第2話

 デートの待ち合わせ場所はいつものカフェ。二宮にコーディネートしてもらった服はサユにはちょっとだけ大人っぽい。気に入ってくれるだろうかそれだけが心配で俯いたまま足元ばかりを見つめている。


『わあ、いいね。』


 目の前に現れた紫苑はサユをみて微笑むと頷いた。

良かった。サユが照れて笑うと彼はサユの手を繋いで歩き出した。いつもなら人目につく場所で手を繋ぐことを紫苑はあまりしないけれど今日は珍しく手を取ってくれる。暖かい手に触れてお互い視線を交わして微笑みあう。



 デートは植物園、二人が花が好きというのもあり、また人気が少なくて歩きやすい。色んな植物を見ながら会話を弾ませて、時々良い雰囲気になることがあってサユはもしかしてとその度に緊張した。でもそんなことは起きず自分の過剰な期待にうんざりしていた。なんだろ・・・一緒にいるのに意識ばっかりして。


 日が暮れて公園奥のベンチで座り込むと紫苑は背もたれに体を預けて天を仰ぐ。


『疲れちゃった?』


 サユの言葉に笑顔を見せて紫苑は首を横に振る。


『そんなことないよ。楽しかった。新種の花も見られたし。』


『そっか・・・。』


 サユが両手を伸ばしてストレッチすると紫苑はベンチにもたれかかったままサユのほうへ体を向けた。


『今日はどうしたの?どっか上の空で。デートに誘ってくれたのだって初めてで、来てみたらいつもと違うし。ずっと緊張してる。』


 全部お見通しだった。サユは大きくうなだれると苦笑した。


『ご、ごめんなさい。・・・笑わないで聞いてくれる?』


『うん。』


 紫苑が姿勢を正したのでサユも座りなおした。


『あのね、紫苑さんはこんなこと思わないのかも知れないけど。私、ちょっとアセってた。自分ばっかりドキドキして・・・他の子の恋愛話聞いてたら、やっぱり自分から行かなくちゃとか聞くと色々考えちゃって。なんか馬鹿だよね。』


 紫苑は何も言わず、ただ頷いた。


『自分が遅れてるのかな?とかね。怖くなったりして・・・紫苑さんは大事にしてくれてるから大丈夫なはずなのに、気持ちばっかり走っていってしまって。でもね、キスしたいとか思っても・・・ドキドキが止まらなくて、こんなのでできるわけないのにね。』


 私、馬鹿だなあ。とサユは独り言を呟くように俯いた。紫苑はうーんと唸るとサユの顔に触れた。


『サユさんは正直者、一生懸命。恋ってこんなに素敵なんだって思うよ。キスしたいのはサユさんだけじゃない。僕だって抱きしめたくなるし、色々考える。でもさ、そういうのって二人でするでしょ?だからお互いのフィーリングが合えばいいなって。

ちゃんと気持ちがぴったりあって・・・。』


 紫苑の言葉にサユは驚いて笑う。彼も同じように悩むことがあるなんて頭の隅にも考えたことがなかった。自分だけじゃない、その気持ちに今まであせってた自分が恥ずかしい。


『そっか。』


 うん、やっぱり皆それぞれ違うんだよね。そう思って顔を上げると紫苑の手がサユを引き寄せた。急に近づいた距離にサユは目を大きく見開いて彼を見る。


『フィーリングだよ?』


 紫苑の顔が近づいてサユの頬にキスをした。


『キスは目を閉じるものだよ。』


 突然の展開にサユは驚いていたものの紫苑の目を見て頷いて目を閉じる。今度は左頬にキスが降りてくる。


 紫苑の指がサユの唇に触れて、指先が輪郭をなぞると顔が近づいた。ほんの少し触れるだけのキス。唇が離れてサユは両手で唇を隠した。


『キス・・・。』


 その言葉を飲み込むようにサユの耳まで真っ赤に染まっていく。紫苑は嬉しそうに笑うとサユの両手をそっと外した。


『これからもっと二人で経験するんだよ?あせらなくても一緒に進んで行けるから大丈夫。ね?』


 サユは頷いた。早くなっていく心臓の音はきっと彼にも聞こえてる。恥ずかしくて俯くサユの顔を上げさせて、紫苑はサユの手を取り自分の胸に触れさせた。暖かい胸でドッドッと大きく鼓動が響いている。


『好きな人に触れるとドキドキする。』


『うん。』


 二人見つめあうと噴出した。


『そう、だから大事にしようね。』


 紫苑の言葉にサユは頷いた。



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