右隣さん(ミルクチョコ)は気に掛ける。

 僕の箱が開けられるが外の世界を知る前から左隣にいるらしい彼、抹茶チョコくん。

 彼がその左隣のブラックチョコくんと頻繁に口喧嘩をしていたのは良い思い出だ。

 ……そう、思い出になった。

 抹茶チョコくんは旅立っていったのである。


「……ねえ、ブラックチョコくん」

「……なんだ?」

「……寂しくなるね」

「……そうだな」


 ブラックチョコくんのテンションは珍しく下がっていた。

 まあ、僕も然りなんだけど。


『——おとうしゃん、ちょこたべたい』

『そうだな。バレンタインだしひとつ買って帰るか』

『うん! やったー!』


 その手は僕の方に伸ばされた。


「ブラックチョコくん、僕もそろそろ旅に出るみたい。……じゃあね」

「……ああ。じゃあな、ミルクチョコ」


 僕は手に取られた。だんだんとブラックチョコくんの姿が小さくなっていく。

 1チョコで大丈夫かな? かなり寂しそうにしていたけど。


「……! でも、これなら大丈夫そうだね」


 離れて見ないと分からない、離れたからこそ見えるもの。


 安心して旅に出よう。ブラックチョコくんなら大丈夫だ。

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