐだよぉ」


 ミルクチョコたちは口々に言う。

 ……すぐに旅に出れるだと?


「そんなわけあるかぁ!?」


 つい叫んでしまった。

 ただひたすらにぼーっとして待っていようと思ったのに。

 ミルクチョコたちはびくっと驚いた。


「え? 何このチョコこわっ」

「ねぇー、怖いねー」

「……そう簡単に旅に出れてたまるかよ!?」

「……! それならお兄さん。ぼくたちと勝負だ」

「何をだ!?」

「どちらが先に旅に出れるのかっていう勝負」

「良いだろう! その勝負受けた!」


 とある抹茶チョコの言葉に乗り、よく分からない勝負は始まった。

 ミルクチョコが1チョコ、2チョコと旅に出ていく。

 抹茶チョコも負けじと1チョコ、2チョコと旅に出る。

 一方俺は全くと言って良いほど旅に出る気配がない。


「あれぇー? お兄さん全然旅に出る気配がないねぇ?」

「う、うるさいっ! ……ああもう、うらやましいなお前ら! ちょっとぐらい俺に機会をくれてもよくないか!? ……本当にうらやましいっ!!」




 2月14日、バレンタイン。

 そんなことはお構いなしにチョコたちは日常を送る。賑やかでささやかで、時に寂しい不思議な日常を。

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チョコたちのちょこっと不思議な日常を。 色葉みと @mitohano

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