異変

「ん?いつまで伸びてんだこいつ」


リーダーは自らが投げ飛ばした仲間のヤンキーがいつまでも動かないから気になったみたい。


「打ち所悪くて死んだとか?」


サブリーダーは軽口聞いて笑う。


「もしそうなら埋めてこいよ」

「えっ…?」


さすがにドン引きしている。仮にも仲間が死んでた場合の第一声がそれとは。心配するなんて感情は微塵もない。


「死ぬといえば、この周辺殺人鬼の噂あるんだよな…」

「殺人鬼?…ああなんか聞いたことあんな。でも捕まったろ」


この寂れた廃墟に人が寄り付かない理由の一つだ。何も廃墟だからってだけではなく、数週間ほど前に猟奇殺人鬼がこの周辺で現れ、被害があったとのこと。

だがリーダーの言う通り、すでに捕まってる。


「別にそんなことでビビリやしねえけど、もういやしねえ奴の事でビビるわけねえだろ」

「いやな、その殺人鬼…悪霊だなんだと騒いで情緒不安定だったらしく、牢で獄中死したらしい」

「……で?」

「悪霊ってのマジなら…怖くねって話」


リーダーは呆れた顔をする。


「アホらしい。死刑が嫌で出任せ言って、死刑の恐怖でおかしくなって、自殺したってだけだろ」

「でも、そいつの前にも猟奇殺人鬼がいたって話もあるし、この辺に人が寄り付かないのはそういう……」

「だからお前ここを根城にするって言った時、不服そうだったわけか」

「まあ…リーダーには言ってもバカにするだけだろうし言わなかったけど」

「たりめえだ。そんな霊だのなんだのいもしねえもんにビビるなんてあり得ねえ。まあおれさまは生まれてこのかた、恐れなんてものは持ち合わせてねえけどな」


悪霊が怖い怖くない以前に存在を信じてない様子。…ならば、現実に見るようなことがあれば…どうなるだろうね?


「ん?」


突然、投げ飛ばされ気絶したと思われてたヤンキーがスッと立ち上がり、直立不動。


「お、生きてたか。まああたりめえだが…それより今から強盗でもなんでもしてきて金用意しろ。組の連中が来るぞ」


……黙ったまま動かない。


「聞いてんのか!?ああ!?」


転がってる椅子を蹴り飛ばし、怒号を発するリーダー。

他の連中はその態度にビクッとしていた。


「舐めてんのか?殺すぞ。あっ?」


殴り飛ばそうかと、ヤンキーの元へ近づこうとしたら……


ヤンキーはナイフを取り出す。


その光景に皆驚く。


「……なんの真似だ?おれ様に楯突こうってのか?」


一触即発の空気……

見かねたサブリーダーが、


「お、おいナイフ下げろ。冗談じゃすまねえからさ。落ち着け」


投げられたヤンキーがキレてヤケを起こしたと思ってるようだが…


ヤンキーは口からヨダレをたらし、白目。肩を揺らしながらゆらゆらしている。


明らかに普通ではなかった。キレての行動にはとても見えない。


そんな様子に気づく集団。

だが……


「おいおい~。兄貴分のお通りだゼえ~」


ひりついた場面に、何も知らないのんきな男がやってきた。

この男がリーダーの言っていた組の者、つまりはヤクザだ。


グラサンかけて顔にキズがあり、パンチパーマ…典型的な見た目。


組の若頭、ナンバー2的な立場の者らしい。なにやら酔っ払った様子。


「おいおい坊っちゃんよー。組長おやじに気に入られてるからってよ~ヒック…。約束の金遅れんなら詫びいれるのがスジじゃねえかよお」


さすがにマズイと思ったか、リーダーは、


「組の若頭だ…おれが相手しとくから、てめえはあのナイフもったバカを抑えとけ」

「えっ!?ちょ、リーダー!?」


サブリーダーに任せ、若頭の元へ向かうリーダー。


「わりい兄貴。ちょっと立て込んでてよ…すぐ用意させるからちょっと表に…」

「んー?なんだ兄ちゃんヨダレたらして」


若頭がナイフもったヤンキーに気づき話しかけた。


「やべっ…」


明らかにおかしくなってる奴だ。相手がヤクザだろうがお構い無しかもしれない。


ただでさえ金が遅れて不機嫌な相手に粗相を働けば……

さすがに焦る。


……だが、粗相なんてレベルではなかった。

「おい聞いてんのか兄ちゃ、」


……ドスッ

小さく鈍い音がした。

若頭の腹からドクドクと、血が流れ出す。


ヤンキーはやってしまったのだ。

ヤクザを、ナイフで刺した。


「の、のぎゃあああああ!!い、いでえええええ!!」


刺された事で、情けなくしりもちついて倒れる。

ヤンキーは無感情、なんの反応もないまま、若頭に馬乗りになり…


一突き、二突きと、追撃のナイフを刺しまくる。


「ギャアアアア!や、やめ!た、助け……」


声が聞こえなくなる。だがそれでも手を緩めず何回も何回も刺す。

刺す度に血が舞い、真っ赤な水溜まりが出来上がる。


周りは唖然として動けなかった。


ようやく刺すのを止めるともぞもぞと、死んだ若頭のはらわたをあさりだす。完全にイカれてる。


「り、リーダー…どうし、あれ?リーダー?」


リーダーの姿はどこにもなかった。




次のpartへ。


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