アンチ・ベルシキアン・フロント
粟沿曼珠
第1章 Arrival of ruin ~包囲網を突破せよ~
ドルヴォのベルシキアンにABFの本部が包囲され、人類の滅亡の時は目前にまで迫ってきている。この状況を打開する為に陽輝達新兵は戦場に駆り出され、ドルヴォとの戦争に本格的に身を投じていくことになる。
第1話 ある兵士の日常
銃声と爆発、建物の崩落する音——決して鳴り止むことの無い戦の音が、耳を通じて心に殴りかかってくる。
「があぁっ!?」
「たっ、助け——」
「い゛い゛痛いい゛!」
……これもまた、戦の音だ。
最早味方の絶叫なのか敵の絶叫なのかの判別もつかない。だけどそんなことはどうでもいい。
こんな生活が何年も続いてしまえば、悲鳴というだけで戦慄してしまうものだ。
……次あの悲鳴を出すのは、自分なのではないか、と。
「——ああクソッ!」
瓦礫の向こうから迫り来る
銃弾の雨に奴等はなす術も無く蜂の巣にされ、その穴からは赤い蜜が止め処なく吹き出してきた。
「死ねッ! 悪魔共めェ————————ッッッ!!!」
蜂の巣にされ、血肉を撒き散らし、それでも尚迫り来る
頭に浮かんだのは、かつて共に戦った仲間達の姿であった。
「ああ゛ああ゛————————っっっ!!!」
かつての仲間達の、日常を共に過ごしていた時の姿が。
かつての仲間達の、腕や脚、体、そして頭までもが消し飛んだ最期の姿が。
それを思い出す度に強く思う——仲間達の仇を討ってやると。
……最早それは、昔の話なのだけれど。
——嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 死にたいない死にたくない! あんな風に惨たらしく死にたくないっ!
数年に及ぶ戦の中で疲弊しきった頭では、それ以外考える余裕など無かった。
銃口を瓦礫だらけの大地に向け、俺もまたその目を大地に向ける。最早原型を保っていない
それでも己を支配する恐怖が消えはしない。もうずっと、死の恐怖が俺の心臓を強く握って離さないのだから。
戦い、
——何やってんだろう、俺。
数多の国が滅ぼされ、辛うじて残っている国もいつ滅ぼされるかはわからない——いや、滅ぶことが確定していると言っても過言では無いだろう。
どうせ滅ぶのなら戦わず、死ぬ時まで地下で安穏に暮らしていきたい。なのにクソ上層部共は強制的に俺達を地上へ送り、自分達は
何も知らず、ベルシキアンの死に狂喜乱舞し、俺達に罵詈雑言を浴びせてくる民間人共も、上層部と同様にクソだ。
——何で俺、あんな奴等の為に戦っているんだろう。俺は何の為に生きているんだろう。
それでも戦わなければならない。上層部がそう命令するから。死にたくないから。
最早意志も、己の進むべき道も無い。あらゆる方向から降り注ぐ暴力に耐え、ただ言われるがままに動く人形に過ぎないのだ。
装甲の中に機械の声が響き、外界を背景としたモニターにここ一帯の地図が表示される。赤い点がここに来いと何度も何度も明滅している。
いっそ行かない方が楽か——という考えがいつも通り過ぎり、しかし己の心を殺して進み始め——
けたたましい警告音が装甲の中に満ちた。体がびくりと震え、機関銃を構えて周囲を睥睨する。
モニターを一瞥すると、そこにあったのは黒い点であった。禍々しく明滅するそれは、兵士達の死の象徴であった。
——
しかし、最早手遅れであることはすぐに分かった。
モニターに表示される地図の向こう側——瓦礫の道を、禍々しい死が歩いていた。
黒い豪奢なドレスを纏ったうら若き『黒蝶』のベルシキアン——コードネーム、『トーテンタンツ』。
戦闘が下手なベルシキアンの中では珍しく戦闘が得意で、100年以上前から数多の人間を殺してきた存在である。
奴は次第に早足になっていき、こちらとの間合いを徐々に詰めていく。仲間に信号を送り、機関銃を奴に向ける。
それを認めた黒蝶は右手で自身の左腕を掴み——引きちぎった。それを横に一振りすると一瞬にして燃え盛る炎の如き剣へと変わり、また左腕は見る見るうちに服ごと再生した。
絶叫と共に銃を撃つと、奴は横に跳躍して銃弾を躱し、廃ビルの壁を蹴ってこちらへと飛んできた。
——クソッ! こっちに来るのかよ!
機関銃を放り投げ、背負った剣を手に取って待ち構え——
「——ッ!?」
しかし黒蝶は自らの左腕を廃ビルへとゴムのように伸ばして掴み、一瞬にして俺の視界から消えた。
「どこに——」
振り返った瞬間にモニターを突き破ってきたそれを認知することはできた。
だからといって、それに対処できる訳は無かった。
次の瞬間には顔面に突き刺さり、モニターが赤く染まった。そのまま俺は倒れて仰向けになる。
理解し難い状況だが、はっきりと分かることもある——俺は今から死ぬことだ。
その事実と生まれて初めて感じる激痛に絶叫を上げる——が、僅かながら不思議と安心感も感じてしまった。
頭に突き刺さったものが引き抜かれ、その時初めて黒蝶の剣であると気付く。次の瞬間には首の辺りに激痛が走り、後頭部に軽い衝撃を受けた。最早絶叫は聞こえない。
赤いモニターの向こうには、青い空が見えていた。
——やっと、終わる。凄く痛くて、苦しいけど。
——なぁ、皆はあの青い空にいるのか?
アンチ・ベルシキアン・フロント 粟沿曼珠 @ManjuAwazoi
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