悪夢

「あの場におれはいなかった…で、通すしかねえな」


リーダーは現場から逃亡した。舎弟どもを見捨てて。


「おそらく組長も来るはず…そういう話だったからな。現場見たら組員総出で奴ら皆殺しにされるかもな」


巻き込まれるのを恐れ逃げたようだ。


「…厳しいかもしれねえが、知らぬ存ぜぬで通すしかねえ。運よければ見逃して貰えるかもしれねえからな。舎弟の監督不行届ってことで沈められる危険もあるが…」


一人でブツブツと、内心焦ってる証拠だろう。いかにイキっていても、ただの一人の人間風情だ。ヤクザ総出で狙われたら死あるのみ。


「念の為…持ってきたが、」


リーダーの手にはチャカ、拳銃が握られていた。おもちゃじゃない本物。

気に入られた組長にもらったらしい。


「弾丸は……もらったこの銃に入ってる分しかねえ。計六発か。仮に一発で追手を仕留めれたとしても…無駄遣いはできねえ。使わなきゃいけない状況にならなきゃいいが…」


考えながらイライラが募ってくる。


「うまく行ってたのに!あの間抜け一匹のせいで!」


瓦礫を蹴飛ばす。だが固い瓦礫だ。蹴った事で足を痛めてしまう。


「いっつ!!クソが!」


バカまるだしである。自分でやってちゃ世話ない。

そんなバカには天誅がいずれくだる。


「ん?……やべえ組長だ」


廃墟近くに車を止め、年配のジジイとツレのヤクザが車内から出てきたシーンを目撃したのだ。

ジジイが組長だろう。


「マズイ…今からじゃ逃げきれねえ。隠れるしか…」


まだ廃墟内にいるため出るに出れないのだ。


「どこか隠れるところは…」


キョロキョロしてると、真っ暗で何も見えないが……部屋?のような空間を発見。


「とりあえずここに!」


入り込みしゃがんで息を殺す。


騒いでる舎弟共の声。スタスタ足音。

組長とその部下達が入っていったように見える。


話し声が聞こえる。内容はわからない。


「殺されんな奴ら。まあどうでもいいが」


………


………


「争ってるようには聞こえねえな。うまくやってるのか?」


話し声は聞こえるが、怒号とかは聞こえない。謝罪して許してもらえたりしてるのだろうか?


「…なにを、やって、るんだろうか…」


突然眠気を感じるリーダー。そして…





「はっ!?」


目を覚ます。この状況で眠っていたのだ、信じられない事に。


「図太いにもほどあんな我ながら。だが…」


さっきと自分の状況は変わってない。寝てる間に掴まったりしたわけではない。


「諦めて帰ったなら…今のうちに逃げるのも…」


「「どこに逃げるの?」」


「一一!?」


部屋に響く声。音が反射して全体に響いている。


「だ、誰だ…」


ヤクザがまだいるかもと思い、小さい声でたずねてきたね。


「「だれ?ここの住人さ。昔っからのね」」


「知らねえ…そんな声したやつは知らねえ」


「「君のお仲間じゃないんだよ。何十年もここに住んでるんだ。だから知ってるよ。君らが悪どい事してることとかさ。いいんだけど、安住の地であるここで揉め事してほしくないんだ」」


「揉め事…?おれのせいじゃ、」


「「こっちはこっちで楽しんでるんだ。ボクちゃん以外はねえ〜楽しむの禁止」」


「楽しむ?何を…」


「「人を弄ぶの」」


ゾッとしたか、リーダーは立ち上がる。


「ど、どこだ!?どこにいやがる!」


「「顔見たいの?いいよ」」


突然部屋に明かりが灯る。暗すみで、部屋としか認識できてなかった内部が明らかに。


「うっ!?ぐっおええええ!?」


部屋の壁という壁に黒ずんだ大量の血痕がシャワーでかけたかのように色づいている。後退りすると、グニャッとこんにゃくでも踏みつけた感覚。見ると、臓器らしきものが辺り散らばっている。踏みつけたソレは丸い風船が萎むようになってから血を吹き出す。


「おげええええ!?」


あまりの衝撃に吐きそうになる。

座り込み、ふと視界に写った壁の一部には、血で文字が描かれている。


タスケテ。


冷や汗が全身から吹き出す。恐怖に顔が歪んでいく。


「「大丈夫かい?調子でも悪いのかい?」」


リーダーは思った事だろう。そういえば、声の主はどこだと。

声は彼の後ろから聞こえる。


………


恐る恐る彼は振り返る。


「「ヤッホー」」


彼の視界には……白髪のロン毛で目玉がなく、目の付近から血が流れてる、口の裂けた顔だけの悪霊の姿が見えていたことだろうね。


「うぎゃああああああああああああああああああああ!!」


大絶叫の後、足をばたつかせ上がらない腰のまま必死で逃げ出していった。


「「気をつけてね〜。無理だろうけど」」



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