ハートビート
蒼開襟
第1話
『そういや、付き合ってるんだって?』
目の前に座っていた
二宮はサユの幼馴染、
『うん・・・な、内緒だからね?』
誰にも内緒にしていても見ればわかることはある。サユは人差し指を口元に近づけて顔を赤くした。それを見て二宮がケタケタ声をあげて笑う。
『わかった。でもさ、あいつも結構オクテなんだ?』
『え?』
二宮はサユに顔を近づけると耳元で小さくささやいた。
『だって・・・キスもまだでしょ?』
その言葉に火がついたようにサユの顔が赤くなる。予測もしてないことにサユの耳まで赤くなって二宮は噴出した。
サユは両手で顔を押さえて二宮に抗議するも声にならなかった。
『ごめん。そういうのも素敵だって。恋ってそれぞれ時間の流れ方が違うし。』
二宮はそう言うと椅子の背にもたれかかって時計を見てから遠くに視線を投げた。
視線の先のカフェの入り口ではまばらに人が入ってきている。その中の一人、恋人の水無月が二宮を見つけると軽く手を上げて微笑んだ。彼女は嬉しそうにはにかむとサユに向き直り、サユの頭をポンと叩いた。
『そろそろ行くよ、じゃあね。』
水無月の元へ行ってしまった二宮の背中を見ながら、サユはため息をつく。
大人だなあ・・・二宮はいつも素敵で仲良くなってからはお姉さんのように接してくれている。いつも塗るリップの色が少し赤くなったのも彼女のおかげだ。
恋はまだ始まったばかり、といってももう一年も経つ。
彼と二人でいる時間が増えて自分ばかりがドキドキしているんじゃないかと気になっては誰にも言えずにいる。言わずとも二宮はお見通しのようだけど。
ああしてせっつかれることは誰でもあるのかも知れない。自分らしく、そう思っても急がなくちゃいけない気もしてサユはアイスティーを飲み干した。
腕時計に視線を落として、もうそろそろだとサユは姿勢を正し髪を整える。
鏡を取り出してリップを確認すると目の前に
サユは鏡を鞄にしまい紫苑を見上げた。
初めて会った時よりも少し長くなった髪に今日は珍しく眼鏡をかけている。どこからどう見ても格好良く見えてサユは俯いた。
う、うわーかっこいい。頭の中で言った言葉なのに紫苑が噴出したのでサユは驚いて顔を上げた。
『い、今、声に出てた?』
『出てないよ。でも、そんな可愛い顔ちゃだめだよ。』
『え!』
紫苑はごめんと笑うとサユの手を握った。
『他の人には見せちゃだめだよ?』
サユの心臓が跳ね上がってまた俯くしかなかった。
真夜中、一人ベットに座り込んで今日の一日を思い出す。二宮は紫苑をオクテだと言ったけど、どうにもそんな気配はない。ただサユには何もしないだけで・・・そう行き着いた時なんだかムッとしてベットに突っ伏した。
なんでキスしないんだろ。私がまだ子供っぽいからかな?それとも他の子みたいに綺麗じゃないから?いつも優しく接してくれている紫苑を思い出してみても、やっぱり自分が悪い気がする。
カフェで彼と話しているとき、少し離れた席の女の子たちが横目でチラチラ彼を見ていた。彼は気付かないのかサユの顔しか見ないけど、軽く挨拶されれば笑顔で答えているのを見るとやっぱりこの人はモテルんだと思ってしまう。
クッションに顔をうずめて一瞬でも紫苑にムッとした自分が嫌になった。どう考えたってペースを合わせてくれてるはずなのに。
サユは起き上がるとベットの傍に置かれた携帯電話を引き寄せた。メール画面を呼び起こして彼とのやり取りを確認する。どれも優しい言葉ばかりが並んでいる。
二宮は時間の流れが違うと言ったけど、それでも彼に近づくために勇気を出してみてもいいのかもしれない。
キスしたいなんて、はしたないかもしれない。でも、と唇を結ぶと携帯電話のメール画面を開いた。震える指先でデートの申し込み。サユから初めてする誘いに彼が乗るかはわからない。送信し終えて大きく息を吐きベットに倒れこむと、一分も経たないくらいにメールが届いた。
答はイエス。サユは大きく深呼吸をして二宮に電話をかけた。
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