惨劇

彼はみっともなく逃げる。汗と涙と鼻水の混じった汚い顔をしながらね。


「舎弟は!?ヤクザは!?どこだよ!?」


舎弟はともかく、逃げなきゃいけないヤクザにまで助けを求めているようだ。冷静ではない。明らかに。


「どうなってんだ!辺りが全部血だらけじゃねえか!?」


あの部屋からは出た。だがその後に見える光景も同じ。壁には血痕と血文字、床には臓器の数々。

 

外を探すが出口が見えない。


「なんでだよ!?ここはそんな広くねえだろ!何で出口見えねえんだ!?」


根城にしてたんだ。だいたいの内装はわかってる。なのに、出口がない。


「いや、そもそもあの部屋だっておかしい!あんな部屋なかったはずだ!?」


明らかに自分の知っている廃墟ではないとわかってくる。さてどういう事なのだろうか?


「悪、霊…」


「「殺人鬼の噂があってよ」」

「「殺人鬼は悪霊だなんだと叫んで、獄中死したとか」」


サブリーダーの言葉を思い出していく。


「今この状況も、悪霊のせいだってのか!?悪霊が作った現象なのか!?」


頭おかしくなりそうになっている。

頭抱えて座り込む……すると、


「カノタイニロコトナンコエマオ」


なにか聞こえて、顔をあげる。

リーダーの視界には先ほどの悪霊の顔をした人間?が立っていたのだ。


じっとこちらを見て話しかけてきていた。


「ぎゃああああああ!!くるなくるな!」


恐怖に我を忘れ、その悪霊人間の頭に持っていた拳銃を放った。

脳天に直撃し、悪霊人間は血を吹いて倒れた。……動かない。死んだ?


「は、はっはっ……な、なんだよあ、あっけねえ…悪霊にも効くのか」


倒せたことに安堵するが、


「!ダンナダンナ」


さらに悪霊の顔をした生物が現れた。今度は二人。


「!ナタッガヤリヤヲジヤオエメテ!?ジヤオ」

「うあああああ!?」


バンバンとまた拳銃を放つ。残ってる弾丸全て使い、その二人もあっさり殺害。


「はっはっ……弾がねえ」


まだいるとなると絶望的だが……

倒した二人はドスのような、ナイフみたいな物を持っていた。


「次来たら……これで刺し殺す」


それを持つ手は震えている。いや、全身が震えている。


「トオノンナ、ナ」


また悪霊の顔をした者達がわらわらと…


「うわああ!!」


すかさず刺す。刺し殺す。何回も何回も!


「!レクテメヤーダーリ」

「ギャアアアアアア!」


謎の言語を使う悪霊達だったが、悲鳴だけはわかった。

悲鳴をあげる以上、殺せる相手。

それに安堵したか、ドスで全員を刺し殺し手見せた。


…辺りは血の海。リーダーは返り血まみれ。


「は、ははは。た、大したことねえな悪霊なんて…」


「「そう思う?」」


「う、うわああ!!」


最初に会った、両目のない、頭部だけの悪霊がリーダーの背後にいつの間にかいた。

それに驚愕し面白いように飛びはね転がるように倒れた。


「く、くそ!てめえも刺し殺す!」

「「無駄だよ」」


悪霊は近づく。ドスの射程距離だ。


「死ねえ!」


ドスを悪霊に向け、突く……が、

手応えなく、空をさく。


避けられたわけではない。

ドスは、悪霊をすり抜けたのだ。


実体のない悪霊をドスはとらえられなかったのだ。


「な、なんでだよ!?さっきの奴らは刺し殺せたのに!?」

「「そりゃそうさ。だってさっき刺し殺した連中は…」」


突然悪霊はリーダーの視界から消える。

すると、景色が変わった。


血に染まった壁はなくなり、足元にあった臓器の類いはなくなっていた。


いつもの、見慣れたアジトの光景だった。


…悪霊から逃れられた?そう勘違いしただろうね彼は。


でもリーダーはすぐに気づく。

見慣れた光景の中に、見慣れた人物達の……


大量の死体があったから。



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